東京を\もっと/魅力的にする農家たち

東京農業の持続性を考え実践する勉強会「みどり戦略TOKYO農業サロン」も4回目。
今回は国分寺市の「国分寺中村農園」の中村克之さんを訪問しました。中村農園は生協などにむけて東京ウドをはじめ多品目出荷をしていましたが、現在ではイチゴやトマトの施設栽培に力を入れています。出荷先も地元の飲食店や直売にシフトし、街と共生した都市農業経営の形を模索しています。

道路建設で農業経営も新たな道へ

集合場所となった中村さんの作業場と集荷場、そのすぐ横は幹線道路の工事中でした。中村農園は2017年にこの道路収容で農地の約半分ほどが収容されてしまいました。
もともと多品目栽培で、一般的な野菜に加えて東京ウドや半白キュウリなどの江戸東京野菜や島レモン、ブラックベリーなどの変わり種も生産していましたが、新たな取り組みとして面積当たりの収益性の高いイチゴとトマトの養液施設栽培に力を入れています。

※道路建設中の元畑、母屋のすぐ横を通る 

※道路沿いには新たなイチゴ生産施設を計画中

さらには、農家同士のつながりや地域団体との関係性を深めていくことで、都市農業の応援団を増やしていきました。地場野菜流通の「こくベジ」プロジェクトに深く関わる他、収容された農地の代わりに港区赤坂の土地を取得して「東京農村」というビルを建て、勉強会や交流会も盛んに行っています。

▼こくベジプロジェクトについて
https://tokyogrown.jp/topics/?id=1157498

▼東京農村について
https://tokyogrown.jp/topics/?id=1196303

都市農業を進化させる資材活用

中村さんは、もともとIT関連の仕事で働いていたこともあり新技術の導入に積極的です。
イチゴの栽培においても、狭い面積で株数をより多く育てるために、栽培する棚を上下に移動させることで通路を確保できる仕組みをとりいれました。また、農薬を削減するため、3つの工夫をしています。まずは、ハダニという害虫を食べる天敵を使った防除。次に、イチゴ自身の病気やダニへの抵抗能力を高める効果のある、紫外線を出す電灯の利用。さらには、ビニールハウス入り口での、害虫の忌避効果のあるネットの使用です。

ハウス以外の露地栽培でも、害虫となる蛾を防ぐ「防蛾灯」を広範囲に設置することで、農薬使用の頻度や手間を軽減する取り組みをしているのですが、このように複数の方法で病害虫が発生しにくい環境を作ることを「総合的病害虫管理」=IPM(Integrated Pest Management)防除といいます。
病害虫を総合的に予防するIPM防除に取り組んできたのは、縮小するまちなかの農地で、周囲との調和を考えた農法に取り組みたいという想いからですが、中村さんが今新たに注目しているのが「バイオスティミュラント」です。

ヨーロッパで生まれた新しい概念「バイオスティミュラント」

「バイオスティミュラント」とはヨーロッパで生まれた新しい言葉です。
「Bio」(生物)と「stimulate」(刺激)を組み合わせたもので、日本語にするならば「生物刺激剤」となります。農林水産省の「令和4年 みどりの食料システム戦略 中間報告」にも「バイオスティミュラント(植物の免疫力を高める技術)を活用した革新的作物保護技術の開発」が、今後の化学農薬低減のための具体的取り組み内容として取り込まれています。
しかし、現状では農薬や肥料のように法律に基づいて登録される資材ではないので、明確には定義されていません。一般的に販売されているものの多くが、土壌に液体や固形物を散布することで、植物の成長を促進したり病害虫などのストレスへの抵抗力をつけることを謳っています。

今回の勉強会では、バイオスティミュラントを研究されているバイオサイエンス博士の金鍾明(キム ジョンミョン)さんからお話を伺いました。
金さんは、理化学研究所植物科学研究センターおよび 環境資源科学研究センター研究員として植物の環境ストレス時の変化の研究をしていたころ、高温乾燥状態から植物が身を守るときに酢酸を生成することを発見し、このメカニズムを国際学会誌「ネイチャープランツ」で発表します。その後、理化学研究所認定ベンチャーの(株)アクプランタを設立し、このメカニズムを応用した全ての植物を乾燥と高温から同時に守る新技術資材として「スキーポン」を開発しました。
現在は、この新技術を世界展開するとともに、植物の成長および環境適応に関するエピジェネティクス研究を精力的に進めておられます。また、東京大学大学院農学生命科学研究科 特任准教授も兼任されています。

施設栽培と夏の作付けでの効果を期待

中村農園では、農地面積こそ縮小したものの、直売や経営の多角化により施設栽培の労力確保が課題となっていました。ビニールハウスは低温や降雨から野菜を守る効果がありますが、油断していると高温や乾燥などによって、あっという間にすべてを枯らしてしまうリスクもあります。
施設栽培は、温度や湿度を管理しながら換気や遮光をするなど、気の休まらない栽培方法でもあるのです。
新しい資材を活用することで、金さんの研究結果のとおり、植物が耐性をもって多少の高温乾燥では枯れずに生育し続けるという効果が発揮されるならば、中村農園の課題解決につながるかもしれない、と中村さんは期待しています。

スキーポンは一例ですが、農業資材には様々な効果を謳うものがあって、どのように選んでいいのか判断が難しい場合が多々あります。
農業者同士が、情報交換や勉強会を通して新しい技術を試してみる機会を作っていくことは、広範囲での技術向上につながるのではないでしょうか。
今回の勉強会に参加した農家たちにも、新たな発見があったようです。

㈱農天気 代表取締役  NPO法人くにたち農園の会 理事長

小野 淳/ONO ATUSHI

1974年生まれ。神奈川県横須賀市出身。TV番組ディレクターとして環境問題番組「素敵な宇宙船地球号」などを制作。30歳で農業に転職、農業生産法人にて有機JAS農業や流通、貸農園の運営などに携わったのち2014年(株)農天気設立。
東京国立市のコミュニティ農園「くにたち はたけんぼ」「子育て古民家つちのこや」「ゲストハウスここたまや」などを拠点に忍者体験・畑婚活・食農観光など幅広い農サービスを提供。
2020年にはNPO法人として認定こども園「国立富士見台団地 風の子」を開設。
NHK「菜園ライフ」監修・実演 
著書に「都市農業必携ガイド」(農文協)「新・いまこそ農業」「東京農業クリエイターズ」「食と農のプチ起業」(イカロス出版)

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『みどり戦略 TOKYO農業サロン』

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