「料理、しないんですよね…」、という人にも。
【料理のハードル】
おしゃれなものからズボラなものまで、世の中には実に沢山のレシピ情報があふれています。
それらを眺めて、これ誰か作ってくれないかなと言いながら、結局料理はしないという人も多いのではないでしょうか。
私も料理は好きでしたが、誰かのために頑張って作ったり、思いつきでレシピを見て作ることはままあっても、料理と自分の日常生活がうまく寄り添ってはいないことを長く感じていました。
献立を考えて買い物をし、手間をかけて作っても、期待するほど美味しくないとがっかりします。
身体に優しいものは食べたいけれど、褒めてくれる人がいないとやる気が湧かず、すぐ食べられるもので済ませてしまう。料理はしたものの、食材を使い切れずに罪悪感を抱える日々を過ごしてきたと思います。
本レシピの目的
自分で無理せず作ることができて、かつ「自分で作ると美味しい」と安心でき、誰かに褒めてもらえなくても続けられるようになるまで、10年ほどを要したと思います。コロナ禍でさらに安定稼働になった感があります。
今でも、家の中が荒れて、料理する気が起きない期間も沢山ありますが、また料理をすることで自分の暮らしを生きている、と思えるようになりました。その過程で絞り込んだ面倒くさくないレシピたちをわずかですが、今回共有できたら良いなと思っています。
家族がいる人も、1人で暮らす人も、忙しい人も、そうではない人も。
疲れた日、なにか美味しいものが食べたいけれど外食をしたいわけでもない、そんなときに「自分が食べたい」と思えるものを用意できたり、誰かになにか作ってあげたいと思ったときに緊張せず失敗しないものを用意することができれば、生活することが少し楽しくならないでしょうか。
この連載では、東京都内でとれる食材を使いながら、生活と自炊が折り合える工夫を考えていきたいと思っています。料理のプロではなく、ズボラで不器用な人間のレシピですが、どれかひとつでも、あなたの好きな食材を気軽に使うきっかけとして、暮らしの中に取り込まれて、楽しい思い出や、疲れた日の慰めとなってくれたらと思います。
【レシピ】ズッキーニの春巻き
第1回目のレシピは、「ズッキーニの春巻き」です。
いきなり揚げ物とは、頭書きの主義に反するのではないかと思うかもしれませんが、「どんなに不器用な人でも作れて、味付けについて何も考えなくとも、安定した味に仕上がる」点において、非常に助けになります。
家で揚げ物をしたことがない人でもできますので、ぜひトライしてみてください。
【材料(市販の春巻きの皮:1袋10枚を全部使う場合)】
・ズッキーニ 2~3本
・生ハム 100g程度
※コンビニで売っているような小さいサイズ(1枚あたり5グラム程度)ものなら春巻き1本につき2枚、長めで塩気強めのものなら春巻き1本に1枚がおすすめです。
・春巻の皮 1袋(10枚)
・カレー粉(塩分の無いもの) 適量
・ストリングチーズ(さけるチーズ) 4本
※1本25グラム程度あると豪華になります。
作り方
① ヘタを切ったズッキーニを縦半分に切り、それをさらに縦に半分又は3つくらいに切り分けます。
春巻き一袋10個つくるのに、太めのズッキーニなら、2本、細いものでも3本で足ります。
② 春巻の皮を広げ、生ハム(手頃なものでよいです。ズッキーニを包める程度に。)、カレー粉(塩分の無いもの)、ズッキーニ、ストリングチーズを割いたものをのせ、包む(水溶き小麦粉を使ってもよいですが、軽く湿らせて閉じれば大丈夫です)。
③ フライパンに油を1cmほど張り、170度くらい(菜箸の先から少し泡が出るほど)になったら、春巻きを入れてきつね色になるまで揚げる。
④ 油を切って予熱で5分程度おき、半分に切ったらできあがり。
春巻の皮を剥がすのがすこしだけ面倒なので、ホームパーティーのゲストやお子さんに手伝っていただくのに適しています。
中身が飛び出たり、巻きが甘かったりしても大した問題になりません。作って冷凍しても良いし、全部包むのが面倒な場合は、食べたい分だけくるんで、あとはパリパリに揚げておいて市販のサラダのトッピングなどに使っても良いでしょう。
失敗するとしたら、揚げ油の温度があがって焦がしてしまうことなので、温度が上がってきたなと思ったら、火を弱めるようにしてください。
野菜はズッキーニのほか、茄子やアスパラガスでも美味しくできます。アスパラガスも直径1.5cmほどくらいまでのものでしたら、余熱で火が通ります。
生ハムの代わりに、アンチョビペーストを入れたものも今回作ってみました。
アンチョビペーストは、使い切る難易度がやや高い素材ですが、パスタに使ったり、加熱したじゃがいもと和えたり、そのままパンやクラッカーにつけておつまみとして使うと楽しい食材です。
我が家の味は時代ごとに
料理は親から教わるもの?
自炊がうまくいかないと悩んだとき、親世代の料理文化を自分は引き継げていないのではということも考えました。母も祖母も、料理好きというタイプではなかったからです。
料理上手のお家では、先祖から伝わる郷土料理や作り続けられてきた、おふくろの味のようなものがきちんとあるのではないでしょうか。
料理をめぐる生活の移ろいを学ぶ
『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』(新潮新書)
上記の著作は時代ごとの女性が憧れていたもの、手に入れたい生活に照らして時代ごとの料理本やビーフシチューのレシピを参照しつつ、明らかにしています。
いまの私達の日常の食生活のほとんどは、戦後を経て、食料が豊かに安定供給されるようになったこの50年ほどの間につくられてきたもの。
そして、これからも変わっていくものということがよくわかります。
母も私も上の世代から家庭料理について多くを教わっていませんでしたが、それも仕方のないことで、生活の変化の中で、より簡単に楽しく、自分たちの暮らしに合うレシピを模索していくのに、遅すぎることはないと、思えるきっかけになりました。
おわりに
ズッキーニも新しい野菜として登場したのは1980年代後半。いまではブロッコリーとともにすっかり馴染みの野菜になりました。最近栽培が広がっている青パパイヤなども、あと何年もしないうちに食卓の常連になるかもしれません。そのときには、また新しい味の思い出が作られていくのでしょう。
「何をどのように食べていくと生活しやすいのか」と考えることは、日本全体の食品市場・流通や食料自給、その他の問題と根っこで深くつながってもいます。ビジネスの流れは、食にかける時間をいかに短く合理的に健康的な栄養摂取をするかという方向ですが、きっと食品産業の未来も明るくなっていくはずだというのが、私が料理をし、それを人に伝えたいと思う理由です。
世の移ろいを反映しつつ、暮らしに紐づいた自分の食文化を模索する。そんなことが誠実にできれば良いなと思っています。
次回からはより気楽なレシピコラムを書いていきます。
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食農弁護士
桐谷 曜子/YOKO KIRITANI
1977年生まれ。神奈川県川崎市出身。大手法律事務所で弁護士として企業買収、企業法務に従事後、証券会社での勤務で地方創生、海外投資、ベンチャー投資等に深く関与。その後、2014年から2022年まで農林中央金庫に在籍し、食産業及び農業に関する投資、国内外企業買収、各種リサーチや支援業務に携わる。
自他ともに認める食オタクであり、法務知識のみならず農林水産部門に関する知見を用いて、ベンチャー企業含む事業者や生産者の各種相談対応、新規事業創出支援、資金調達や事業承継支援を行う傍ら、料理で人を繋ぐことで課題解決への貢献を目指している。