くつろぎは、作れる

一日の中で一番好きな時間はいつですか?
何をしているときがくつろげますか?
推理小説を読む、刺繍をする、ギターを爪弾く、夫婦でゆっくりグラスを傾けて語り合う、日々の暮らしの中でできたら最高ですよね。
しかし、結局、平日の貴重な自由時間は、スマホ片手にだらだらしてしまったりで、心の底からくつろいだ実感が持てないことも多いのではないでしょうか。

くつろぐために編み出したコツと、そのためのレシピ

今回は、私がくつろぐために編み出したコツとそのためのレシピをお伝えしたいと思います。
料理をしてくつろげるだなんて、それは料理が好きだからであって、そうではない人には単なる家事負担ではないかと思った方も、どうか我慢してもう少しお付き合いください。

料理ではなくアイロンがけでも、掃除でも、家事をくつろぎにするためのルールは以下のようなものです。
▪朝から「楽しみ」にし、自分にとってのくつろぎ行為だと「信じる」
▪やってもやらなくてもよいこととし、決して「義務化しない」
▪急がず「ゆっくり」取り組み、「工程は最小化」する
▪家事として同じ行為をするときと「違うモード」にする

たとえば、義務だとすると面倒なサトイモの皮剥きをするとします。
まず、「今夜はゆっくりサトイモを剥くのだ、それが楽しみなのだ」と自分に言い聞かせます。時間が取れなかったり、やる気がでないときもありますが、作業を延期しても、ただ冷凍保存するだけにしても良いし、食材は他にもあるので困りません。

夜、家事を片付け、照明を暗くし、あとは寝るだけの状態にします。台所ではなくリビングのテーブルに新聞紙を広げ、好きな音楽やラジオを流しながら、ゆっくりとサトイモの皮を剥いていく。土の香りや感触を楽しみ、手芸をするようにのんびり作業します。蒸す間に好きな飲物を飲み、すりこぎやマッシャーで潰し軽く塩味をつけたら、容器に入れて、ゴミを片付けて、おしまい。
ドラマ1本見終わる程度の間に、仕込み作業をひとつするだけです。夜更けに一人じっくりやるのもよし、家族に声をかけて「皮剥き大会に参加する人」を募集しても楽しいと思います。

ちなみに私の母は「紅葉狩りしない?」といって洗濯物の白物と柄物をわけさせたり、「温泉旅館ごっこ」といって子供らを女将や仲居役にしていました。布団干し、買い出し、料理から風呂掃除までしっかり働かされますが、おひねりがもらえたり、夕食は刺盛りで、アカペラのカラオケ大会もあります。旅行に連れていけない代わりの苦肉の策だったようですが、楽しい思い出です。

遊びと仕事、喜びと哀しみ

文化人類学者のレヴィ=ストロースは著書『月の裏側』で、日本の近代的な発展の中に、なおも残る「労働と生活の融合」への感動を述べています。季節ごとの家仕事や、食材の仕込みは「仕事」であると同時に、親しい人と仕上がりを楽しむ「遊び」でもあります。
今の私達の暮らしは、オンタイムとオフタイムを二元的にとらえて、ワークライフバランスを論じる西洋的な価値観に支配されがちですが、小さな工夫で仕事や家事から小さな楽しみを見出すことができると思っています。

温泉旅館ごっこを考案した私の両親は、「悲しいことがあったときこそ、必ず楽しいことをする」ことも大切にしていました。どんなささやかなことでも楽しみを添えておけば、苦しみをトラウマにしないで済むのだという教えを私は今もできるだけ守っています。

すり流しレシピ表

夜更けの作業で、朝のスープを作るのはいかがでしょうか。
すり流しというのは、野菜などの食材をすりつぶして、出汁でのばしたものをいいますが、和洋中の概念にとらわれず好きな風味で試してみてください。
今回は分量レシピではなく、レシピアイディアを表にしてみました。
これらをベースに、とろみを補うのにナメコを入れてみたり、温泉卵を落としたり、牡蠣や白子を足してみたり、工夫は無限大です。
なお、記事TOPの写真は、ナガイモ(長芋)を軽く叩いたものとお豆腐屋さんの豆乳、ホシエビの出汁を少し、酢と醤油を一垂らしに、ラー油とネギと即席麵を砕いてトッピングしたものです。

作り方は、以下のとおりです。

1.野菜をすりつぶして保存しておく

・サトイモ 
蒸してからすりこ木などで粗く突きつぶす。つぶす場合は切れ目をいれて皮をつけたまま蒸し、熱いうちに剥くと楽です。皮を剥いて蒸したものは、炒め物などのおかずに使うと良いです。

・カリフラワー、カブ
切り分けて出汁と炊いてハンドミキサーで撹拌してすりつぶします。
後から牛乳などを足せるように、素材と“ひたひた程度”の水で加熱し、とろっとしたスープの素を作るイメージです。タッパーやピッチャーで保存。

・レンコン
皮を向いてすりおろします。おろす前に水にさらす人もいますが、とろみも欲しいので私はさらしません。出汁とあわせてスープの素にして冷蔵、またはすりおろしたものを小分け冷凍することもできます。

2.出汁・牛乳等と合わせる

素材をお好みの出汁と合わせて温めます。私は和出汁は煮干し、チキンスープは冷凍濃縮出汁を使うことが多いです。スープの素状態のものには、牛乳、追加の出汁、お湯などを足して、好みの塩梅にします。

3.味とコクを足す

味付けに必要なものは、塩味・旨味、お好みでコクの3つのベクトルです。
塩と出汁があれば、塩味と旨味が決まっていて、好みで甘みや脂肪分などのコクを足したり、旨味を重層的にしたりして味が足されていくことになります。出汁がなくても、素材の旨味だけ、海苔や鰹節をふりかけたり、乳製品などの動物性の旨味を追加したり、発酵食品などでも旨味を補うことができます。

できあがりの塩分濃度は、好みによりますが、0.6%から1.1%くらいをイメージします。ごはんを入れておじや風にするときはその分味を濃く、バケットを添えるときはバケットの塩分もあるので少し薄くしてもよいかもしれません。好みを探ってみてください。

素材の下味はほんの少し、味がついているかなというくらいにしておくことが多いです。400グラムくらいの素材に1~2グラム、ひとつまみかふたつまみの下味をつけておき、牛乳を120cc足すのであれば、またそれに応じて塩や調味料で塩味を足します。お塩ならひとつまみ(人によりますが1グラム程度)、薄口醤油なら小さじ半分程度など、お椀一杯で自分が足したい塩分の量がイメージできるようにしておくとよいと思います。
粉末だしや白だしは塩味がついているので商品に応じて加減して使ってください。和出汁ベースにオリーブ油をひとたらしするのも合いますし、油分を足すときは塩味も少し強くすると塩梅が良くなります。

組み合わせ例の一部を紹介します

カリフラワー+チキンスープ+オリーブオイル

レンコン+煮干し出汁+白味噌

バターナッツカボチャ+アーモンドミルク+オリーブオイル

カブ+乾燥シイタケの出汁+アーモンドミルク+カブの葉

カリフラワー+味噌+酒粕+牛乳+オリーブ油

カリフラワー+チキンスープ+パルミジャーノチーズ+オリーブ油

サトイモ(粗く突きつぶしたもの)+ブルーチーズ+奈良漬+たくあん

サトイモ(粗く突きつぶしたもの)+肉味噌+チーズ+ニラで蒸し饅頭風

カブ+和出汁+白子

料理の四面体

今回ご紹介した“すり流しレシピ表”は、玉村豊男著の「料理の四面体」に影響を受けて作成しました。

「料理の四面体」玉村豊男 著 中公文庫

本書は、料理エッセイ・紀行本としても冒頭の羊のシチューの描写から、たっぷり楽しんで読めるのですが、全章を読み進めていくと、素材への加熱(火)主軸に空気・水・油をどうからめていくかの四面体の中に、料理を分類する結末に導かれていきます。
上記のレヴィ=ストロースも、料理は自然に対して文化の力で変化を及ぼすという観点で料理を構造的に分析していますが、玉村氏の料理への愛は、理屈以上により楽しく、新たなレシピを構築するアイディアの宝庫の扉の前に誰もを連れて行ってくれます。
文庫化にあたって、30年前のご自身を振り返って書かれた前書きも味わい深く、私のお気に入りの一冊です。

食農弁護士

桐谷 曜子/YOKO KIRITANI

1977年生まれ。神奈川県川崎市出身。大手法律事務所で弁護士として企業買収、企業法務に従事後、証券会社での勤務で地方創生、海外投資、ベンチャー投資等に深く関与。
その後、2014年から2022年まで農林中央金庫に在籍し、食産業及び農業に関する投資、国内外企業買収、各種リサーチや支援業務に携わる。
自他ともに認める食オタクであり、法務知識のみならず農林水産部門に関する知見を用いて、ベンチャー企業含む事業者や生産者の各種相談対応、新規事業創出支援、資金調達や事業承継支援を行う傍ら、料理で人を繋ぐことで課題解決への貢献を目指している。

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レシピコラム
「生活を紡ぐ小さな自炊」

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