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東京都内にも、田植え体験ができる場所があります。多摩川の上流域、青梅市にある繁昌農園では、毎年参加者を募って「米人(こめびと)になろうプロジェクト」という田植えイベントを開催しています。今年で4回目を迎えるこの取り組みに、編集部も参加しました。泥の感触とお米づくりの大変さを全身で感じながら、農園を営む繁昌知洋さん、本イベントの共同運営をする奥薗和子さんにお話を伺いました。

バスを降りたら、そこは別世界。青梅の田んぼへ

青梅市にある岩蔵温泉郷近くは、江戸時代から田んぼが広がる土地です。緑豊かな木々が生い茂り、澄んだ空気の中に水の流れる音が聞こえてきます。都内からわずか1時間の場所に、こんな景色があることを、訪れるまで想像していませんでした。
このエリアに、編集部が足を踏み入れたのはイベント当日の朝。集まった参加者は約20名。子ども連れの家族や、過去の開催時にも参加したというリピーターの姿も見えました。笑顔で田んぼに駆け寄る子どもたちの様子に、このイベントの温かい空気感が伝わってきます。
田んぼのほとりに立つと、青々とした苗が風にそよいでいます。青梅市の自然を前に、「東京にこんな場所があるんだ」という驚きと、イベントへの高揚感を覚えました。

田んぼが広がる里山

素足で泥に入る。お米づくりの大変さを実感

いよいよ田植えがスタートです。靴下を脱いで、素足で泥の中へ入ります。冷たくて、やわらかくて、足がずぶっと沈みました。参加者からも、思わず「わあっ」と声が上がる中、子どもたちは楽しそうに泥を踏みしめながら田んぼの中へ進んでいきました。

素足で泥に入る

田んぼの両端に渡した、約30cm間隔の目印がついたロープに沿って、1か所あたり3〜4本の苗をまとめて植えます。ただ植えるだけでなく、泥の中に差し込んだら少しひねるようにして植えるのがポイント。一見シンプルな作業に思えますが、腰をかがめたまま後ろへ後ろへと下がりながら植え続けるのは、想像以上に体力が必要でした。
普段スーパーで何気なく手に取るお米が、こうした手間と時間の積み重ねでできているということ。知識としては知っていても、体験するとまったく違います。
植え方を教わりながら、参加者が横一列に並んで和気あいあいと作業が進みます。時間が経つにつれてスピードアップしていき、それに伴って一体感が高まりました。初めて会う人とも、田んぼの中では自然と声をかけ合い、一緒に苗を植えていく。農業ならではの、共同作業の力を感じた瞬間でした。

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田んぼの景観を残し、農業に関わる人を増やしたい

このイベントの主催は、繁昌農園の繁昌知洋さん。東京都小平市出身で、2016年に青梅市で新規就農し、化学肥料や農薬を使用せずに野菜を育てています。同じく青梅市で就農している農業仲間の奥薗和子さんとともにイベントを運営し、今年で4回目を迎えました。

イベントを始めたきっかけについて、奥薗さんはこう話してくれました。
「もともとこのあたりは、江戸時代から続く田んぼ地帯だったんです。実際に、この土地で野菜を作ったところ、隣の田んぼから水が入ってきてしまって困ることもありました。それなら最初から田んぼとして使われていた場所は、ちゃんと田んぼとして残してあげた方がいいと思ったんです。」

また、田んぼの景観を守りたいという想いも込められているそう。
「稲刈りのシーズンや、収穫後に稲藁を天日干ししている風景って、本当に美しいんですよ。一帯がそういう景色になっていると、すごく素敵な場所になるんです。ただ、お米づくりは一人ではとてもできない。繁昌さんも同じ気持ちでいると知り、それならイベントという形で、皆さんの力を借りながらやろうと動き出しました。」
稲藁や米ぬかといったお米づくりの副産物が、野菜栽培にも活かせる。たとえば、マルチシートの代わりに稲藁を畑に敷くことで、土を守り、雑草を抑えることができるのだそうです。田んぼと畑が循環しながらつながっている、そんな農業の奥深さを感じました。

お米の苗

東京でお米をつくる、苦労と魅力

青梅の地で農業を営むことは、魅力と苦労の両面があります。
「電車を降りて、少し山を越えるだけでこういう景色になる。都内にいながら、こんな里山が残っているって、すごく魅力だと思うんです。土を触っているだけで心が満たされる感覚があります。」と奥薗さん。
一方で、天候との戦いは毎年続きます。台風や大雨のたびに増水する川の水をどう管理するか、地域の農家さんとも連携しながら対応しているそうです。イノシシなどの獣害もあり、丹精込めた作物が被害を受けることも少なくないといいます。しかし奥薗さんは「そういうことも含めて、自然の中で共存しているということかな、と思うようにしています。」と語ります。
草が伸びれば手で抜き、暑い中でも根気よく世話をする。「根性がないとできない世界」と奥薗さんは笑いますが、苗が根を張り、青々と育っていく姿を見ると、「やっぱりやってよかった」と思えると話してくれました。

東京でお米をつくる、苦労と魅力

繁昌さんが語る、「農民を増やしたい」という想い

繁昌さんは「ただ米を作るだけでなく、五感をふるわせてほしい」と語ります。「東京は人口が多い場所。だからこそ、人と人とのつながりを大切にしたいんです。自分が農家になることはできないけれど、農業には関わってみたい、体験してみたいと思う人も多くいます。だからこそ、こういったイベントをきっかけに、子どもから大人まで"農民を増やす"というのが僕の目指す形です」と繁昌さん。リピーターも多く、毎年経験を積むごとにどんどん手つきが上手になっていくのだそう。「去年来た子が今年は別の子に教えてくれたりしています。みんなで学びながら、年々成長していると感じています」という言葉に、このイベントが単なる農業体験を超えた、人と人のつながりの場になっていることが伝わってきました。

繁昌さんが語る、「農民を増やしたい」という想い

繁昌さん(左)、奥薗さん(右)

イベントの他、各地で農業に関する講義をしたり、保育園で農業を教えたりする活動も精力的におこなっている繁昌さん。若いうちから農業を「かっこいい」と感じてもらい、人とのつながりを育て、担い手の輪を広げていくことが、思い描く未来だといいます。

泥の感触が教えてくれたこと。東京農業が結ぶ、食と人とのつながり

自分で植えた苗が、この秋には稲穂になり、収穫して、乾燥させて、精米して、はじめてお茶碗一杯のご飯になります。
今回のイベントを通して、食卓に並ぶお米の背景には、多くの手間と時間があることを改めて実感しました。一度経験すると、お米を見る目が少し変わるかもしれません。スーパーで手に取るたびに、泥の感触や田植えの記憶がよみがえる人もいるのではないでしょうか。

東京にいながら、里山の風景の中でお米をつくる体験ができる場所が、青梅にはあります。都市農業の魅力は、生産者と消費者の距離が近いことだけではなく、こうして食と人と自然がつながっていくことにもあるのかもしれません。

泥の感触が教えてくれたこと。東京農業が結ぶ、食と人とのつながり

荒井名南/Meina Arai

「食で未来を拓く」をコンセプトに、毎日の食卓に寄り添う管理栄養士。3人の子供を育てる母親として、忙しい日常の中でも「健康という土台」を大切にする食事を提案している 。
管理栄養士、フードスペシャリスト、離乳食アドバイザーなどの資格を持ち 、雑誌やWebメディアでの実績も豊富 。現在はレシピ開発のほか、地域のこども食堂に携わるなど、食を通じたコミュニティづくりにも尽力中 。

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