完熟イチゴの幸せを、地元で味わう 清瀬市「Tucciいちご農園」の挑戦

清瀬市にある「Tucciいちご農園」は、都心からのアクセスも良い立地ながら、まるで自然の中にいるかのような穏やかな空気が流れる観光農園です。こだわり抜いた“完熟イチゴ”を地元でそのまま味わえる地産地消スタイルと、個性あふれるブランディングが注目を集めています。
元・会社員という経歴を持つ若き生産者が、いかにして“イチゴ農家”の道を選び、どのように夢をかたちにしていったのか。その想いと挑戦の軌跡をたどります。

「完熟」を、地元で食べてもらいたい

東京都清瀬市。緑豊かなこの街で「Tucciいちご農園」は2022年に誕生しました。
農園主の土屋圭緒理さんがこだわっているのは、地元で採れた新鮮ないちごを、その日のうちに味わってもらう「地産地消」のスタイル。配送は一切せず、完熟したイチゴを早朝に収穫し、その日のうちに直売所で販売しています。

「完熟したイチゴの味わいは格別です。お客さまには、ぜひ“摘みたて”の美味しさをその日のうちに味わってほしいんです。」と語る土屋さん。手間も時間もかかる方法ですが、そのこだわりが、多くのリピーターを生んでいます。

農園では現在、「よつぼし」「かおりの」「紅ほっぺ」の3品種を販売しています。その中でも最も人気なのが「よつぼし」です。
甘味、酸味、風味、美味がよつぼし級に優れているともいわれ、第3回全国いちご選手権で金賞を受賞した品種でもあることから、販売開始と同時にすぐに売り切れてしまうほどの人気を誇っています。

会社員から一転、イチゴ農家へ

異業種から農業の世界へ飛び込んだ土屋さん。
それまでは建築関係の会社に勤務する会社員でした。転機となったのは、「幼い頃から大好きだったイチゴが、どうやって作られているのか知りたい。」と思ったこと。
次第に“自分で作ってみたい”という気持ちが芽生え、2021年には埼玉県のイチゴ農家で1年間の研修を受けました。

「最初は、“イチゴを好きなだけ食べられるかも”なんて軽い気持ちでした。でも、いざ勉強を始めてみると、イチゴ栽培の奥深さに驚かされました。温度や湿度、光の量、ほんの少しの違いで味も形も変わってしまう。だからこそ、毎日が勉強です。」

その学びの姿勢と情熱が実を結び、2022年に念願の新規就農を果たします。農園名の「Tucci(ツッチ)」は、幼少期のあだ名から取ったもので、どこか親しみやすく、訪れた人の記憶に残るネーミングです。

豚のキャラクターが“幸せ”を運ぶブランディング

就農当初から土屋さんが意識していたのは、「農園としての見せ方」、つまりブランディングでした。そのために活用したのが、東京都農林水産振興財団が実施する「チャレンジ農業支援事業」です。
この制度を通じて、ロゴマークやパンフレット、ラベルシール、のぼり、看板、暖簾、ホームページといったツールを一括で整備。中でもホームページは、イチゴ狩り予約システムとの連携やSNSとの連動が強化され、集客に大きく貢献しています。

また、土屋さんは個人的に「豚」が大好き。というのも、豚はヨーロッパでは“幸せを運ぶシンボル”とされており、自身の農園のブランドイメージとも重なるものがあったのです。
その想いをデザイナーに伝え、打ち合わせを重ねて生まれたのが、かわいらしい豚のキャラクターをあしらったロゴマーク。
見る人を思わず笑顔にする、Tucciいちご農園のアイコンとなりました。

誰もが楽しめる、ユニバーサルな観光農園へ

Tucciいちご農園では、ハウス内で高設水耕栽培を導入しています。地面より高い位置で栽培することで、かがまずに作業できるため、農作業の負担が軽減されるのはもちろん、イチゴが地面に接しないため衛生的で、見た目も美しい状態が保てます。

この設備を活かし、2023年からは観光農園としてのイチゴ狩りもスタートしました。水耕栽培のため泥がつかず、車いすやベビーカーでもそのままハウス内に入れるバリアフリー設計。小さなお子様からご高齢の方まで、誰もが安心してイチゴ狩りを楽しめる、ユニバーサルな農園づくりを目指しています。

さらに2025年からは、Tucciいちご農園のイチゴを使ったジャムの製品化も実現。
直売所で販売されるこのジャムは、レモン果汁不使用なので、柑橘類が苦手な方でも安心して召し上がれるとのことです。

地元に根ざし、未来へつなぐ農園づくり

「イチゴを好きなだけ食べたい!」そんな素朴な思いから始まったTucciいちご農園の挑戦。
地元で採れた完熟イチゴの美味しさを届けたいという信念のもと、農業未経験からの新規就農。そしてブランディングや観光農園としての展開まで、ひとつひとつ積み重ねてきた実績が、今のTucciいちご農園を作り上げています。

今後は、さらなる商品開発や地域との連携にも意欲的に取り組んでいきたいという土屋さん。彼女の挑戦は、東京都内で農業を志す若者たちにとっても、大きな希望となるに違いありません。

東京グロウン/TOKYO GROWN

BACKNUMBER

生産者を訪ねて

RELATED ARTICLERELATED ARTICLE

トピックス

新春特別寄稿 『東京農業の2025年』

トピックス

女性農業経営者のホンネ! ~東京農業の未来を考える「東京農村」6周年スペシャルイベント~

トピックス

色で楽しむ東京野菜シリーズ ~『きいろ』編~

トピックス

「自然の近くで暮らす」ライフスタイルも魅力的に! 新規就農7年目、繁昌農園が多くの人々を引き寄せる理由

トピックス

色で楽しむ東京野菜シリーズ ~『橙色』編~

トピックス

多摩地域唯一の村、檜原村名産のコンニャク ~伝統のバッタ練り製法が生み出す本来のおいしさ~

トピックス

色で楽しむ東京野菜シリーズ ~『あか』編~

トピックス

調布の農家が作ったアプリが大注目! 全国3万7千の農家が使う「アグリハブ」で生産性をあげる

トピックス

「ガストロノミー」が、東京農業の新たな一手となる!

トピックス

生ごみを宝に!市民が活躍するコミュニティガーデン ~日野市 せせらぎ農園~

ページトップへ