東京農業の発信拠点がなぜ赤坂に!? 作ったのは1人の農家の熱い思いから

みなさん、こんにちは。東京で野菜を作るアナウンサー!ベジアナの小谷あゆみです。
師走も半ばを過ぎ、みなさんお忙しくお過ごしのことと思いますが、世田谷にあるうちの農園では大根が大豊作で、ただ今ベランダで切り干し大根づくり真っ最中~!
すのこ一面に刻んだ大根が並び、なかなか圧巻ですよ。
さて、東京の農業といえば、知る人ぞ知る発信拠点が、港区赤坂にあります。繁華街のみすじ通りに堂々と建つそのビルの名は「東京農村」。
5階建ての1階は都内産の野菜や食材が味わえるビストロ、2,3階までが飲食店で、4階はシェアオフィス、5階はシェアキッチンと、東京の食と農に関わる人たちが集まる拠点なのです。その東京農村が先月、誕生から3周年を迎えました!
なにがすごいって、この拠点を作ったオーナーは、都内で野菜を作る1人の生産者なのです。

東京農村オーナの「国分寺中村農園」中村克之さん

1人の生産者から始まった東京農村

東京農村のオーナーである、国分寺中村農園の中村克之さんは、国分寺市で東京うど、イチゴ、トマトなどを中心に年間40品目程度を栽培する野菜農家。IT系の企業勤めを辞めてから妻の実家で農業を継いで12年です。
街中で人々の暮らしがそばにある東京農業の「使命」として、環境保全型の農業に取り組んでいます。IPM(総合的病害虫管理)という化学農薬だけに頼らない概念を取り込み、人や環境へのリスクを抑えた栽培をしています。
また、「こくベジプロジェクト」への参画など、これまでも食と農をつなぐ取り組みをしてきた中村さんにお話を聞いてきました。

ベジアナ:東京農村3周年おめでとうございます!
「東京農村」をつくった思いを聞かせていただけますか。

中村さん:おかげ様でありがとうございます。東京の農家は限られた経営面積の中でそれぞれ工夫しながら丁寧に農作物を栽培しているものの、都内の消費者に認知されておらず、飲食店やホテルなどでもほんのわずかしか使われていない状況でした。
地域にとっても意義のある農業をもっと知ってもらうためには、、農家自ら東京の農業を発信するしかないとずっと感じていたのです。
そんな中、うちの農地が道路収容になり、その代替地として赤坂見附の場所が手に入ったので、この想いを形にしようと東京農村を立ち上げたのです。

ベジアナ:なるほど、しかし国分寺ではなく、赤坂にビルを建てるというのはずいぶん思い切った決断ですが、農家のお義父さんは、反対しませんでしたか。

中村:よくよく話し合ったので反対はしませんでしたが、うちはあくまでも不動産屋ではなく、農家だぞと。「先祖代々の土地を耕して大根を一本一本作るのが農家の本望だということだけは忘れるな」という言葉は今も覚えています。

ベジアナ:かっこいいお義父さんですね。農業とは、農家とは何か。思想がある人の言葉ですね。さて、いま3周年を迎えて、いかがですか。

中村さん:東京農村の経営は、コロナ禍もあってテナントの方々も本当に厳しい状況でしたが、単なる大家と店子という関係ではなく、同じ東京農村のチームとして共に支えあって来たからこそ3周年を迎える事が出来ました。
また、建物だけでなく「東京農サロン」という交流の場も重要な役割を担っています。東京農業に関わる人や、応援してくれる人のために、毎月開催している交流会です。
やはり人と人をつなぐことが、いちばん東京農業の発信につながると考えています。

「東京農村」は、東京の農業を応援する『コミュニティハブ』

「東京農サロン」は、食と農で地域活性化を志す人たちが集まり、村々にある井戸端のように、自然と会話が生まれる場所。ここから東京の新しい食文化を発信するというコンセプトを掲げています。
「東京農サロン」の運営を任されているのは、株式会社農天気代表で、NPOくにたち農園の会・理事長として、国立市を中心に新しい「農」サービスを企画運営する小野淳さんです。

ベジアナ:「東京農サロン」とは具体的にどんな集まりなのですか?

小野さん:生産者をはじめ、流通、ブランディング、販売、小売、食関係など様々な業種の人が参加していて、ビジネスマッチングというより、自分達が聞きたいことを、聞きたい人に聞くという自由な交流会ですね。
エマリコくにたちの菱沼さん(後出)と私とで月毎にテーマと、登壇してもらう人を決めています。農家同士って、顔見知りではあっても、わざわざ他の人の畑にまで見に行かないので、実際にどんな農業をやっているのかお互い知らない場合も多いんですよ。そういうことを農サロンを通して、改めて学び合っています。

リアル参加者は毎回15~20人ぐらいとあえて人数を絞っています。
みんながお互いのことを知って、東京農業の課題も、新しい情報も、共通認識が高まっていくことで話を深めやすくなります。そうして全員のリテラシーがあがっていくのが農サロンの価値だと考えています。
そこで生まれた人脈や情報を、それぞれが本業に持ち帰って生かしていくという形でしょうか。

株式会社農天気代表の小野淳さん

もう一人の運営メンバーは、東京農業活性化ベンチャーとして、創業10年を迎えた(株)エマリコくにたち代表の菱沼勇介さん。
国立市を中心に東京都内130戸の農家さんと取り引きする地産地消特化型の流通企業で、小売店のほか、飲食店、収穫体験事業等を展開しています。

ベジアナ:東京農サロンの立ち上げから運営に関わっておられるということですが、この3年を振り返っていかがですか?

菱沼さん:ひとことで言えば、「刺激」ですね。 他の生産者や他の経営者が考えていることに触れて、さまざまな刺激を受けることは、経営においてとても大事なことです。
お互いに本音で語れるところが、実のある刺激になるポイントだと思います。

ベジアナ:農サロンとご自身の活動を通して、これからの東京農業への期待は?

菱沼さん:関心を持ってくれる市民が多いのでそれを活かしたいですね。いまの若い農家が成長してくると、がぜん東京農業は百家争鳴で面白くなってくると思います。
その面白さを伝えるのには、農家じゃないけど農業に関わっている「中間層」が大事です。エマリコくにたちや東京農村が「中間層」を増やす役割を果たさなくては、と考えています。

(株)エマリコくにたち代表の菱沼勇介さん

オーナーの中村さんにも伺いました。

ベジアナ:これから東京農村を通して、東京の農業にどんな希望をお持ちですか?

中村さん:この3年で、東京農サロンで多くの繋がりができ、ようやく実を結びそうだと期待しています。東京の農業とひと口に言っても、エリアごとに規模や特徴は様々です。
各地域の特徴や特産品を紹介したり、農業者自身の発信の機会を増やしていきたい。
また、農水省の発表した「みどりの食料システム戦略」でも、人々の暮らしと農との関わりはますます重要になっていると指摘されています。
農業をベースに、これからの日本、東京の未来を語れる場を作っていきたいと思います。

同じく、小野さんにも聞きました。

ベジアナ:これから東京農業はどんなふうになると思いますか?

小野さん:農家と非農家、農地と非農地の境目がどんどんあいまいになっていくんじゃないでしょうか。
今までは、農業といえば、農家と農地も含めた3点セットが当たり前でしたが、いま既に東京では、農地じゃなくても畑をやったり、屋上菜園もありますし、「農地」の定義があいまいになっていると感じます。
農地を使わなくても、農的な営み、いわゆる「農ライフ」はできるので、いろんな人がいろんな形で関わるようになるでしょう。
ただ、関わる人が増えると、いろいろトラブルも起きやすい。農地の管理に市民が関わるときに、交通整理が必要ですよね。ある程度はフィルターにかけないと、地域の環境は守られません。そうしたお助け組織として、いい状態で住民にシェアできるように、情報交換も含めてマッチングのお手伝いをしたいと思っています。

ベジアナ後記

コロナ禍もあり、生活のそばに「農」があることは、地場産の食の提供だけでなく、心身の安らぎやほっとする居場所としてなど、様々な意味での健康・健全をもたらすと、多くの人が気づき始め、東京農業の可能性と希望はますます高まっています。
みなさんのお話に共通していたのは、中間層、マッチング、発信、交流、場づくりといった「間をつなぐ」キーワードでした。
農の価値がどんどん進化しているこの時代、生産と消費を結び直す仲介役も、今までにないイノベーティブな発想が求められています。
その答えを探して走り続ける仲間とアイディアの集まる場所が、「東京農村」なのかもしれません。

野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」

小谷 あゆみ/KOTANI AYUMI

世田谷の農業体験農園で野菜をつくるアナウンサー「ベジアナ」としてつくる喜び、農の多様な価値を発信。生産と消費のフェアな関係をめざして取材・講演活動
介護番組司会17年の経験から、老いを前向きな熟練ととらえ、農を軸に誰もが自分らしさを発揮できる「1億農ライフ」を提唱
農林水産省/世界農業遺産等専門家会議委員ほか
JA世田谷目黒 畑の力菜園部長
日本農業新聞ほかコラム連載中

東京農村

所在地
〒107-0052 東京都港区赤坂3-19-1
WEBサイト
http://tokyo-noson.com/

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ベジアナが行く!「東京×カラフル×農業」

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