代々続く家業を絶やしたくなかった

埼玉県との県境、青梅市成木地区。急峻な山道を車で上ること約10分、標高約700mの森が中島さん親子の仕事場です。シンと静まり返ったその奥から、かすかに作業車の音が聞こえてきます。
「農家が野菜を収穫し、それを売って生活しているように、林業家も切り出した丸太を毎日市場に出荷し、その利益で生活できるようになることを目指している。俺はわかりやすく収穫林業って言ってるけどね。」中島邦彦さんは、林業一筋45年。一定地域の木をすべて伐採する「皆伐」ではなく、森林所有者自らが伐採、搬出、出荷する「自伐」型の林業家です。息子の大輔さんも企業で働いたのち、4年前から家業を継ぐ形で林業の世界に飛び込み、現在は二人で山の仕事を行っています。
「林業に就いたのは一種の洗脳ですよ」と笑う大輔さん。幼い頃から「長男だから、後継ぎだから」と言われて育ったそうで、サラリーマン時代も、戸建て分譲住宅の現場監督だったというから、林業とはそう遠くない…。「先祖をたどったとき、家がすでに寛文10年(1670)頃から林業を営んでいたと知ったことがきっかけですね。自分の代でそれを絶やすという選択肢もあったわけですが、こんなに続く専業林家の家系なんてそうないですよ。そう思ったらもったいないな、ってね。」
安定したサラリーマンの職を捨て林業家になることを奥さんは渋ったそうですが、何とか説得。「死ぬようなことはない!」と飛び込んだ世界ですが、年収は…。サラリーマン時代の半分以下と、経済的にはかなり厳しい現実に直面しているそう。
それでも林業に対する誇りと、使命感は人一倍強い大輔さん。今はNPO法人青梅りんけんの広報担当として、森林ボランティアの養成や森林体験学習などを通し、林業に対する理解を深めてもらうための活動も行っています。

林業家・中島さん親子の1日

林業家の朝は早く、朝7時半から8時くらいには山へ入ります。午前中は主に伐採作業を行い、午後は切り出した丸太を山から搬出します。山では、邦彦さんがグラップル(ユンボ)を操り、フォワーダ(丸太運搬機)に丸太を乗せていきます。チェンソーでの玉切り(既定の寸法に切断すること)は、息子大輔さんの役目です。日が落ちる頃には山での作業は終了。大輔さんはパソコンで木材価格のチェックなどをしてから、家族の待つ家へ帰って行きます。
邦彦さんは「あいつは通いの“サラリーマン林業家”なんだ」とポツリ。その言葉が妙に印象的でした。

自伐という形での林業経営

大木に成長するまで50年、60年待ち、大型の機械を使って一気に伐採するこれまでの林業とは違い、中島さん親子が行っている自伐は、少しずつ伐採するため、長期にわたり森を活用できるのが特徴です。昨今、切った木をそのまま放置する「切り捨て間伐」という新たな問題も発生していますが、いわゆる間伐材を出荷する自伐は、「切り捨て間伐」解決の一助になるのでは、と期待されています。
「山に木を残すので、環境への負荷も少ないはずだ」と邦彦さん。「森は人にとって大事な水や空気を作り出す。その森を守るのが我々の仕事なんだ。」
こんな林業家としての誇りが、きっと次へと続く林業を育てていくのでしょう。

林業家

(父)中島 邦彦さん (息子)大輔さん/NAKAJIMA Kunihiko(FATHER) Daisuke(SON)

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