江戸東京野菜「寺島ナス」の新しい食べ方~都内高校生が斬新なレシピ を提案~

 東京近郊に今も伝わり、生産されている「江戸東京野菜」を若い人達にもっと知ってもらいたいと、「江戸東京野菜 都内高校生料理コンテスト2023」の実技審査が、10月22日(日)に東京都国立市で開催されました。当日の模様をレポートします。

 コンテストを主催したJA東京中央会では、江戸時代から続く伝統野菜の文化を継承するサスティナブルな活動として、江戸東京野菜を生産する若手農家の支援や、食材として扱う若手料理人の育成支援を行っています。
 料理好きの高校生を対象にした料理コンテストの開催は2回目。
今年のテーマは、「寺島ナス」を使ったオリジナルレシピです。(去年のテーマは「ごせき晩生小松菜」)
都内の料理好きの高校生に向けて、6月から募集を始め、16校282チームからエントリーがあり、レシピ審査を通過したのは7作品です。

「寺島ナス」とは?

 江戸東京野菜は、江戸期から始まる東京の文化を継承した在来種、または在来の栽培法などに由来する野菜で、現在52品目が登録されています。
「寺島ナス」は、やや小ぶりですが、皮が硬く肉質がしっかりしていて、加熱するとトロッと柔らかくなるのが特徴です。1800年代の書物「新編 武蔵風土記稿」に「形は小さいなれど、早生なすと呼び賞美す」とあり、「蔓細千成(つるぼそせんなり)ナス」とも呼ばれ、旧寺島村(今の墨田区)を中心に栽培されていました。

 現在は、小金井市や立川市を中心に、都内10軒ほどの農家により生産され、収穫が6月下旬から10月頃までと比較的長く出回ることから、コンテストの課題に選ばれました。
今年は、猛暑と雨不足の影響で生産にも大きなダメージを受けましたが、JA東京中央会では、高校生たちの試作品用に1,910個の「寺島ナス」を提供しました。

実技審査開会式

実技審査の会場となったエコール辻東京(国立市)には、282チームから選ばれた料理好きな高校生、7チーム14人が集まりました。

 審査員は、辻調理師専門学校 教育研究センターの山田研センター長を審査委員長に、JA東京厚生連の管理栄養士や料理研究家など5人。
 開会式では、主催者であるJA東京中央会都市農業支援部 東京農業推進室の武田直克さんが、「江戸時代から続く伝統野菜を高校生の皆さんや若い料理人に知ってもらいたい。そのためには実際に触って、調理し、食べて味わうのが一番。これを機に、東京都にも農業があることを知ってもらい、家族や周りの人にも伝えてもらえたら嬉しい」と、話しました。

開会式の後、いよいよ「寺島ナス」を生かした調理がスタート。

生徒たちは白衣やエプロン姿になり、「寺島ナス」を手に調理をはじめます。
厳正な抽選で決まった審査の順に、7チームの「寺島ナスのオリジナル料理」をご紹介します。

① 東京農業大学第一高校 (チーム名:ルネサンス)
「ナスのがんもどきもどきの紫蘇トマトソース添え」 浅山琶音さん・込山和果さん
 
油揚げの中に、角切りにして炒めた寺島ナスや豆腐などを詰めて、少量の油でヘルシーになるよう工夫しました。

② 東京都立赤羽北桜高校
「チーズナストグ」 河津共希さん
寺島ナスを広めるには、インスタグラムなどのSNSの力を生かそうと思い、若い人に人気の韓国グルメのチーズハットグをヒントに、チーズを挟んだナスをまるごとフライにしました。皮が硬いので剥きましたが、その皮を刻んで衣に使うことでフードロスを減らす工夫も。

③ 東京都立淵江高校(チーム名:#家庭科部52C)
「寺島ナスのみたらし団子」 堀川莉央菜さん・羽鳥明日香さん・賈 奇(ジャ・チ)さん
ナスが苦手な人でも食べられるようデザートにしました。加熱すると柔らかくなるので、裏ごししたナスを生地に練りこみ、だんごの中にも包んで、みたらしのソースで仕上げました。

④ 東京都立淵江高校(チーム名:#家庭科部52B)
「寺島ナスのサンドイッチ」 浅野真哉さん・西花莉央さん・渡邊光一さん
高校生でも作れるように、おしゃれで短時間でできるサンドイッチに。旨みが強い寺島ナスをベーコンと合わせてナスを丸ごと揚げ、決め手は、味噌マヨネーズのソース。

⑤ 東京農業大学第一高校 
「なす重」 吉岡里桜さん
高級なうな重をモチーフにして、なす重を考案しました。色を鮮やかに保つため切込みを入れて高温で揚げて、盛り付けました。

⑥東京都立赤羽北桜高校(AHA)
「寺島ナスの水餃子と万能ダレ」  小池穂乃花さん・吉田彩乃さん・松村碧さん
水餃子のタネと、万能ダレにも刻んだ生のナスを入れて食感を工夫。トッピングの海苔のようなのは、ナスの皮を揚げてみました。

⑦ 三輪田学園高校
「なすの巻物風 湯葉包みあられ揚げ」 村上結さん
なすを皮ごと使いながら、硬さが残らないように薄切りと棒状に切り方を工夫しました。湯葉や五色あられを付けて揚げ、外国の人にも食べてもらいたいです。

 参加した生徒たちは、この日までに何度も試作を重ねたそうで、料理完成後の審査員へのプレゼンテーションでは、緊張しながらも作品のコンセプトやレシピ作成の苦労点などについて説明し、審査員をうならせていました。
 審査員の前でドキドキのプレゼンテーションを終えた生徒からは、「寺島ナスはうまみが通常のナスの5倍あると学んだ」「事前に寺島ナスについて学び、生で食べたらリンゴみたいだった」「東京にも伝統野菜があることを知って勉強になった」「審査員を前に緊張したけど、今日がいちばんうまく行った」「剥いた皮も生かしてフードロス削減の工夫をした」などといった声もあり、Z世代ならではの感性や、サステイナブル(持続可能)を意識した工夫も見られました。

入賞5作品が決定し、最終審査結果は「第52回東京都農業祭」 で発表!

7つのレシピの中から選ばれた5作品は、
「チーズナストグ」、「寺島ナスのサンドイッチ」、「なす重」、「寺島ナスの水餃子と万能ダレ」、「なすの巻物風 湯葉包みあられ揚げ」です。
入賞5作品の「最終審査発表と表彰式」は、10月29日(日)に、「第52回東京都農業祭(会場:東京国際フォーラム)」特設ステージにて、午前11時より開催されます。
また、この入賞レシピは、10月27日(金)~29日(日)まで開催される「東京味わいフェスタ2023」の有楽町会場で、プロの料理人が作品をアレンジして販売されます。

高校生のアイデア溢れる“江戸東京野菜「寺島ナス」のオリジナル料理”
ぜひ味わって、東京農業の魅力を発見しませんか?
「東京味わいフェスタ2023」「第52回東京都農業祭」会場でお待ちしております!

【ベジアナの取材後記】

 寺島ナスを使った料理レシピを考え、調理するコンテスト。応募した高校生の元へは事前にJA東京中央会から寺島ナスが届けられ、単なるナス料理ではなく、江戸東京野菜という固定種の「寺島ナス」を手に触れて感じて知ってもらう事前学習が、自分達の住む街、東京の農業を知る上でもとても大切な体験になったようです。
 皮も生かしてフードロス削減なんてさすがSDGsや環境問題とともに育ってきたZ世代。もちろん商品化にはブラッシュアップが必要になりそうですが、どんな作品にも思想や信念は重要ですよね。課題を工夫とアイデアで新しいおいしさを生み出す!まさに若い力で伝統を未来につなげるイノベーティブな高校生の料理コンテスト。
寺島ナスの料理、みんなで食べに行きましょう~~♪

野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」

小谷 あゆみ/KOTANI AYUMI

世田谷の農業体験農園で野菜をつくるアナウンサー「ベジアナ」としてつくる喜び、農の多様な価値を発信。生産と消費のフェアな関係をめざして取材・講演活動
介護番組司会17年の経験から、老いを前向きな熟練ととらえ、農を軸に誰もが自分らしさを発揮できる「1億農ライフ」を提唱
農林水産省/世界農業遺産等専門家会議委員ほか
JA世田谷目黒 畑の力菜園部長
日本農業新聞ほかコラム連載中

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