駅前のにぎわいを抜けると、広がっていた“東京の畑”
西武池袋線の清瀬駅に到着すると、駅前には大きなマンションや飲食店が並び、「本当にこの街に畑があるのだろうか」と少し意外な気持ちに。東京らしい住宅街の風景が広がっていました。
ところが、バスに乗って大通りを曲がると、景色はすぐに変化。視界が開け、大きな畑が点在する風景が見えてきます。都市のすぐそばに、こんなのどかな場所が残っていることに驚かされました。
清瀬市は、市内の約17%が農地なのだそう。
初夏になると、甘みたっぷりのトウモロコシが美味しい季節。東京でも、トウモロコシ栽培が行われていることをご存じでしょうか。
今回は、池袋から電車で約30分の清瀬市にある農園を訪問。住宅街と農地が混在する景色のなかで、トウモロコシの栽培に取り組む生産者の想い、都市農業の魅力を取材しました。
西武池袋線の清瀬駅に到着すると、駅前には大きなマンションや飲食店が並び、「本当にこの街に畑があるのだろうか」と少し意外な気持ちに。東京らしい住宅街の風景が広がっていました。
ところが、バスに乗って大通りを曲がると、景色はすぐに変化。視界が開け、大きな畑が点在する風景が見えてきます。都市のすぐそばに、こんなのどかな場所が残っていることに驚かされました。
清瀬市は、市内の約17%が農地なのだそう。
住宅地と農地が自然に共存している様子に、“東京の農業”の面白さを感じます。畑の近くを歩くと、まだ小さい夏野菜苗が元気に成長している様子が広がります。
今回、お話を伺ったのは、「なみき農園」の園主、並木猛(なみきたけし)さん。就農して30年、セロリを主力作物に、年間を通して約70アールの畑で農業に取り組んでいます。
農業技術は、立川にある試験場で学んだそうです。試験場で学ぶ中で特に魅了されたのが、江戸川区で栽培されていたセロリの技術。「こんな作り方があるんだ」と感銘を受け、本格的に取り組むようになったといいます。
現在は、ハウスで約7,000本ものセロリを栽培。加工品作りにも力を入れているそうで、お話を聞きながら、次はぜひセロリの季節にも訪れてみたいと感じました。
トウモロコシも就農当時から毎年栽培し、品種は「味来(みらい)」一筋で現在は2,000本を栽培。家族で対面での直売や都内のマルシェに出店し、ほとんどを売り切ります。
トウモロコシは、毎年のように新品種が登場し、甘みや粒のやわらかさなど、さまざまな特徴を持つ品種が増えています。そのため、複数の品種を試しながら栽培する農家さんも少なくありません。
そんな中、並木さんは、長年ひとつの品種にこだわって栽培を続けています。「“味来”はおいしいんだよ。沸騰したお湯で1〜2分、ぐらぐらっと茹でて食べると、本当においしいよ。」そう笑顔で、おすすめの食べ方を教えてくれた並木さん。並木さん自身、初めて「味来」を食べたとき、そのおいしさに感動したそうです。その体験が、今もトウモロコシ作りを続ける原動力になっています。
「味来」は、粒がパチパチとはじけるような食感が特徴。甘みが強いだけではなく、味にしっかりと深みがあるのだとか。
話を聞いているだけで、採れたてを頬張ってみたくなります。
長年、一つの品種と向き合い続けている並木さんは、「この時期はここに気をつけないといけないな、っていうのが感覚的に分かってくるんですよ」と話します。その言葉は、まさに、“とうもろこし作りの職人”という印象です。
特に難しいのが、収穫のタイミング。カレンダーや栽培日数だけでは判断できず、「最後は自分の目を信じることが大事」と並木さんは話します。日々作物と向き合い、葉の色や実の状態を確かめながら、一番おいしい瞬間を見極めているそうです。
「並木さんのところのトウモロコシが食べたい」「また来年も食べたい」と消費者に言ってもらえるのが何よりも嬉しいので、そう言ってもらえる品質を目指している並木さん。施肥にはこだわり、地元の酪農家の完熟堆肥をたっぷりと畑に入れ、5年に一回は土を深く掘り返しながら、石やじゃりを取り除き、土に空気を入れて水はけや水持ちをよくし、トウモロコシが育ちやすい土づくりに力を入れています。
畑を案内してもらう中でも、トウモロコシを見るまなざしや話し方の端々から、長年向き合ってきたからこその愛情が伝わってきました。
“同じ品種を育て続ける”というシンプルな選択の裏には、毎年積み重ねてきた工夫と経験がある。並木さんのトウモロコシには、そんな誠実な人柄が表れているように感じました。
トウモロコシの販売時期は毎年6月ですが、数は限られています。食べたい!という人は、ぜひなみき農園のインスタグラムをチェックしてください。
並木さんは、知人の飲食店関係者や料理人などを招き、収穫体験を企画しています。
「自分から農業への思いを強く伝えるというより、料理をする人や影響力のある人が、おいしさや魅力を自然に伝えてくれたらうれしいですね。」そう話す並木さんの言葉が印象的でした。
畑で収穫したばかりのトウモロコシを味わい、そのおいしさに驚く。料理人のアイデアで新しい食べ方が生まれる。そんな体験の積み重ねが、トウモロコシの魅力を伝える大切な機会になっているようでした。
“作って終わり”ではなく、人とのつながりの中で農作物の魅力を届けていきたい。並木さんの情熱を感じました。
都市農業の魅力は、何といっても生産者と消費者の距離が近いこと。畑の様子や農家さんの思いに触れながら、“本当のとれたて”を味わえるのは、東京の農業ならではの魅力だと感じます。
取材中、並木さんが話していた「子どもたちに“もっと食べたい!”と思ってもらえたら100点」という言葉が印象に残っています。難しいことよりも、まずは「おいしい」と感じてもらうこと。その素直な気持ちを何より大切にしている様子が伝わってきました。
一方で、近年は気候変動の影響も大きく、特に初夏から夏にかけての気温上昇によって、トウモロコシ栽培は年々難しさを増しているそうです。なみき農園でも、昨年、一昨年は思うように育たず、実が入る前に暑さに耐えられずにトウモロコシがしおれてしまうこともあったといいます。
そんな中でも、並木さんは「まずは健康第一」と笑います。とにかく体が資本。これからも体調管理を大切にしながら、収量をどんどん増やしていくというよりは、より良い品質を目指し突き詰めていきたいと話してくれました。トウモロコシも作付けのタイミングを変えるなど、工夫をして消費者に届ける努力をしているそうです。
甘くみずみずしいトウモロコシに出会えた時、そのおいしさの裏側には、農家さんの日々の積み重ねと自然の力がある。今年の夏は、そんなことを思いながら、東京育ちのトウモロコシを味わってみたいと思います。
私たちはつい、いつでも同じようにおいしい野菜が手に入ることを当たり前に感じてしまいます。でも、よく考えると、トウモロコシは収穫してみないと、剥いてみないと分からないくじ引きみたいなものではないでしょうか。長年畑と真摯に向き合ってきたベテラン農家さんでも、天候には逆らえない。それは、農作物が“生き物”だからなのだと思いました。
東京在住。農家の嫁として日々の暮らしに寄り添いながら、季節の食材や家庭の食卓の魅力を言葉で伝える。取材・撮影の経験を活かし、やさしく、わかりやすい表現で旬の農産物の魅力を発信。




