朝採れ枝豆を、その日の夜に飲食店へ

「採れたての枝豆を、その日のうちに味わえる」都市農業が身近にある東京ならではの地産地消が、世田谷で始まっています。JA世田谷目黒と、地域で飲食店を展開する株式会社エヌイーエスが連携し、収穫当日に世田谷産の枝豆を三軒茶屋・渋谷エリアの約50店舗へ届ける取り組みが本格始動。生産者・JA・飲食店が一体となった食のかたちを取材しました。

農地と飲食店が近いからこそ実現する取り組み

近年、農家の高齢化や担い手不足を背景に、農地の管理をどう続けていくかが課題になっています。そんな中、JA世田谷目黒の河原会長と、世田谷・渋谷エリアを中心に「和食居酒屋」「バル」「立飲み」など多様な業態の店舗を展開する株式会社エヌイーエスの山口社長との出会いがありました。

「山口社長は、農業に関する法律についての知識も深く、お話しするほどに信頼できる方だと感じました。農業と飲食店が連携することへの展望も持っておられることを知り、それなら一緒に何かやりませんか、という話が生まれたんです」と、JA世田谷目黒の河原会長は振り返ります。何を栽培しようか検討したところ、肥料を撒く回数が少なく比較的手入れがしやすいという理由から枝豆を栽培することに。試験栽培からスタートし、お店でも提供できるようになり、今年からいよいよ本格的な取り組みとして動き出しました。

畑の所有者が高齢であることなどを理由に管理できなくなった土地をJAが借り上げ、栽培管理を担い、飲食店のスタッフであるエヌイーエスの従業員が種まきや収穫に参加しています。スタッフが農業の現場に入り、収穫したものを自分たちの店で出すというこの取り組みは、新しい地産地消の提案でもあります。

都市農業ならではの強みは、何といっても距離の近さ。農地と店舗が同じ生活圏にあるからこそ、「朝採れたものをその日の夜に味わう」という流れが実現できます。

農地と飲食店が近いからこそ実現する取り組み

JA世田谷目黒 経営管理委員会 会長の河原正幸さん

「収穫当日」にこだわる理由とは

枝豆は収穫後、時間の経過とともに甘みや香りが徐々に変化するといわれています。時間が経つほど風味が落ちるからこそ、採れたてをそのまま食べられる機会は、産地に近い場所でなければなかなか得られません。

このプロジェクトで栽培している枝豆の品種は「湯上がり娘」。甘みが強く、ぷっくりとした豆が特徴の品種です。取材当日も、収穫後に茹でたばかりの枝豆をその場でいただきましたが、豆の甘みと香りが際立ち、採れたてならではのおいしさを感じました。
河原会長は「採れたての枝豆はやっぱり香りが違うんですよ」と話します。その香りと甘みを最大限に届けるために、「収穫当日に店舗へ」というこだわりが生まれました。

「収穫当日」にこだわる理由とは

農業と飲食業が交わる新しいモデル

この取り組みのユニークなところは、エヌイーエスの従業員が種まきから収穫まで農業の現場に入ることです。プロの農家でもなく、農協の職員でもない「飲食店のスタッフ」が畑に出て汗を流す。
「楽しいですよ。それに、自分たちで作ったものを自分たちのお店で出せるというのが魅力です」と山口社長は微笑みます。実際にスタッフの反応も良く、畑での作業を楽しんでいる様子が伝わってくるといいます。
栽培の管理はJAが担い、農業の専門的な知識が必要な部分はしっかりプロが対応。一方で、種まきや人手が必要な収穫はエヌイーエスのスタッフが参加する。それぞれの強みを持ち寄った分業体制が、この取り組みを成立させています。
今回の本格始動では、2026年7月1日の初収穫から毎週収穫を行い、7月下旬まで継続する予定。収穫した枝豆は三軒茶屋・渋谷エリアを中心とした多くの店舗へ、収穫当日のうちに配送されます。

農業と飲食業が交わる新しいモデル

その日のうちにお店へ。「ローカル自給圏」が目指す食のかたち

取材した日の収穫は午前11時にスタート。収穫する人、コンテナに運ぶ人、袋に詰める人と分担して、20本の枝豆を1袋に詰めていきます。

正午にはエヌイーエスのスタッフが各店舗へ運搬を開始しました。店舗に届いた枝豆は、すぐにサヤを枝から外して茹で上げられ、夜の営業時間にはお客さまの元へ。畑から食卓まで、数時間の旅です。

その日のうちにお店へ。「ローカル自給圏」が目指す食のかたち

JA世田谷目黒やエヌイーエスは、この仕組みを「ローカル自給圏」と呼んでいます。小さなエリアの中で完結する、地域密着の食の循環。仲卸や市場を介さない分、鮮度もおいしさも直接届けることができます。

各店舗では「世田谷産」であることを示すPOPを掲示し、お客さまにこのプロジェクトの思いを伝えています。「世田谷に畑があるんだ」と驚くお客さまも多いといい、枝豆を食べながら地元の農業を身近に感じてもらえる場になっているそうです。

お客さまからの反応も良く、山口社長によると、3組に1組ほどのお客さまが枝豆を注文しているといいます。

Content Image

食べることが、農業とつながる日

大きな産地から大量に仕入れるのではなく、目の前の畑で育てたものを目の前のお客さまへ届ける。都市農業の価値は、まさにその「近さ」にあります。
冬には枝豆に続いて大根などの野菜でも同様の仕組みで運営する予定で、「季節ごとに世田谷産の食材をお店で出せるようにしたい」と河原会長は語ります。農業が大変な時代だからこそ、こうした「農業に関わる人を増やす」取り組みが、都市の中から生まれていることが印象的でした。

東京には、採れたてのおいしさを身近に味わえる都市農業があります。この夏は、東京産枝豆を通して、その魅力を体感してみてはいかがでしょうか。

荒井名南/Meina Arai

「食で未来を拓く」をコンセプトに、毎日の食卓に寄り添う管理栄養士。3人の子供を育てる母親として、忙しい日常の中でも「健康という土台」を大切にする食事を提案している 。
管理栄養士、フードスペシャリスト、離乳食アドバイザーなどの資格を持ち 、雑誌やWebメディアでの実績も豊富 。現在はレシピ開発のほか、地域のこども食堂に携わるなど、食を通じたコミュニティづくりにも尽力中 。

BACKNUMBER

東京産をおいしく食べる

RELATED ARTICLERELATED ARTICLE

トピックス

カエル×ビール=祭り? 東京まんなか水田「 やぼたん」プロジェクト

トピックス

女性農業経営者のホンネ! ~東京農業の未来を考える「東京農村」6周年スペシャルイベント~

トピックス

「自然の近くで暮らす」ライフスタイルも魅力的に! 新規就農7年目、繁昌農園が多くの人々を引き寄せる理由

トピックス

「ガストロノミー」が、東京農業の新たな一手となる!

食材ハンター

エディブルフラワー

トピックス

「地域住民との絆を結ぶ直売所」 国分寺清水農園

トピックス

多摩地域唯一の村、檜原村名産のコンニャク ~伝統のバッタ練り製法が生み出す本来のおいしさ~

トピックス

生ごみを宝に!市民が活躍するコミュニティガーデン ~日野市 せせらぎ農園~

トピックス

色で楽しむ東京野菜シリーズ ~『きいろ』編~

トピックス

色で楽しむ東京野菜シリーズ ~『橙色』編~

ページトップへ