東京産食材を使った料理を味わい、体験することで「食」や「農」の多彩な魅力を発見するイベント「東京味わいフェスタ2024(TASTE of TOKYO)」が、10月25日(金)から27日(日)までの3日間、丸の内・有楽町・日比谷・豊洲の4会場にて開催されました。
今回は、秋らしい爽やかな一日となった10月26日(土)に、丸の内会場を訪問した際の様子をお伝えします。

江戸東京野菜

美しく並ぶ江戸東京野菜に迎えられて、胸が高鳴ります。

東京駅正面からまず左手にJA東京女性組織協議会による焼き芋と芋煮の匂いにつられて歩を進めると、今年も貴重な江戸東京野菜と全国の伝統野菜の販売コーナーが迎えてくれます。

JA東京中央会の江戸東京野菜推進担当である川並さんにお話を聞くことができました。
江戸東京野菜と全国の伝統野菜は、江戸時代に行われていた参勤交代を通じて全国から野菜の種が持ち込まれ、江戸の土壌に適した品種が江戸東京野菜として根付き、さらに地方に逆輸入される形で広がっていったそうです。
例えば、尾張から持ち込まれたダイコンが練馬ダイコンとなり、それが鹿児島県の山川ダイコンにつながっているとの歴史があるそうで、とても心惹かれました。新宿の内藤トウガラシも、内藤家が信州高遠藩の家柄だったことから、信州のトウガラシが持ち込まれたとは、思い至りませんでした。

江戸東京野菜は、生産量が少ないため日頃はなかなか入手できませんが、今回のようなイベントで触れることで、江戸とつながる東京の今を感じることができます。旅する種の物語は、リレー出荷などで地域間連携する現代の農業にも通じるロマンを感じました。

豊かに並ぶ東京の青果や加工品たち

国分寺市、国立市、八王子市、練馬区など都内の生産者コミュニティである東京農村のほか、各ブースでは、顔の見える生産者の野菜や加工品が並びました。
同じ野菜でも、作り手によって、品種の選び方、育て方が違うのが良くわかります。
普段は限られた販売ルートでのみ売られているものも多く、味わいフェスタは、お気に入りの青果や農園を見つける絶好の機会です。

また、東京都地域特産品認証食品(イイシナ)をはじめ、東京都産や都内事業者の想いがこもった加工品を買うことができるのも魅力です。

東京農村は今回も品数豊富。葉物野菜なども多く並んでいました。

大振りな無農薬レモンにも惹かれます。

「ミズとうきょう農業」の梅村さんが経営するネイバーズファームのブース

八丈島のひんぎゃの水塩仕込みの、明日葉コーラ。

遠忠食品株式会社は老舗佃煮屋ですが、日本の食への想いから、希少な東京産の柳久保小麦(江戸東京歴史伝承作物)を用いたパンケーキミックスを販売しています。

東京産食材を使う東京ジャム株式会社のブース。
ジャム以外もいちごミルクの素など、そそられる加工品が盛り沢山。

八王子市の磯沼ミルクファームのヨーグルト

米粉パンを食べよう!TOKYO JAPANキャンペーン

行幸通りを進むと米粉ホットドッグのキッチンカーに行列ができていました。
東京都では、TOKYO JAPANキャンペーンとして、米粉を使ったパンを工夫して売り出す参加店を募集しており、現在加盟店は127件(令和6年11月現在)に達しているそうです。
その加盟店のパンと、東京の地域特産豚肉のTOKYO Xの具材を組み合わせたメニューが販売されていました。

どのパンもこだわりが素晴らしく、迷いますが、私はBにしてみました。

なぜ東京都が米粉の普及に取り組んでいるのか、TOKYO JAPANキャンペーンの背景について、東京都産業労働局農林水産部の伊藤さんからお話を伺いました。

東京都は、令和4年のロシアのウクライナ侵攻による小麦価格の高騰を契機に、都内1,400万人の食を支えるための施策のひとつとして、米粉の振興を行っているとのこと。
自治体の食料政策というと、生産者支援のイメージがありますが、東京という大消費地で「なにを食べるか」という方向づけは、全国の一次産業に大きな影響を与えることを感じました。

いただいた米粉ホットドッグは、パンの焦げ目も食欲をそそる色で工夫されており、しっとりほわほわのパンとジューシーなソーセージの組み合わせが、全く新しい感覚でした。食べごたえはあるのに、小麦のパンよりぐっと軽やかな後味が嬉しい一品で、加盟店の実力を感じます。

ほわほわのパンとプリッとしたソーセージの組み合わせが新しく、一瞬でお腹の中に。

筆者は、お米を炊くのが好きな反面、米粉メニューについては知識が乏しく、どの米粉をどう使うか難しいしと思っていたのですが、実は2017年に農林水産省が、菓子・料理用、パン用など用途ごとに米粉の基準を公表し、ぐっと米粉が選びやすくなったそう。
伊藤さんからも、農林水産省の「広がる!米粉の世界」、日本米粉協会のサイトなど、米粉を使いこなすためのレシピや情報は、沢山あるので、ぜひ見てくださいねと教えていただきました。
この冬は、グラタンやクリームシチューなど、作りやすいレシピから挑戦してみようと思います!

ライブキッチンステージ

お腹もあたたまり、いよいよ本日のメインイベント、「TASTE of Kitchen」(一流シェフ×東京産食材のライブキッチンショー)がはじまりました。
筆者が「Farmers Marketの枠を越えていけ!!! ひのトマトフェス2024」で取材させて頂いた「ミズとうきょう農業」梅村桂さんのネイバーズファームのミニトマトとカブ、「ミスターとうきょう漁業」の西田圭志さんが三宅島で釣り上げたキンメダイ(金目鯛)を使ったレシピを、「ミズとうきょう林業」で、檜原村の林業会社である東京チェンソーズに勤める飯塚潤子さん提供のヒノキの器と箸、サクラのカトラリーで食すというイベントです。
恵比寿 笹岡の笹岡隆次シェフと、morceauの秋元さくらシェフが調理するのを、HAL YAMASHITA 東京の山下春幸シェフが実況するという贅沢な企画。

東京観光大使でもある山下シェフの軽妙な語り口に誘われて、梅村さん、西田さん、飯塚さんがそれぞれお仕事によせる思いを自然体で沢山お話してくださいました。

それぞれの想いの熱さが伝わります。

梅村さん(写真右)は、最先端のトマトの水耕栽培と同時に竹籠などの伝統的な道具や技術に学ぶことの多い農業の奥深さ、江戸東京野菜のノラボウナの甘みのある美味しさなど、東京の農業の魅力をご紹介いただきました。

西田さん(写真左)は、東京から南に180キロの三宅島の自然の中で過ごすストレスのない暮らしの喜びと、漁獲高が減る厳しさや温暖化や潮流の変化で変わる海の様子(キンメダイは深海にいるので影響を受けにくいのだそう)など、水産業の現実を語ってくれました。

飯塚さん(写真中)は、東京の4割が森林であるものの、急斜面かつ小規模で機械化しにくい都内林業の特徴と、森と街をつなぐ加工品やワークショップで活路を見出す東京チェンソーズの取組と、50年後、60年後の未来を作る林業・木工業の役割をお話しいただきました。

それぞれに喜びと、厳しさと、希望と、挑戦を語られる皆さんの魅力で料理の前から心が満たされました。

あっという間に始まった調理工程は、Youtubeでライブ配信されたおかげで、シェフの手元も良く見えます。
工程はシンプルですが、カブが型崩れせず、キンメダイがツヤピカに煮上がる笹岡シェフの煮魚と春菊のサラダのレシピ。素材ごとに味付けし、美しく盛り付ける秋元シェフのカルパッチョ。動画は東京味わいフェスタ2024のYoutubeチャンネルで見ることができますので、ぜひご覧ください。

(写真上)秋元シェフのカルパッチョ  (写真下)笹岡シェフの煮魚と春菊のサラダ

完成した料理を前にして、笑みがこぼれる三人。

食の今を知る

豊かな食材や華やかなキッチンカーが勢揃いしたイベントでしたが、どのブースでも、気候の変動や自給率向上などの現代の課題に向き合い、できるだけ良いものを消費者に提供することで、食産業の未来に繋げていきたいという生産者・小売の皆さんの意気込みに触れることができました。
お土産の袋の重さと同じくらい、食産業の今を支える皆さんの熱意と想いを受け取った一日となりました。

次回の開催レポートは、豊洲会場編になります。

食農弁護士

桐谷 曜子/YOKO KIRITANI

1977年生まれ。神奈川県川崎市出身。大手法律事務所で弁護士として企業買収、企業法務に従事後、証券会社での勤務で地方創生、海外投資、ベンチャー投資等に深く関与。その後、2014年から2022年まで農林中央金庫に在籍し、食産業及び農業に関する投資、国内外企業買収、各種リサーチや支援業務に携わる。
自他ともに認める食オタクであり、法務知識のみならず農林水産部門に関する知見を用いて、ベンチャー企業含む事業者や生産者の各種相談対応、新規事業創出支援、資金調達や事業承継支援を行う傍ら、料理で人を繋ぐことで課題解決への貢献を目指している。

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東京味わいフェスタ2024
(TASTE of TOKYO)

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