「楽しみながら、食を育もう!」を合言葉に東京都の主催で開かれた「東京de収穫体験フェスティバル」。前編ではメイン会場のある新宿からバスで練馬区に向かい、畑での「ジャガイモ収穫体験」の様子をお伝えしました。
後編では、新宿駅西口広場イベントコーナーにて行われたトークショーの様子とJA東京アグリパークでの包丁体験教室の様子をレポートします。

新宿西口広場では…

「体操のおにいさん」でおなじみの小林よしひささんと、「ミズとうきょう農業」の梅村 桂さんによるトークショーが開かれました!

「こんにちは!野菜のおにいさんです!食育のこと、楽しくお話ししましょう!」

体操のお兄さんというイメージが強い小林よしひささんですが、実は「幼児食インストラクター」「食育アドバイザー」の資格もお持ちなんです!

料理上手なお母さんに育てられたという小林さん。
「よく一緒に台所に立った思い出があります。スーパーにも一緒に行って、例えば『ちょっとキャベツ持ってきて!』って言われるんです。で、取ってくると母が『うーん、いまいちだね。ここをこう見るといいんだよ。』とか教えてもらったりして、どんどん野菜や食べ物に興味を持ち始めました。
一人暮らしのときも野菜たくさん、栄養のバランスをとれたものを自炊していたので、健康が保てたと思っています。体操のお兄さんを14年間やっていたんですけど、1回も病欠したことがないんです。14年間、1回も、ってすごいことですよね。」と話しました。

お子さんが生まれたことをきっかけに、幼児食インスタラクターと食育アドバイザーの資格を取った小林さん。はじめての離乳食はもちろん、今でも娘さんは小林さんの作るお味噌汁が一番好き!と言ってくれるのだそう。
「にんじんや白菜の残っている野菜を細か〜く切って、一緒に煮るんです。そうするとちょっとポタージュっぽくなるんですけど、自然とその野菜がお汁に入ってくる。味噌汁のベースとなる野菜も入れるんですけど、スープのとしても栄養が取れていいですよ。」と手軽にできるアイデアも教えてくれました!

画面に映るのは、ネイバーズファーム・梅村さんの作る、カラフルで色鮮やかな野菜たち。

食育は、自分のことを誇らしく、大切に思えることに繋がります。 「おいしいね」って、まずは食べ物を楽しむことが大事。

「ミズとうきょう農業」でもあり、ネイバーズファーム代表の梅村桂さんもトークに加わります。
ネイバーズファームは梅村さんが5年前に立ち上げた農園。
「ネイバーズ、はお隣さんとかご近所さん、という意味。地方やおばあちゃんの家で、お裾分けしてもらった野菜を誰かと一緒に食べるときのような温かさを感じるような、消費者と生産者が一緒になって野菜を楽しんでいきたいという想いで名付けました。」
と、屋号に込められたエピソードも紹介してくれました。

梅村さんの畑では、メインで生産しているトマト水耕栽培(土を使わない栽培方法)のほかに、年間約2〜30種類の野菜を作っています。
9歳までアメリカとオランダに住んでいた梅村さん。アメリカの学校ではサンドイッチやピザを食べつつも、家に帰るとお母様が日本食を作ってくださったとか。
「お正月のおせち、手巻き寿司などを通して『自分の生まれた日本にはこんなにすごい食文化があるんだ!』と、すごく誇りに思った経験があります。食育を通して文化や野菜の背景、食べ物の歴史を知ることは、自分のことを誇らしく、大切に思えると感じています。」
梅村さんは、農業の歴史や楽しさ、野菜の魅力を伝えたいと考えて、農業体験イベントをお子さんと一緒に参加する機会を作るようにしているそうです。
「まずは食べ物を楽しむことが本当に大切です。例えば、今日収穫体験された方は、帰宅後にそれを家族みんなで囲んで『おいしい野菜が採れたね』って会話をしますよね。そうやって楽しむことは、食育の入り口としていいですよね。食卓が子どもたちにとって楽しい場所になるといいなと思います。」と、語ってくれました。

みんなで一緒に、おいしいものを食べる。その食べ物を「選ぶ」という観点も考えてもらえたら。

東京の農業と関係の深い「地産地消」の話。 鮮度のいい旬の東京野菜を楽しみましょう!

梅村さんから、「野菜は収穫した後も生きています。でも、収穫した瞬間から栄養や鮮度・味がどんどん落ちていってしまうのです。だから、採ってからすぐ皆さんにお届けできる地産地消は、野菜の一番おいしい瞬間を食べられるという大きなメリットがあります。
鮮度の話でいうと、枝豆やトウモロコシは野菜の中でも、特に鮮度の落ち方がすごく早いんです。鮮度で味の違いがすごく出るので、今一番おいしい時期(旬)を迎えている野菜は、採れたてをぜひ食べてほしいなと思います。」との話が。

小林さんからはこんな東京野菜の楽しみ方も。
「地産地消の大切さというか、例えば今、物価高騰なんていうのもありますけど、やはり近くで作られたものは、フードマイレージの観点からも値段を抑えられます。安くそして新鮮においしく食べられて、健康になる東京の野菜たち。
スーパーに行くとズラ〜っと並んでいる野菜を適当にパッと取ってしまいがちですけど、その産地を見てみるというのも一つの楽しみ方。ぜひ東京野菜に注目していってほしいなと思います。」

会場のマルシェでは、東京の農家さんの朝採れ野菜が販売されました。

会場のマルシェで売られている野菜の話や、好きな野菜、おすすめの食べ方などで盛り上がったトークショー。最後は、お二人からはこんな話で締められました。

梅村さん:「東京の農業って皆さんあまりイメージなかった方も多いかと思うんですけれども、実はまだ特に多摩地域の方では農地もたくさん残っていて、おいしいお野菜がたくさん作られているんです。ただ、私も農業をやっていて感じるんですけども、すごく農地の面積が減ってしまっていて、作り手の方もご高齢になって続けられないという状況もかなり増えてきています。
自宅の周りに畑が無い方でも、『今どんな野菜が作られているのかな?』『作っている人はどんなお顔をしているのかな?』などと少しでも興味を持っていただいて東京の農業を一緒に楽しんでもらえたら、とっても嬉しく思います。」

小林さん:「こうやって、今日のフェスティバルに足を運んでいいただき、食について興味を持っていただくことが、まずは素晴らしい一歩だと思います。そして、皆さんがご家族と一緒に食事というものを楽しむことが一番の食育になると思います。
忙しさや疲れで、『今日作るの大変だな。』という時は、全然サボっていいと思います。お父さん、お母さんが笑顔で、食事の場を楽しくすること。笑顔があることが最高の食育だと思いますので。ぜひ、今日のフェスティバルで感じたことをお家で会話しながら、楽しい食卓を囲んで欲しいなと思います。」

プランターからのコマツナやカブの収穫体験やキノコの収穫体験も行われました。

JA東京アグリパークでは、あーぴん先生による「包丁体験教室」。 子どもはワクワク!親はドキドキ……。

メイン会場の新宿駅西口広場イベントコーナーから近い、甲州街道沿いにある「JA東京アグリパーク」では、道添明子(あーぴん)先生による幼児向けの「包丁体験教室」が行われました。
参加者の方は「家でもずっとやってみたかったんですが、どうしても普段料理しながらだと自分ではなかなかできなくて……。それで申し込みました!」「前から息子に包丁でお料理したい!って、ずっとおねだりされていたんですが、何が正しいのかも分からなくて。だから今日、本人がとても喜んでいてやる気なんです(笑)。」と話してくれました。
※包丁は、子どもの手に合う小さめのハンドル、丸い刃先の安全な仕様のものを使いました。

包丁で切るときの押さえる手の練習。「はい、みんな、ニャンコの手、できますか〜?」

初めての包丁体験は「ニャンコの手」から!

まず、子どもたちが教わったのは“ニャンコの手”の形。「切るときは、左手を猫の手にして丸め、指を切らないようにしますよー!はい、やってみましょう!」とみんなで確認も。

輪切り、半月切り、イチョウ切りなどの切り方も教わります。
「まん丸なのが輪切り、半分のお月様みたいなのが半月切り。それから……みんなが住んでいるのはどこですか?東京ですね。では、都バスに乗ったことのある人いますか?バスにイチョウのマークが付いていますよね。それは東京の木が、イチョウの木だからです。今日はイチョウ切りという切り方もやります。」と、その成り立ちについても丁寧に説明してくださいました。

切り方の説明シート。普段、日常的な切り方でも、名前を意識していなかったなあ…と私自身も反省。

なんとも可愛らしい、3歳の猫の手。慎重に、上手に切っていました。

料理体験は、料理が好きな大人を作ります。 今は料理もボーダレスの時代!すべての人に関わってほしい。

あーぴん先生に「食育と料理」についてお伺いすると、幼少期からの食育の重要性について語ってくださいました。
「うちでは息子を小さい頃からゴマを擦らせたり、塩もみをさせたり、と料理に触れさせていました。だから、もう25歳なんですけど立派な料理男子ですよ。こういう体験をすると後から絶対料理が好きな大人になります。でも、そこにいくまでが大変なんですよね。正直、時間も余計にかかりますし、見ていなきゃいけないし。でも、腰を据えてやらせてあげると、必ずその子の将来のためになるんです。
もしかしたら、将来、一人で生活するかもしれないし、結婚して共働きでも料理ができないといけない。これからは男の子だから、女の子だから……ということは無いですし、全員が料理ができなければいけないと思っています。昔は女子が家庭科、男子は技術家庭なんて時代もあったけれども、そうではなく、女子も技術家庭ができ、男子も料理ができてという世の中になります。
また、料理って算数の勉強にも役立つと思うんです。丸を半分に、とか4分の1に、とか。頭も使うし、お料理することって勉強できる子にもなる。そして、子どもだけでなく高齢者の方にも頭の体操として良いと思います。だから、老若男女、みんながお料理を作ることで、どの世代も食育に触れていければいいなと思います。」

「マイ包丁・マイまな板」があるとやる気になりますよ。ぜひ、名前を書いてあげて。」
「みんな、帰ったら、おうちの方のお手伝いをしましょうね〜!」と、あーぴん先生。

お兄さん(左)が切って、弟さん(右)が食べるという分業のご兄弟。切ったそばからきゅうりをポリポリ……笑。

SNSで、690万回再生を記録したというキュウリの「蛇腹切り」を伝授してくださいました!
先生がキュウリをビヨ~ンと伸ばすと、「おおー!!」と歓声があがりました。

大都心で撒かれた「食育の種」が、芽吹きますように!

人通りの多い新宿駅近辺で開催された今回のイベントでは、通りすがりの方も含めて本当に多くの方が野菜や食にまつわる「食育体験」に触れたことと思います。
収穫体験では子どもも大人も、食材がどのように育ち、作られているのかを知るきっかけとなりました。トークショーでは東京農業の素晴らしさを知り、マルシェで買った新鮮な野菜のおいしさに驚いた方も多かったはず。初めての包丁体験では、お子さんのイキイキした表情を見て一緒にキッチンに立つようになった方もいるかもしれません。何よりも、包丁をもつ楽しさを覚えたお子さんは、ヤル気に燃えてお手伝いをしてくれるでしょう。

今回初めて開催された「東京de収穫体験フェスティバル」で、それぞれの心に「食育の種」が撒かれたと感じました。種は今すぐ芽吹かずとも、ふとした時に「あ、やってみようかな。」とか「あの時の食材がおいしかったから、マルシェがあったらまた寄ってみよう。」と行動や考え方の変化につながっていくと思います。
一見、新宿という農業と無関係に見える場所だからこそ、その素晴らしさや豊かさに思いがけず気づくきっかけとなったはずです。第二回以降の開催でも、たくさんの方が食育の素晴らしさに触れられますように!

会場には、JA東京グループによる、東京産野菜を使用した「野菜宝船」が設置され、来場者の写真スポットに。

取材後記:包丁体験で習ったことを自宅で実践してみたら…

自宅に帰った筆者は、その夜さっそく、あーぴん先生の「キュウリの蛇腹切り」にトライ。ですが、なぜかキュウリがバラバラに(笑)。
「あれー、なんでうまくいかないんだろう?」とキッチンで騒いでいたら、中一の息子が「やらせて!」とまな板の前に立つと、一発でサーっと成功させたのです(!)。

思い返せば、10年前。我が家はキッチンの柵が設置できない間取りであることもあり、当時2歳の息子の「キッチンに入りたい!という気持ちを止める苦労」と「面倒でも、適当なお手伝いを頼む」を心の天秤にかけ、思い切って後者を実践していました。
キャベツの外側の捨てる葉をボウルでちぎらせたり(お手伝い「風」なだけですが(笑))、ピーマンのヘタを取ってもらったり(うまく取れないので「ひび割れたピーマンがたくさんできる」だけなのですが)。そのうち、ジャガイモやニンジンを切る作業や皮剥きなども頼めるようになり、今では息子がキッチンに立ち寄ったついでに「ちょっと焦げないように、フライパンで炒めておいて!洗い物だけしたいから!」などと頼むことも。

振り返れば、確かにあの頃はドキドキして大変だったけど、いつの間にか、それが食育の種まきになっていて、すでに料理男子として花開いてきたようです。
あーぴん先生のおっしゃっていたことは本当だなあ、と驚くやら嬉しいやら、そして蛇腹キュウリで息子に負けたことが悔しいやら、の筆者でした。

うまくいった息子の蛇腹キュウリ。「ママに勝った!」感が、とても得意げでした。

都市農業ライター

三文字 祥子/SHOKO SAMMONJI

都市農業ライター「畑と私」
広告などの企画・編集・コピーライターを続けてきた傍ら、練馬区での都市農業を楽しんで暮らす。
農業から自然や環境、収穫物を食卓に載せるまでの工夫を考えるのが好き。
趣味は三味線、民謡、盆踊り。

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『東京de収穫体験フェスティバル』開催レポート

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