「楽しみながら、食を育もう!」を合言葉に、6月22日(土)に東京都の主催で開かれた「東京de収穫体験フェスティバル」。
バスで練馬区内の畑に行っての「ジャガイモ収穫体験」や、コマツナやカブの「プランター収穫体験」のほか、初めて包丁を握る幼児向けの「包丁体験教室」、他にも新鮮野菜のマルシェやトークショーなど、食育につながるイベントに親子連れをはじめとする多くの方の姿がありました。
奇しくも、イベントの前日と翌日が大雨、なんと開催日だけが晴れという、お天気にも恵まれたフェスティバル。
その様子を前編・後編にわたってレポートします。

まずは前編の、ジャガイモ収穫体験から〜!

練馬区内の農園で“ジャガイモ収穫体験”

新宿駅西口広場に集合した参加者のみなさん。ここから農園までバスで移動します。

『食育は、食に関する適切な判断力を養い、心身の健康の増進と豊かな人間形成に役立つものであり、知育、徳育、体育の基礎となるものです。(※)』(東京都:小池百合子知事、東京都食育推進計画より)

東京都では、未来の東京をよくするための「食育推進計画」を発表しており、今回のイベントはその一環として開催されました。
野菜とふれあい、その成り立ちを知ることで子どもたちの食育を応援する「東京de収穫体験」には、主にSNSでイベントを知った親子が詰め掛けました。
(ジャガイモ収穫体験の競争率は、なんと40倍だったそうです!)

農園までは新宿西口からバスで45分ほど。移動の間、企画の目的や注意事項の説明も。

「東京なのに、こんなに畑が!」と練馬区の風景に驚く方も

ジャガイモ収穫体験は、練馬区内にある2件の農園(冨岡農園:練馬区石神井町。田中農園:練馬区立野町。)で開催されました。
今回取材したのは、田中農園さんです。

参加された方々のお住まいは、江東区や荒川区、品川区、新宿区など、近隣に畑がない地域の方が多くいらっしゃり、こんなお話も聞けました。

● 4歳のお子様と一緒に参加されたご家族(コメントはお母様)
これまで、イチゴ狩りに行ったり、家庭菜園でミニトマトやバジル、昨年はゴーヤを作ったりもしていますが、畑に入る機会はあまりなくて参加しました。品川区に住んでいて、畑にも興味がありますが、なかなか近くになかったり内容の割に値段が見合わなかったりで……。
私の祖父母が新潟で農家をやっていたので、小さい頃はよく畑を手伝ったり、周りの農家さんからお裾分けもいただいた思い出があります。今でも親戚が継いでいて、お米が送られてきたりします。どのようにして作られたか、その背景を知ると「私の体はあの時の野菜、おばあちゃんのお米でできているんだなあ」と感じます。

● 子育てが落ち着き、大人二人で参加された女性(江東区・荒川区)
小学校の理科の時間にクラスの代表の子がジャガイモ掘りをする、みたいなのがあったんですけど、その時もクラスで数個、とかしか貰えなかったんです。だから、考えてみると自分がちゃんとジャガイモを掘るのは初めてで。どうやってできるのか、芋づる式なの?とか、一株ってどのくらい?とか。ぼんやりとしか想像できてないです(笑)。
東京の東の方に住んでいるからか、周りにも畑がないですし、今の子どもたちは『食育』授業をやってもらえるけれど、私たちの世代は『食育』ってあまり聞いたことがなかったので、畑に触れていない人も多いと思います。だから、すっごい楽しみです!」

バスは、新宿から練馬区へ向かいます。
青梅街道から吉祥寺へ抜ける住宅街を走行していると、なんと宅地の間に畑が…
まさに都市農業を実感する風景に遭遇しました。

「わー、野菜がロッカーに入ってる!なにこれー!」と、畑の入り口にある“野菜直売ロッカー”を撮影する女性。
練馬区ではお馴染みの光景です。コロナ禍の時期に「非接触での販売」が注目され、他の地域にも広がったとか。

畑に入る前に、バスで配られた靴カバーとポリ手袋を装着します。「新宿発着」であることが考慮されています。

畑では、ジャガイモ以外にもサトイモやトウモロコシ、ニンジンなどの色々な種類の野菜が育てられています。
「わー、これなんの野菜かねー?」とみなさん興味津々です。

畑に入って、いよいよジャガイモ掘りのスタートです!

農家の田中さんから、「キタアカリという品種が、1列に40株ほど植わっています。私が鋤(すき)で掘り返すので、みなさん掘っていってください。」と説明があり、順番に並んで土の中からジャガイモを探していきます。「宝探しみたい!」と喜ぶお子さんや、「まだ残ってないかちゃんと探してね。」と土の中を探し続けるご家族も。みなさん真剣です。
ちなみに、田中さんによると、ジャガイモは品種に関わらず、そんなに深いところにはできないそうです。(筆者は以前、ジャガイモを探す際にものすごい深く掘っていたのですが、それは無駄だったことをこのとき知りました(笑)。)

ジャガイモに鋤が当たらないように、土ごと丁寧に畝を掘り返していく田中さん。

「初めて自分で掘ったジャガイモ♪感動です!」大人も笑顔にしてくれる、畑での体験。まさに「食育」です。

掘り返したところからポコポコ見つかるジャガイモ。「こっちにもあるね〜!」

赤ちゃんジャガイモは、スーパーでは出会えない

子どもたちの中には小さくてかわいいジャガイモを大事そうに持ち帰る子もチラホラ。スーパーでは見られない成長途中の可愛いジャガイモは、「畑で、土を耕して農家さんが育てている」という記憶として残ることでしょう。

彼女が気に入っていたのは、小さい方のジャガイモでした。撮影用に、と大きいものをお父様が持たせてくれました。

小さい緑のジャガイモを大事そうに持って帰るお子さんも。「それ、食べられないよ笑」とお母さん。

他にも何かの幼虫を見つけて夢中になる子、その虫を持ち帰る!とビニール袋に入れて大事そうに持つ子の姿なども。
農地は生き物や植物との出会いの場でもあり、また農地そのものも普段都会で暮らす子どもたちには貴重な体験です。興味や好奇心が育まれている瞬間を目の当たりにしました。

虫を探して指で追う子。右の子はこの後、幼虫をつかんでいました。

「家で育てる!」虫のお土産。

田中さんの畑では、積極的に農業体験を受け入れているそうです。地元のお母さんが取りまとめてくれている保育園や幼稚園、大人の芋掘りもあるとか。ご自身も3人のお子さんのパパであり「同じ子育て世代として協力していきたいし、おいしい野菜を食べていただければと思います」と話してくれました。

この日は30度を超える気温でしたので、ファンのついた作業服を着ていた田中さん。畑へ続く小道の前で。

ジャガイモ掘りが終わると、目の前のテントで野菜の直売が始まりました。特に参加者のみなさんに人気があったのが、とれたてがおいしいエダマメ。販売用のエダマメを作るために、作業場とテントを何度も往復していた田中さんでした。

まさに飛ぶように売れていくお野菜たち。数分でほとんどなくなりました。

ニンジンは、つい先程まで田中さんのお父様がビニール袋に詰めていらしたものです。
「俺なんか撮って、どうするのよ(笑)?」

エダマメの出荷準備。膨らまなかった豆や、余分なゴミ、葉を落としていきます。

農園体験による『食育』は、子どものためだけではない。

ジャガイモ掘りは、意外に根気が必要です。
掘り返した土から顔を出している「わかりやすいジャガイモ」、さらに掘ると出てくる「掘り甲斐のあるジャガイモ」、その後「奥に眠っている(かもしれない)小さいジャガイモ」。
今回の参加者は3歳から6歳くらいのお子さんを持つご家族が多かったのですが、ひとしきり子どもたちが「わかりやすいジャガイモ」を掘った後、保護者の皆さんが黙々と土の中を探し続けていました。
その姿は、土と触れ合うことに癒しを感じているようにも見え、「食育」をテーマにしたこの収穫体験は子どものためのみならず、大人にとっても畑でのポジティブな体験は、楽しみながら改めて学べる機会となったことでしょう。

参加者の中には「実家や親戚が農業をしていた」「子どもの頃、農園で土と触れ合う体験があった」という方も多く、自然と世代を超えて「食育のサイクル」が紡がれていることが伺えました。
逆に考えると、いくら子どもが「畑での収穫をやってみたい!」と言っても、保護者が前向きに参加を決めなければそれは実現しないわけで、子どもの有無に関わらず、大人への食育も重要です。その意味で、農の豊かさや食育を都心で(通行人にも)発信する本イベントの役割は大切だと感じました。

子どもの興味がジャガイモ以外(虫や草花)に移った後も、土の中を探し続ける大人たちの姿。

「大人になってからの農作業、心に沁みました。思わず童心に帰っちゃいました!次回もまた参加したいです。」
「子連れだと気軽に来られるけど、今回、大人にも機会を与えてもらえて嬉しかった。本当に無心になれるし、見てください、手袋が破けるまで掘っちゃった(笑)!」
と話してくださった方も。

お連れの方も「え、手袋の先が破けるまで掘ったの?」と驚きの様子でした。

戦利品。「ママが作るシチューもカレーも、フライドポテトも好き!」と話してくれた子も。

楽しかった収穫体験は1時間ほどで終了し、またバスで新宿に戻ります。
「アクセスの良い新宿からのバスで送迎、本当にありがたいです」というお声もチラホラ。ベビーカーでの参加者も多かったので、「畑へのアクセスのよさ」で参加のハードルが下がった、という方も多かったようです。

後編は新宿西口に戻って、メイン会場とサブ会場の様子をレポートします。

都市農業ライター

三文字 祥子/SHOKO SAMMONJI

都市農業ライター「畑と私」
広告などの企画・編集・コピーライターを続けてきた傍ら、練馬区での都市農業を楽しんで暮らす。
農業から自然や環境、収穫物を食卓に載せるまでの工夫を考えるのが好き。
趣味は三味線、民謡、盆踊り。

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『東京de収穫体験フェスティバル』開催レポート

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