自転車で少し走れば、農地が点在する東京都練馬区。
筆者(埼玉県狭山市出身)にとって、練馬区に住むまで農業は自分とは関係のないものだったが、コロナ禍から始めた区の農業体験農園をきっかけに都市農業に興味を持つように。
生産から流通、消費までをワンストップで担う母さんの暮らしを“農業素人”目線でレポートします。エンジョイ!都市農業♪

子どものために始めた農園が、純粋に趣味になってきた

練馬区の農業体験農園(※1)、ついに5年目に突入しました。
SNSに写真や記録をアップし始めた頃、何人かの友人から「うちも一度やってみたけど、思った以上に大変で続かなかった」といった声がちらほら届きました。
そんな中でも、我が家はなんとか続いています。

始めたのは「GO TOキャンペーン」などが話題になっていた頃。夫が出不精なこともあり、遠出のレジャーは難しい。それならせめて子どもたちにとって、身近で息抜きになるような体験を…と考え、「練馬区の農業体験農園」に申し込みました。

あの頃、小学4年生で頼りになっていた息子も、今では部活動に多忙な中学2年生。もともと土いじりが得意ではない娘も、たまに顔を出す程度。夫は数年前から戦力外…。
そんなわけで、今は筆者が一人で畑を切り盛りしています。

(※1)練馬区が発祥の制度。利用者は入園料・野菜収穫物代金を支払い、生産緑地を農園主から貸借する形で園主(農家)の指導のもと種まきや苗の植え付けから収穫まで、年間20種類以上もの収穫体験ができる。

お借りしているのは、「イガさんの畑」。
園主は、五十嵐透さん。

昨年は忙しさもあり、特に猛暑で朝晩にしか作業できない夏期は、心が折れそうになったことも…。
けれど、冬を越える頃から、これまで「子育てや家事の一部」として取り組んでいた農業体験農園が、いつの間にか“趣味”になってきたのです。

自分で育てた野菜の美味しさはもちろんのこと、土に触れることで得られる癒し効果、自宅仕事が多い生活のなかで「外に出なければならない用事」ができることによる健康面のメリット、そして何よりストレス解消要素が多いこと!
幼い頃から好きだった草むしりも、鍬で土をワシワシ耕す作業も、葉物や大根の間引きで、野菜を引っこ抜く瞬間も……個人的にですが、どれも快感です。
――というわけで、自分を鼓舞する意味と(あわよくば、脱落した家族の復活を願って)「あー!体験農園、最高!」と、よく家で叫んでいます。

ちょうどホトケノザがピョコピョコ抜ける頃の草むしり。「こんな農場のロゴありそう!」と、思わず2案作ってしまった笑。

農業体験農園は、いわば旬野菜のサブスク

もともと、節約系主婦の筆者。
野菜の値段が上がると、ついつい「本当に必要な分だけ」しか買わなくなってしまいます。
それと逆の状況が体験農園で、こちらは「どうにか消費しなければならない大量の野菜」に追われながら、献立を考える日々になります。

ここ最近は、畑で育てたコマツナが“使い放題”に近い状況。おかげで、いろいろなレシピを自由に試しています。だってもう、これはほぼ「野菜のサブスク」状態!

ちなみに昨日は、コマツナをたっぷり使ったエスニック風の焼うどんを作ってみました。
旬の終わり頃のコマツナは、茎がやや筋張ってくるのですが、炒めることでその食感がむしろアクセントに。歯応えと存在感を逆手にとって、美味しくいただきました。

ニンニク、トウガラシ、ナンプラーが“エスニック感”のポイントです。

レシピ以外にも、思い通りにならない「旬の野菜の収穫スケジュール」に、「よし、やってやろうじゃないの!」と、なぜか燃えてくる自分がいます。
次々とやってくる野菜の大波をどう乗りこなすかと、気分は畑のサーファーに。
大変なときもありますが、意気込まず楽しみながら暮らすことも、体験農園を続ける秘訣かもしれません。

今年も、「畑から胃袋まで」の奮闘記……いえ、農業体験農園レポートを、温かく見守っていただければと思います。

今年は3月に気温が上がったからかホウレンソウの出来がイマイチで、食べられる部分を選り分けるのに苦戦した。
コマツナはシンクに新聞紙を広げ、そこで根を切り落とす作戦に出ているが、キッチンでの野菜の洗浄はなかなか大変!

講習会で知った、“ジャガイモの実”の話

練馬区の農業体験農園では、1年を通じて約20種類の野菜を育てます。園主さんによる講習会(※2)が定期的にあり、その指導のもと、自分の手で野菜を育てて収穫するスタイルです。

中でも、私が毎回楽しみにしているのが、講習の合間に聞ける「野菜にまつわるちょっとした話」。
農園や作物のこと、天気や土のこと――講習を通じて知る、身近な野菜の知らなかった特徴や農家さんの視点は、毎回、どれも興味深いです。

たとえば、3月のジャガイモの植え付けの講習会で初めて聞いたのが、「ジャガイモにも“実”ができることがある」という話。
男爵やメークイン、インカなどの品種では、ごくまれにミニトマトのような実がなるそうです。その実の中には、ナスやトマトの種のような小さな種が入っていて、それを植えると翌年にはまたジャガイモが育つのだとか。

自分の中に“野菜の知識の引き出し”が増えるのも、農業体験農園の大きな魅力のひとつです。

(※2)講習会では園主さんが立てた年間の作付けスケジュールに合わせて、種や苗の撒き方や畝の作り方、土に入れる肥料の比率、畑の管理の仕方などを教わる。

講習会で見せていただいたジャガイモの実の写真。ナスみたい!

ジャガイモって、どこまで掘ればいいの?

毎年の芋掘りの時期になると、「一個たりとも見逃すまい!」と、筆者は必死にスコップで土を深く掘り返していました。そして、毎回「これって、本当に意味あるのかな?」という疑問がフッと浮かんでいたのですが、恥ずかしながら、季節の移ろいとともに疑問を放置(忘却)し続けていました。

今年こそはハッキリさせたい!(疑問を覚えているうちに!)と、意気込んで園主さんに聞いてみたところ、答えはこうでした。
「ジャガイモは、種芋から地表までの茎の途中にできるんです。だから、種芋よりも下を掘っても、小芋は出てきませんよ。」
……えっ!これまでの(しかも真夏の!)深掘り作業、無駄だった……!?
効率よく野菜を育てるには、やっぱり“知識”って大事ですね(本当に、数年前に聞くべきでした……!)。

ちなみに先日(5月中旬)、ジャガイモの間引きをしたところ、もう小さなイモがしっかりできていました。
種芋と小芋の“位置関係”を知っておけば、私のように無駄に深く掘らなくても済みます。ジャガイモ掘り体験などに行く予定のある方は、ぜひ頭の片隅に入れておいてください!

左のようなワサワサした芋を間引くと、もう小芋ができていた。ちなみに種芋から2本だけ茎が出ているように間引く。

2024年、猛暑日のムダ作業。ひととおり芋を掘った後に「念の為」と無駄にほる筆者。
あまりの辛さに「頑張る母の背中を記録して」と息子に撮影してもらったのだったが、情けなさの証拠写真に…笑。

豆になる?木になる? エダマメの将来は“肥料次第”

先日、エダマメの苗を植えました。
そのときの講習会で「へえ〜!」と思わずうなったのが、エダマメは、『肥料をあげすぎると“木になろうとしてしまう”』ということ。
つまり、枝葉ばかりが茂ってしまい、肝心の豆が実らないのだそうです。
逆に、肥料が控えめだと、『このままじゃいけない、子孫を残さなきゃ!』とエダマメが焦って(?)、しっかり豆をつけようとするのだとか。

「いい環境だと自分が大きくなろうとし、厳しい環境だと子を残そうとする」――
“動物の本能”みたいなことが、植物でも起こるって面白いですよね。こうした肥料のバランスが、枝豆をちゃんと収穫できるかどうかの分かれ道になるそうです。

イガさんの畑では「湯上がり娘」という品種を植えている。茹であげた時のホクホク&つるん!感が伝わるなんとも秀逸なネーミング!

窒素のコントロールで、キャベツの“ふわふわ”を防ぐ?

先日の講習会では、キャベツに必要な窒素のコントロールについての話もありました。
どうやら春の土壌は窒素分が多めで、そのまま育てると野菜が“ふわ〜っ”と大きく育ちすぎてしまい、結果として腐りやすくなることがあるのだとか。

そこで登場するのが「春キャベツ配合」という、あえて窒素を抑えた専用肥料。初めて見たときは「春専用?どういうこと?秋は?」と驚きましたし、季節によって土の状態が変わることにも感動を覚えました。
正直、これまでは「土は土」と思っていました(というか、深く考えたことがなかった…)が、土壌は気温や季節、環境によって常に変化している“生きたもの”なんですよね。
「風土」という言葉があるくらいですから、土はその土地の文化や暮らしを形づくる大事な要素なんだろうなあ(ということは、風も…?)。

テクノロジーが発達しすぎた今の時代、当たり前すぎて見落としていた自然の仕組みに、今さら気づいて赤面している現代人――それが筆者です。

春キャベツ配合。練馬区農業体験農園は、野菜づくりに適した「窒素・リン酸・カリウム」のバランスを園主さんの方で診断・調整をして指示してくださる。
講習会で1畝あたりに適した「堆肥・肥料・苦土石灰」の量とその理由を教わるのだ。

編集後記

今年の5月は、驚くほど爽やかで心地よい日が続いています。
春の畑には野の花がたくさん咲いていて、それを眺めているだけでも幸せな気分になりますし、畑作業をしていると、しゃがんだり立ったり……自然とスクワット数十回分の運動になっていたりして、気づけば心も前向きに。
土や植物に触れて心がほぐれるのは、改めて「人間も自然の一部」だからかなあ、と思ったりもします。

ちなみに、5年目を迎えても寒冷紗(ネット)をかけるのは一向に上達せず、下手の横好き具合に自分でも失笑してしまうのですが、それでも野菜の育つ道理が少しずつ身に付くのも、喜びのひとつです。
今年度も、一般市民目線でお届けする畑でのあれこれを、どうぞよろしくお願いいたします。

余談ですが――
今年の春、畑の横に突如“雑草の花畑”が出現しました!
小さい頃からずっと「花畑を走ってみたい」という夢を、心の片隅にしまい込んでいた筆者ですが……思わぬ形でその夢が現実に。

「走っていい花畑なんてあるわけない」と思っていたので、嬉しくなって、娘に頼んで写真を撮ってもらう四十路乙女(気分は全力で)。
とはいえ、いざ走ってみると――ふくらはぎ丈の雑草が絡んで走りにくく、動画を見たら「四十路乙女の腿上げ運動」にしか見えませんでした(笑)。
とはいえ、夢が叶ったことは事実なので嬉しかったです!
※ちなみに、テイク3まで撮らされた娘(9歳)の「ママ、もういい?」で夢は覚めました。

都市農業ライター

三文字 祥子/SHOKO SAMMONJI

都市農業ライター「畑と私」
広告などの企画・編集・コピーライターを続けてきた傍ら、練馬区での都市農業を楽しんで暮らす。
都市農業のすばらしさを“農業素人”目線でレポートします!
密かに練馬大根引っこ抜き競技大会3度優勝の実力者。
趣味は三味線、民謡、盆踊り。
Instagramでも、日々の農業体験農園を綴っています。
https://www.instagram.com/hatake.to.watashi/

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「農業体験農園」レポート

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