東京を\もっと/魅力的にする農家たち

土づくりや資源循環について先進的な生産者を訪ね、東京農業をもっと魅力的に、持続可能性を高めるための勉強会。有機農業に長年正面から取り組んでいる2件の農家を連続してたずねました。
1件目は、武蔵村山市で小松菜をビニールハウスで周年栽培する、「あらはたやさい学校」の荒幡善政さん。
2件目は、青梅市にて有機JAS認証(正式に「有機農産物」と表示して販売できる認証)で4haほどの規模で営農する、ヤナガワファームの柳川貴嗣さん。
有機農法を選択する農家は少量多品目が多いですが、いずれも品目を絞り、なおかつ地元の食品加工残渣を堆肥として活用しているのが特徴です。

1年を通して小松菜を無農薬で栽培

「あらはたやさい学校」があるのは米軍横田基地のすぐ横です。戦後に開墾されて一帯の農地となったため「多摩開墾」と呼ばれおり50ha以上の農地が広がります。
荒幡家はもともと所沢から立川に移住した畜産農家でしたが、基地開発によりさらに立川から武蔵村山へと移住、父親の代で養豚を廃業し野菜農家となりました。しかし荒幡さん自身は農薬がどうしても体にあわず、有機農法を選択します。武蔵村山市が生産者グループをつくって小松菜に力を入れていたこともあって、学校給食用を中心に小松菜栽培に絞って就農しました。
今では7棟のビニールハウスで小松菜を農薬、化学肥料を使わずに1年通じて途切れることなく栽培しています。小松菜は虫害も病気も出やすい野菜で、一度発生しまえばその連鎖を断ち切るのは容易ではありません。今回、参加した農家たちが一番関心を持ったのもその点でした。
「あらはたやさい学校」とは野菜づくりを教える学校という意味ではなく、「畑は学校、生徒は野菜、農家は先生」という意味とのこと。荒幡さんは野菜を出荷することを「やさい学校からの卒業」と愛情をもって表現します。
「病害虫が出てしまったらその作はあきらめてハウスごと太陽熱消毒します。水を大量に撒いて、ハウスを締め切ると夏であれば50~60℃ほどになって2,3週間でリセットされます」と荒幡さん。太陽熱消毒は特別な資材を使わずに土壌消毒ができ有機農業にとっても有効な方法ですが、それに加えて土づくりも独特の方法をとっています。

※無農薬、無化学肥料で小松菜の周年栽培を実現した荒幡善政さん

たくさんの菌を育てることで病害虫を軽減する

荒幡さんの野菜作りの考え方は基本的に「菌根菌など微生物がたくさんいるように」というものです。根と共生する菌根菌は植物の生育を助けます。
そういった有用菌を増殖させるために、現在使っているのが地元名産の「村山うどん」のつけ汁用に使う昆布、魚肉などの出汁がら、そしてクラフトビール醸造所の麦芽かすです。これらに微生物資材を混ぜることで、発酵させるというよりも微生物が増殖しやすい環境づくりをするという方法をとっています。菌根菌を育てることで野菜が土の栄養素を吸収する力を高め、最低限の有機肥料を追加で投入することで、病害虫の原因となりやすい余分な栄養素が土壌に残らないようにしています。

※うどんの出汁がらを地元飲食店から回収して畑に投入する

前回訪問した鴨志田農園では、炭素、窒素、ミネラル資材を混ぜて水分調整し、発酵温度をあげて完熟堆肥を作ることで必要な栄養素を確実に土に補給するという考え方でした。荒幡さんは、未発酵の有機物を土壌に混ぜ込んで土ごと分解を進める方法をとっているので、大きく異なるアプローチです。

※今回の見学メンバーで堆肥場づくりをお手伝い、フェンスの向こうは米軍基地

東京では希少な「有機JAS認証」ヤナガワファーム

武蔵村山市からさらに西、青梅市で新規就農第1号として10年以上有機農業に取り組んでいるのが柳川さんです。
柳川さんは青梅市出身ですが農家ではなく、一度、大手飲食チェーンを展開するグループ企業の農業生産法人で有機農業に取り組み、独立しました。新規就農で無農薬、無化学肥料に取り組む農家は少なくありませんが、有機JAS認証を取っている農業者はほとんどいません。
認証をとるためには2年間の有機的管理の栽培記録が必要なので、就農してすぐは認証を得られないうえ、認証機関に資料を提出し現地視察を経ての認証なので、時間もコストもかかり、新規就農者にとっては特にハードルが高い選択肢といえます。
「もともと勤めていた法人が有機JASでやっていたので、農法や手続きはある程度身についていました。有機JASは全体でみると大きなマーケットではありませんが、逆に言うと取り組む農家も少ないですし、確実に需要があるので売り先も安定しています。」と柳川さん。本来、「有機農産物」「オーガニック農産物」と正式に表示して販売できるのはこの認証を取った農場で栽培された農産物のみです。しかし実際には有機的な農法を取っている農家と、認証を取った農家との違いは多くの消費者に認識されていない実情があります。
それでもスーパーマーケットで「有機野菜」と明示したり、有機加工品原材料として使う場合には、この認証がなければ違法行為となります。
柳川さんはそこに着目して「確実にニーズのあるニンジン、キャベツ、タマネギ」の3品目を中心に据えて営農しています。土づくりにも時間をかけながら安定的にまとまった量を出荷するために有機認証を受けた農地を広げ、いまでは東京の個人農家としては大規模な4haを管理するまでになりました。

※1枚で7,000㎡あるタマネギ畑、キャベツの歩留まりは9割越え

「地域資源循環」をテーマに据えた本格的な堆肥づくり

4haの有機的管理となると資材も大量に必要です。有機JASの場合、肥料についても認証を取ったものしか使えない上に高価であるというハードルもあります。しかし堆肥に関しては規制が少ないので、当初より原料をなるべく安く調達して生産にかかる購入資材を節約する必要があった柳川さんは、自家製堆肥を作ることにしたのです。
幸いなことにもともと畜産をしていた農家が使っていた堆肥舎と作業機を借りることができたため、本格的に堆肥づくりに取り組むことが可能となりました。
堆肥原料についても牛糞などの動物性のものに加えて「豆腐のおから」「木工職人の木くず」「ビール麦芽かす」「酒造所の米ぬか」といったように食品加工ででる植物性有機物をブレンドして使っています。現在ではこうした資源循環をすすめて持続可能な地域を作っていくために㈱東京有機農家という法人も立ち上げて情報発信や消費者連携にも力を入れ始めています。

※畜産農家の堆肥場と機械を借り受けて資源の地産地消を実践している

地域に眠る資源をほりかえせ

荒幡さん、柳川さんの取組に共通するのは地域に眠る未活用資源を掘り起こしながら、独自の農法を築き上げ、そのうえで商業的に確実に需要のある農産物を安定供給しているという点です。
そこまでやり切るのは容易ではありませんが、荒幡さんはすでに後継者となる息子さんや常勤のスタッフとともに農業に取り組んでいて、柳川さんは研修にきた新規就農希望者の就農後のサポートもしており、少しずつその営農スタイルを横に広げていっています。
モデルとなる取組から学んで、その方法を共有できるようにしていけば東京の農家の在り方もさらに多様となり、昨今の資材価格高騰のような事態にもより柔軟に対応していけるようになるのではないでしょうか。

※機械への投資もしっかりすることで「稼げる有機農業」のモデルを作っている

㈱農天気 代表取締役  NPO法人くにたち農園の会 理事長

小野 淳/ONO ATUSHI

1974年生まれ。神奈川県横須賀市出身。TV番組ディレクターとして環境問題番組「素敵な宇宙船地球号」などを制作。30歳で農業に転職、農業生産法人にて有機JAS農業や流通、貸農園の運営などに携わったのち2014年(株)農天気設立。
東京国立市のコミュニティ農園「くにたち はたけんぼ」「子育て古民家つちのこや」「ゲストハウスここたまや」などを拠点に忍者体験・畑婚活・食農観光など幅広い農サービスを提供。
2020年にはNPO法人として認定こども園「国立富士見台団地 風の子」を開設。
NHK「菜園ライフ」監修・実演 
著書に「都市農業必携ガイド」(農文協)「新・いまこそ農業」「東京農業クリエイターズ」「食と農のプチ起業」(イカロス出版)

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『みどり戦略 TOKYO農業サロン』

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