華やかで、ハイスピードな夏野菜
夏の畑は過酷だが、目にも楽しい。もちろん味も。収穫までのスピードも速いので、数日ごとの山盛りの収穫物はやりがいを感じる。
この夏もスーパーではほとんど野菜を買わずに過ごすことができ、心の中でガッツポーズの筆者である。
今年は収穫した夏野菜を使って、「山形のだし」づくりにも初めてチャレンジした。
自転車で少し走れば農地が点在する東京都練馬区。
筆者(埼玉県狭山市出身)にとって、練馬区に住むまで農業は自分とは関係のないものだった。それが、練馬区の練馬大根引っこ抜き競技大会や農業体験農園をきっかけに、徐々に都市農業に興味を持つように。
“農業素人”の筆者が、農業体験農園で奮闘する様子を春夏秋冬にわたってレポートします!
今回は夏編です。
夏の畑は過酷だが、目にも楽しい。もちろん味も。収穫までのスピードも速いので、数日ごとの山盛りの収穫物はやりがいを感じる。
この夏もスーパーではほとんど野菜を買わずに過ごすことができ、心の中でガッツポーズの筆者である。
今年は収穫した夏野菜を使って、「山形のだし」づくりにも初めてチャレンジした。
キュウリは気温が高い日が数日続くと、予想していたより大きく育ってしまい糸瓜(ヘチマ)のようになってしまう。これまで育ちすぎたキュウリは内側のタネをこそいで炒め物にしたりもしたのだが、だしも良いと人から聞いて、やってみたのだ。
「山形のだし」は前から見聞きしたことはあっても、野菜とご飯って合うのかしら……?とずっと敬遠していたのだが、実際に作ってみたら「なにこれすごいおいしい!予想外に(と言ったら失礼だが)ご飯とあう!」と感動した。
農繁期のスピード料理として親しまれたという「山形のだし」。夏野菜のナスやキュウリ、ショウガ、青シソ、ミョウガなどの香味野菜、それを昆布やカツオぶしなどの出汁で混ぜるだけ。
酷暑、夏野菜は体を冷やしてくれる。同じ季節に農作業の間に昔の人も食べたのだろうし、レシピを通じて時空が繋がった感がなんとも言えなく、先人の知恵に感謝だ。
野菜が高騰する昨今、「たくさん獲れすぎたから、新しい料理にチャレンジしてみよう」というのも農業体験農園の醍醐味である。
夏は、日の出の45分前には電灯が要らないほど薄明るくなってくる。時間差で撮った写真を並べてみると、朝陽が空を染めていく様子が美しい。
上の写真は、ふと午前3時半ごろ目が覚めて農園に行った日の空である。翌日以降にネギ植えが控えているのに、植えるべき場所に雑草がモリモリなのが気になり、加えて筆者は雑草を抜くのに地面がカラカラよりは多少しっとりしているのを鎌で根こそぎ抜くのが好きなので、「よし、(うまく起きられたし)今日だ!」と出かけたのだった。
「日の出・東京・いつから明るい」とググり、3時50分に家を出る(日の出は4時45分とか)。考えてみれば丑三つ時の余韻。電灯と見分けのつかない月と夜明けが共存する何とも言えない朝焼け前の空にやる気を出して、2時間半位で一気に抜いてきた。
同じ場所の比較。左写真:4時10分にスタートして、右写真:5時48分に終了。汗だくだが、朝イチの運動と思えば健康習慣とも言えなくも、ない(無理しなければ)。
この日は、写真をビフォーアフターで撮ろうと思っていたのだが、若干無理をしてしまい、撮影することを忘れるくらいヘトヘトだった。
一応、防犯の意味も考えて「変な人が近寄ってこないように、こちらが変な人に!」と“ちょっとヤバめな空気感・妖怪鎌ババア”と化して、地面に這いつくばりながらザシュッ、ザシュッと(あくまで防犯のためです!)作業する。
この大量の雑草抜きを何かに生かせないか、例えば新社会人の研修に援農というか、都市農業の農家さんや耕作放棄地へ派遣し、どのグループが雑草抜きを効率的・平和的・協力的に早く終わらせるかを考えさせたりしたら、仲間としての結束も知恵を絞るプロセスもあってとてもいいのではないか、誰かこのアイデア採用してくれないか、あ、まずはJAさんでやったりしないかなあ……とか、謎の充実雑念タイムで雑草を刈っていく。バケツ20杯は抜いただろうか。
雑草といえば。個人的に「プチプチまるまるちゃん」と呼んでいたスベリヒユ。
隣の区画の方から、「これ、昔は食べていたみたいですよ。」と聞いたことがあったのだけれど勇気が出なくて食べたことはなかった。が、8月中旬に義理の弟の手料理を食べた際「おいしい、なにこれ?」と聞いたら「あ、オクラとスベリヒユの和え物っす。」との返事。ずっと興味あったけど、勇気が出なくて食べたこともなかったが、キッカケをもらえそこから自分でも作って食べてみることに。
このスベリヒユ、おいしい上に、各種ビタミンやミネラル、ポリフェノールやアミノ酸、カリウムなど栄養素含むスーパーフード、と紹介しているサイトもあり、すでに我が家の食卓の定番に。友人たちに紹介したのだが、「安全なスベリヒユ」がなかなか手に入りにくいと聞き、改めて畑のありがたみを感じる。
生えているスベリヒユ。それをよく洗って(何回か水を変える)、さっと湯がいて。ナスとベーコンのパスタに入れたらぬめりがキノコみたいでいい感じだった(が、子どもには風味が苦手と言われた)。別の日はキュウリの和え物に入れている。すし酢と胡麻であえるだけ。
左)今年はツルの特性を理解して育てられたので、ミニカボチャがうまくいった。栄養を、狙ったところにちゃんと届けられた。大きさが揃って、1個当たりがほぼ400gだった。
中)ナスは梅雨の初めから夏の終わりになっても美味しく頑張ってくれている。安定感があって好きだ。
右)トウモロコシは今年、全体的に細かった。雌花にちゃんと受粉しないと歯抜けのトウモロコシに。他の区画の人に愚痴ったら「雄花を雌花に手でちゃんとつけてる人もいますよ」と。来年の課題だ。
左)ミニトマトのグラデーションの美しさ。あまりに可愛くて、うまく写真が撮れないかと格闘してしまう。
中)エダマメは、同じ枝に収穫期と成長中のさやが混在する。貧乏性のため、育ったさやだけをとって「一株から最大量を収穫する」ことを目標にしている。
右)日焼けで傷みそうなカボチャ3個を収穫し、一気にカボチャのチーズケーキ(一部はポタージュにしたが)を大量に作った。
左)この夏は猛暑で大きく成長せずに落ちてしまうピーマンが続出。梅雨明けから8月前半くらいまでは調子良かったのになあ。
中)トマトが本当に今年はうまく育ち、トマト好きな娘に食べ放題にできる嬉しさがあった。「今は豊作の時期だから、好きなだけどうぞ!」と言える、小さな喜び。
右)ジャガイモも昨年は不作だったが、今年はごろごろできた。大きいのは手のひらサイズ。
雨の中収穫に行った時のトマト。目にもみずみずしく、帰宅して食べた時のおいしさもひとしお。右は雨上がりの夕日。清々しい。
今年は雨に恵まれた。昨年は筆者の住む地域は28日連続で雨が降らなかった(筆者調べ)ので、夏野菜が不作すぎて落胆し、今年の農業体験農園の延長を考えた一因だった。カラッカラに乾いた畑への水やりは、熱いフライパンに水を垂らしているような途方もない気分になった。農園を始める前の自分にくらべて、良い雨が定期的に降ることへの感謝の気持ちが何倍も増大している。
今年は梅雨明けまでが、いわゆる一昔前の夏らしい夏だったような気がする。「え。まだ梅雨明けていないのにこの気温?」みたいな話をした人も多かったであろう。野菜たちも同じように感じていたようで、梅雨時期から「わーい夏が来たー!」と言わんばかりで、今年は梅雨明け過ぎまでにすでに夏野菜がたくさん採れたことも記載しておく。
昨今は梅雨明け前くらいの「小夏」と、それ以降の過酷な「大夏」と二分したくなるような気候だ。新聞記事などで、気候変動がついに農業に関わる方の命や健康に影響を及ぼす時代になって来たと知り、本当に恐ろしくなる。
TOKYO GROWNでの取材先の農家さんも、ほとんどファン付きの作業着を着ていたし、ここ数年は筆者も日中にはほぼ畑に入っていない。
これまでは「年齢を重ねて農家を引退」という人が多かっただろうが、これからはさらに「健康を考えて引退」を考える人も増えていくだろうし、単純に作物への影響も出てくる。
先日取材した農家さんは、暑さに強い品種への切り替えや、日除けのネットをはったりしても、雑草や害虫も増えていると嘆いておられた。
もう一度昔のように「農家さんへ感謝して、いただきます」を合言葉にしたい。
四十路半ばの筆者。昔は「農家さんに感謝して、いただきます」とか「お米には七人の神様が」とか言っていたように記憶しているのだが(祖母由来だろうか?)、昨今あまりそのような言い回しを聞かないように感じる。
お米に限らず、農作物も、そして畜産業、漁業もだが、食べ物は全て予測不可能な自然界を相手にする仕事なわけで、昨今、どれだけの人がそれを感覚として理解して暮らしているだろうか。かくいう筆者も農業体験農園をやるまで野菜が食卓までやってくるプロセスについて、恥ずかしながらあまり深く考えたことがなかった。きっと、自炊しない人はもっとであろう。
また、屋外の気候に対しても、農作物を育てると「気温などの影響をダイレクトに受ける野菜たち」が心配になる。心地よいだろうか、暑すぎてはいないか、水分は足りているだろうか、と気を揉む。
こうやって、自然を気にしながら暮らすのも悪くないと思うようになってきた。
かぼちゃのツルにいたセアカゴケグモ。子どもの人気漫画にも「ガラガラヘビの15倍の毒」と紹介されていた。恐ろしすぎる。
自然の変化で言うと、先日、まさかのセアカゴケグモという危険外来生物が夏野菜の片付けをしていた筆者の区画にでた(!)。まさかの、なんて書いているが、実はSNSに「見た目がまるまるしていて赤い線が入っていてキレイなクモいた」などと投稿したところ、すぐさま昆虫に詳しい友人が「それ、危ないヤツ!!」と電話までしてきて教えてくれたのだった。
美しい収穫物に、気候変動に、危険生物に。日々、喜怒哀楽の農業体験農園だが、体験を通して子どもたちに受け渡す未来のことを、少しではあるが自分ごととして真剣に心配できる大人になれることが少しだけ誇らしい。
次は秋冬のレポートです!
都市農業ライター「畑と私」
広告などの企画・編集・コピーライターを続けてきた傍ら、練馬区での都市農業を楽しんで暮らす。
農業から自然や環境、収穫物を食卓に載せるまでの工夫を考えるのが好き。
趣味は三味線、民謡、盆踊り。