(写真TOP)ビーツ、ラディッキオ、サラダ・ラティーナ(カブ)、フィノッキオ、トレビス、ルナなど珍しい西洋野菜品種たちがずらり。

野菜と生ハムのダブル主演 ~Casa di Caminoで味わう東京の西洋野菜~
2025年5月25日、国立駅からほどちかい「Casa di Camino (カーサ ディ カミーノ)」で、ランチイベントがありました。
開催した野村植産株式会社の野村辰也さんは種苗の販売にとどまらず、あきる野市にある自社農園で栽培を通じた研究を行い、東京西洋野菜研究会を主宰しておられます。
今回のイベントで使われた野菜は、まさにその野村さんの東京産西洋野菜たち。
そして主役は、なんと本日削り放題のTOKYO X(※)のハム原木です。
多彩な手打ちパスタを得意とする川上春樹シェフの手にかかると、どんな魔法が生まれるのか。
そんな料理の数々をご紹介します。
※平成9年に新系統豚「トウキョウ X」として認定された新しい豚です。食肉となったトウキョウ Xは「TOKYO X」と表記して区別しています。
澤井保人さんが育てた『TOKYO X』の生ハム
東京発のブランド豚であるトウキョウ Xですが、実は都内で生産されているのは全体の約1割。
その貴重な都内生産者である澤井農場(八王子市)の澤井保人さんが育てたトウキョウ Xを用いた生ハムが会場の中心に鎮座しています。
ときめきと同時に背徳感すら湧いてきます。

切り口からしっとりした口当たりを想像してみてください。
この生ハムの発酵には日本酒用の麹菌がつかわれています。
日本で製造されている生ハムはドイツのラックスハムの製法を用いた発酵させないものが主流。しかし、マイルドな塩味で醸されたハムは、絹のようにきめが細かくしっとりした舌触り、スモークサーモンにも近いような軽やかな旨味です。
TOKYO Xの融点の低い脂が舌の上でほどけ、日本酒にもぴったりでした。

脂の少ない内もも側。
外ももは大トロのようなサシが入ります。
2022年にイタリアでアフリカ豚熱が発生して以来、生ハムやパンチェッタなど同国の加工肉の輸入停止が長期化しています。
こうした状況の中で、日本の豚肉の特性や風土に合わせた生ハムづくりは、ブランド豚の価値をさらに高め、じっくりと味わえる手段として、今後ますます注目されていくと思います。

料理に使うラード部分を切り出す川上シェフ
素晴らしすぎる料理の数々 ラディッキオと生ハムのラード 自家製モッツァレラチーズのラザニア
ほのかな苦みと、くったりとした旨味たっぷりのラディッキオが、素晴らしいラードの脂の甘みとやさしいチーズに包まれ、焦げたラザニアの風味と混ざり合って、最高でした。
見た目はしっかりしているのに、いくらでも食べられる。まさに“自由なラザニア”でした!

しっかり焦がした旨味
サラダ・ラティーナ(カブ)とカラスミ 車麩のカラスミ見立て
カラスミも車麩もおいしいのですが、カブのみずみずしさが、口の中で汁気がほとばしるようで感動的なおいしさでした。

カリーノケールと自家製リコッタのクリーム、ソバの実、ティムットペッパー
ケールといえば昔は「まずい、もう一杯」の青汁に入っているようなくせの強いイメージでした。
しかし、令和のカリーノケールは、Z世代の若者のように映えるフリルをまとい、存在感はあるけど青臭くない、健やかなおいしさ。
ソバの実の食感も楽しい一皿です。
クリームのリコッタチーズまで自家製とは、すべてがすごすぎます。

ビーツとアボカドの冷製ショートパスタ「ピーペ」
個人的に最も印象深かった一皿。
土臭さのないビーツに、トマトの酸味とアボカドのクリーミーさが加わり、畑のマグロアボカドのようになっております。
パイプのような形をしたピーペは、たっぷりソースを含んで口の中でぷにょぷにょと遊び、パスタを食べる喜びを感じます。

イタリアンパセリとディル、フレッシュトマトの不揃いパスタ「マルタリアーティ」
鮮やかでとろりとしたトマトソースと、まるで群馬の郷土料理「おっきりこみ」のような素朴な三角のパスタが、ずっと食べていたくなる味です。
おしゃれ演出要因に使われがちなディルも、しっかりとした具材として口の中で香気を放ち、新鮮なハーブの力を見せつけます。

※「おっきりこみ」とは、小麦で作った幅広麺を、各家庭にある野菜やキノコなどとともに煮込む麺料理。
生ハムとイタリアそら豆(ファーベ)のリゾット
イタリアでは生食される春の風物詩のファーべが日本で食べられるなんて!
えぐみが少ないけれども、春らしい苦みがあります。TOKYO Xの生ハムの出汁を吸ったリゾットとなれば、おなか一杯でもやさしく食べられます。

チーズと優しい豆の味に、生ハムの風味が存在感を出します。
リクエストにこたえて、ロメインレタスのチャーハンを見事な手さばきで煽る川上シェフ。
レードルの柄の角度を手でぐいっと変え、あっという間に中華お玉にしてしまうその格好良さに、思わずメロメロになってしまいました。

レタス入りチャーハンは、さらに炒めたレタスをたっぷりと追加して提供されました。

野菜が主役のご馳走の豊かさ
このほかにも、「紫カリフローレ、ムール貝、あさりのブルギニョンバター風味」、「静岡富士鶏とジャガイモの煮込み カチャトーラ ジェノベーゼ仕立て」、「生ハムと焦がし玉葱のカルボナーラ スパゲッティ」など、普通なら野菜以外の食材が主役のはずの料理も、すべて野菜たちががっつり主役を張っていました。
そこに上質な脂や熟成した肉の旨味と、乳製品のコクがくわわる素晴らしさ。
忙しい毎日の中で作る日本の家庭料理では、お肉はうま味成分が加えられた調味料で味付けされ、野菜は副菜的な扱いになることが多いように思います。筆者はうま味調味料を否定する立場ではありませんが、日本人がラーメンを好むのは、熟成された本物の動物性の脂やうま味、そして野菜の甘みが溶け込んだ出汁を、身体が自然と求めているからではないかと思うことがあります。
ラードや塩蔵肉、発酵食品を使いながら、沢山の新鮮な野菜を楽しむことで心から満足する。
今回のランチは、そんな示唆に富んだ料理でした。
Professionale ma Locale

メレンゲの中には焼けてカラメル状になった甘いクルミが入っています!
デザートはほうじ茶のティラミスとイタリア郷土菓子の“Brutti ma Buoni”(ブルッティ・マ・ボーニ)でした。
Bruttiは不格好、Buoniは美味しいを表す言葉で、「でも」を表すmaを伴って、不格好なのに美味しいという名前のお菓子だそうです。
野村さんも、川上シェフも西洋野菜やイタリアの食文化など世界を見据えた広い視野で美味しさを追求し、提供するプロ中のプロです。
でも、お二人とも「まちのタネ屋さん」や「町のパスタ屋のコックさん」を志しておられる。その心は、まさに “Professionale ma Locale”(プロだけどローカル)といえるのではないでしょうか。

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食農弁護士
桐谷 曜子/YOKO KIRITANI
1977年生まれ。神奈川県川崎市出身。大手法律事務所で弁護士として企業買収、企業法務に従事後、証券会社での勤務で地方創生、海外投資、ベンチャー投資等に深く関与。
その後、2014年から2022年まで農林中央金庫に在籍し、食産業及び農業に関する投資、国内外企業買収、各種リサーチや支援業務に携わる。
自他ともに認める食オタクであり、法務知識のみならず農林水産部門に関する知見を用いて、ベンチャー企業含む事業者や生産者の各種相談対応、新規事業創出支援、資金調達や事業承継支援を行う傍ら、料理で人を繋ぐことで課題解決への貢献を目指している。