東京の水産業を学ぶ
LEARN
東京の水産業は、伊豆諸島、小笠原諸島周辺海域を漁場とする島しょ漁業、東京湾を漁場とする内湾漁業、および多摩川、江戸川を主な漁場とする内水面漁業で構成されています。まずは水産業は何かという基本から、海川のはたらき、水産業の認証制度など、水産業について親しんでいただけるよう、分かりやすくご紹介します。
水産業とは?
東京の水産業は漁場の違いから大きく3つに分けることができます。それぞれの特徴と水揚げされる主な魚と漁法をご紹介します。
1島しょ漁業
漁場は伊豆諸島、小笠原諸島周辺海域。複雑な海底地形や黒潮の影響によって、日本有数の好漁場になっています。
漁獲される主な魚介
- 大島
- イセエビ、テングサ、イサキ、マグロ類、キンメダイ
- 利島
- サザエ、トサカノリ、イセエビ
- 新島・式根島
- テングサ、イサキ、タカベ、イカ類、キンメダイ
- 神津島
- キンメダイ、メダイ、ムツ類、イカ類、テングサ、タカベ
- 三宅島
- キンメダイ、マグロ類、ムロアジ、メダイ、テングサ
- 御蔵島
- タカベ、キンメダイ
- 八丈島
- キンメダイ、トビウオ、ムロアジ、メダイ、カツオ類、マグロ類
- 青ヶ島
- トビウオ
- 小笠原父島
- カジキ類、ハマダイ、マグロ類、ヒメダイ、ムツ類
- 小笠原母島
- カジキ類、ハマダイ、イカ類
主な漁法
- ムロアジ棒受網漁業
船の右舷で餌をまき、ムロアジを集めます。集まってきたら、左舷で網の準備をし、左舷側で餌をまきます。左舷にムロアジが移動してきたことを確認し、網を引き上げ、捕獲します。
- 底魚一本釣漁業
数十本の針が付いた糸を魚が生息する深海まで垂らし、魚がかかったら漁船に装備されている巻き上げ機で糸を引き上げます。対象魚種はキンメダイなど。
- トビウオ流し刺網
流れに向かって泳ぐ習性を利用して、トビウオの進行方向を遮るように垂直に網を流し、その網に魚の頭部を入り込ませます。網目に刺さったようになることから刺網といいます。
- 定置網漁業
袋状の網を海底の一定の場所に固定し、回遊する魚の進行方向を遮るように「垣網」を張り、魚を「身網」の奥へと誘い込み、捕獲します。対象魚種はイサキ、タカベ、ムロアジ、トビウオ。
- 曳縄漁業
漁船を走らせてバケと呼ばれる疑似餌(ルアー)を引くことにより、餌と間違えて喰い付いた魚を釣り上げます。主にカツオ、マグロ等がこの漁法で漁獲されます。。
- イカ釣り漁業
夕方に出航し、夜、漁灯を点灯させてイカを集めます。イカ針(疑似餌)を投入し、自動イカ釣り機により引き上げて漁獲します。
- 延縄漁業
1本100~130kmの幹縄を浮かせながら伸ばし、そこから針の付いた枝縄を垂らして漁獲します。対象魚種はマグロ、スズキ、カレイ類。
2内湾漁業
東京内湾では、現在、自由漁業が行われており、「江戸前」としてアサリやアナゴなどが人気です。
漁獲される主な魚介
アサリ類、スズキ、カレイ類、アナゴ
主な漁法
- 貝まき漁業
籠状の漁具「目籠」を巻き上げて貝を採ります。
- 刺網漁業
魚の通り道に網を仕掛け、その網に魚を絡め取ります。スズキやカレイが対象魚。
- 筒漁業
幹縄に餌を入れた「アナゴ筒」を取り付けてアナゴをおびき寄せます。
3内水面漁業
多摩川水系を中心に、アユやヤマメ、コイなどを対象とした遊漁が行われています。また、多摩エリアでは、ヤマメやニジマスなどのほか、1998年に東京都奥多摩さかな養殖センターが開発した「奥多摩やまめ」の養殖が行われています。
漁獲される主な魚介
マス類、アユ、コイ
主な漁法
- 遊漁
レジャーとして釣りや潮干狩りを行うことを指します。
- アユ・マス類養殖
多摩川上流域でヤマメやニジマスなどのマス類やアユの養殖業が営まれています。
- アユのころがし釣り
重りを付けた針を下流に投げ込み、水底を転がしてアユを引っかけて釣り上げます。時期の制限や禁漁区があります。
- アユの友釣り
一定面積の川底を縄張りにし、縄張り内にほかのアユが侵入すると追い払うアユの習性を利用し、おとりのアユを使ってアユを釣り上げます。
海川のはたらきとは?
東京の水産業は、東京を流れる江戸川、荒川、多摩川などの河川、東京湾から沖ノ鳥島に至る広大な海域で営まれています。ここでは、食べ物の供給だけでなく、皆さんのくらしにも大いに役立っている海と川のはたらきについて、ご紹介します。
-
食べ物の供給
海や川は魚や貝など水産物の命を育み、それらは漁業者によって漁獲され、私たちの食料として供給されます。
-
生き物のすみか
海と川は魚や貝はもちろんのこと、植物プランクトン、動物プランクトン、水生昆虫など、たくさんの生き物たちのすみかとなっています。
-
水資源の提供
川の水は生活用水や飲料水、農業用水、工業用水、水力発電として利用され、私 たちの生活に欠かせない水資源となっています。
二酸化炭素の吸収
-
みんなの防波堤
海洋中のプランクトンなどの光合成やサンゴによって大気中の二酸化炭素を吸収し、取り込まれた二酸化炭素は食物連鎖によって海洋の深層部に貯蔵されます。
-
物質循環
雨は森林の葉や腐葉土の中に蓄えられ、栄養分が溶け込み、ゆっくりと川や海へと流れ込みます。海に流れ込んだ栄養は植物プランクトン、海藻などに利用され、食物連鎖により動物プランクトン、魚類などへとその命がつながれていきます。魚類は漁獲や遡上、陸上動物に捕食され、再び陸へと命をつなぎます。
-
豊かな自然環境の形成
砂州、砂浜、磯、水平線、島等の自然景観が形成され、魚介類等の豊かな生態系が存在しており、これらが一体となって豊かな自然環境を形成しています。なかでも小笠原諸島は一度も大陸とつながったことがないことから、独自の生態系を形成しており、世界自然遺産に登録されています。
-
人間の憩いの場(レクリエーション)
川と海の美しい景観は私たちに安らぎを与えてくれるほか、釣りや潮干狩り、マリンレジャー等、レクリエーションの場ともなります。
水産業の認証制度
現在、そして将来の世代にわたって水産資源を利用していくためには、生態系や資源の持続可能性に配慮した方法で漁獲等を行い利用していく必要があります。水産認証制度は、これら持続可能性や環境に配慮した漁業を証明するための制度として現在、普及が進んでいます。
- しくみ
- 認証された水産物にはエコラベルが張られ、私たちはこのラベルの付いた水産物を選ぶことによって、この取り組みをしている漁業者たちを支えることにつながります。
- 認証マーク
-
認証された漁業から生産された水産物や、これらの認証水産物を利用して作られた製品に対しては、水産エコラベルというロゴマークを使用することができます。
消費者は水産物を購入するときに、これらの認証ラベルでの選択的購買を通じて、持続可能性に配慮した取り組みに寄与することができます。
東京都・公益財団法人東京都農林水産振興財団では、持続可能性に配慮した漁業等を推進するため、水産認証取得に要する経費を補助しています。
主な水産認証制度
-
MEL認証
(日本発の水産エコラベル)-
日本発のエコラベルスキームとして、2007年12月一般社団法人大日本水産会内に誕生しました。MEL認証は資源や環境、生態系の保全に積極的かつ効果的に取り組んでいる生産者を認証し、その製品にロゴマークをつけて流通させるものです。2016年12月には、一般社団法人マリン・エコ・ラべル・ジャパン協議会が設立され、2019年12月12日にGSSI(世界水産物持続可能性イニシアチブ)から承認を受け、国際的な規格となりました。
▽MEL(一般社団法人マリン・エコ・ラべル・ジャパン協議会)
https://www.melj.jp/
都内でMEL認証取得している事業者一覧はこちらです。
水産認証取得事業者(PDF:219KB)
-
-
MSC認証
(イギリス発の水産エコラベル)-
減少傾向にある世界の水産資源の回復を目指し、1997年にイギリスで設立された、国際的な非営利団体MSC(Marine Stewardship Council: 海洋管理協議会)による認証スキームです。
MSC認証は持続可能で適切に管理され、環境に配慮した漁業を認証する制度です。
▽MSC(Marine Stewardship Council: 海洋管理協議会)
https://www.msc.org/jp/what-we-are-doing/thisiswildJP
-
水産業Q&A
魚が食卓に届くまでの流や、水産資源を守るためにはどうしたらいいのかなど、東京の水産業に関する5つの素朴な疑問に答えます。
-
魚が食卓に届くまでどんな人が関わっているの?
漁獲・水揚げされた水産物は漁業協同組合が集荷し、共同で出荷します。水産物は卸売市場へと輸送され、卸売業者はセリなどにより水産物を公正かつ迅速に仲卸業者などに販売します。仲卸業者はセリで購入した水産物を小売店が販売しやすいようサイズや量に小分けして販売することもあります。その後、水産加工業者やスーパー、鮮魚店などの魚介販売所、飲食店を介して消費者の手に届きます。
-
漁獲量が減っているって本当?
伊豆諸島では、ハマダイなど底魚の減少や、カツオなどの来遊魚の減少、磯やけなどによる藻類・貝類の減少の結果、キンメダイへの依存度が高まり、現在漁業生産金額の多くを占めるようになっています。また、小笠原諸島海域では、メカジキへの漁獲の偏重が顕著です。かつては豊かな漁場だった東京湾も埋め立てが進み、干潟浅場の現象に伴って漁獲量が減少し、特にエビ・カニ類、貝類の漁獲量が減っています。
-
水産資源を守るためにどんな取り組みをしているの?
使用できる漁具や漁法に制限を設けたり、漁獲できる時期の制限や禁漁区を設けています。また、網目を大きくするなどして、小さい魚を獲らないように工夫しています。
多摩川などの河川では、漁業協同組合が漁業権に基づきヤマメやアユ、 フナなどの放流等を行い、計画的に資源を増大させています。多摩地域のニジマスやヤマメ、イワナの養殖業も水産資源の増殖にひと役買っています。
-
漁師さんが東京の海で担っている重大な役目って何?
海難事故が発生した時、海上保安庁の職員や船だけでは膨大な海岸線をカバーすることは困難なため、実際は地元の海域に精通している漁業者が救助に駆け付けています。また、ウニやアワビなどの貴重な海の水産資源を密漁から守るために、漁業者はパトロール活動も行っています。こうした活動は、資源を守ることが目的ですが、同時に密輸、密入国、不法操業等への抑止力としても機能し、国境線を守る貴重な活動になっています。
-
海洋調査って何をしているの?
日本の200海里水域は世界で7番目と広大で、その38%、171万平方kmが東京都の調査海域です。東京都では、調査船により継続的に水温、塩分、黒潮の流れや、プランクトンなど生物についてモニタリングをしています。環境変化が起きた際、正しく把握することができ、海を守り、利用するための基礎が築かれます。