キンメダイ一本釣り漁師に転身した都会っこ 小泉和彦さん

今までのキャリアを捨てて八丈島へ

17時過ぎ、八丈の神湊(かみなと)漁港に続々と漁船が戻って来ます。今回お話を聞くキンメダイの一本釣り漁師、小泉和彦さんとは漁港で待ち合わせ。夜中0時に出港した小泉さんの帰りを待ちます。すると、堤防の隙間から「美和丸」と船体に書かれた船が現れ、着岸した船の甲板に小泉さんが姿を現しました。「遅くなってすみません。今日は大漁だったんです。」と子どものようなやわらかな笑顔を浮かべながら言いました。小泉さんは横浜育ちの都会っこです。東京・青山にある大学の理工学部を出て、大手企業のシステムエンジニアとして就職。そして現在は自分の船を操る八丈島の一本釣り漁師です。システムエンジニアとなって5年で小泉さんは仕事を辞めました。その理由について彼は多くを語ろうとはしません。「とにかく自然と向き合って仕事をしたかった」とだけポツリと。

東京都のキンメダイ漁獲量は年々上昇

その後、静岡の漁業学校で船舶免許と無線免許を取得。八丈島漁協の募集を見つけベテラン漁師の若い衆として、すぐに八丈島へ。もともと友人で、仕事のため八丈島へ移住してきた美和さんと結婚し、現在では4人のお子さんのお父さんです。ベテラン漁師の下で8年間修業した小泉さんは3年前に自分の船を持ち独立しました。
この日の水揚げ量は300kg。1人で漁に出ていることを考えればやはり大漁です。高級魚として扱われるキンメダイ。東京都の漁獲量は年々上がっていて、八丈島でもキンメダイ釣りを行う漁師が増えています。小泉さんに漁の魅力を教えてもらいました。「1人で漁を始めるようになってからは、潮の流れを読み、情報を分析し、キンメがいる海域や水深を考える。それが当たって大漁だったら、アドレナリンが出まくるというのかな、充実感でいっぱいですよ。そのかわり1匹も釣れない日もあるけど。キンメは水深250~800mあたりに生息する深海魚ですが、明け方には浅い水域にあがってくるんです。暗い時間に漁場に着いて潮の流れを確認し、明け方から漁を始めます。」

東京都のキンメダイ漁獲量は年々上昇

自分が輝ける仕事に出合えた喜び

船で2泊することもあるという漁は体力的に楽な仕事ではありません。「疲れるけど、気持ちがいい。俺はこの仕事が大好きなんです。死ぬまで漁師やりますよ」と華麗なる転身を遂げた彼は言います。翌日の漁の準備をする小泉さんを眺めながら思いました。「誰でも仕事をしていれば、辞めて自然の中で暮らしたいなんて考えることもあるけれど、実行できる人は少ない。死ぬまでやりたい仕事を見つけられる人も少ない。奥様の美和さんは大企業のシステムエンジニアではなく、小泉和彦という青年が好きだったのだろう。だから彼が輝いているこの八丈島が彼女も大好きなのだろう」と。深海魚のキンメダイは年間を通して水揚げされます。たまには奮発して東京産のキンメダイを味わってみませんか。

自分が輝ける仕事に出合えた喜び

キンメダイ一本釣り漁師

小泉 和彦さん/KOIZUMI Kazuhiko

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