少しずつではあるものの新規就農者が増えている東京都。
新型コロナウイルスの蔓延を経て、自分の暮らしを見つめ直す人が増加し、農業、地方移住、二拠点(多拠点)生活に注目が集まっているのはもうここ数年のこと。
そんな状況の中、また新たに東京都西多摩郡瑞穂町に新規就農者が誕生しました。
大学卒業後に税務署で勤務、その一見すると安定的なキャリアを手放し、農業で生きていこうという決断の背景にはどんな想いがあるのでしょうか。
今回は、2024年4月から就農するフレッシュな『瑞穂町 セキ農園』の関 拓真さんを訪ねました。

市民農園から生業としての農業へ

 2024年4月から就農する関さん。年齢はなんと25歳です。
農家としての船出は、瑞穂町の7反ほどの畑からとなりました。居住用にすぐ隣の空き家も借り、農業に専念する準備は万端です。
大学卒業後は税務署に勤めていましたが、幼少期に祖父が家庭菜園をしていたことや、学生時代にひょんなことで収穫体験に行ったときのこと、働きながら自身でも市民農園で野菜を栽培していたことがきっかけとなり、少しずつ新規就農を考え始めたと言います。

 「元々、働きながら市民農園で野菜を栽培していました。それがおもしろくて、もっと本気でやりたくなったんです。」(関さん)

 農家として独立するため、新卒で入署した税務署を1年で辞めて、東京農業アカデミー(※1)に通い始めました。

 「アカデミーには、2年間通います。1年目は座学や主要作物の栽培実習を通して、基礎的な流れを学び、2年目は圃場が与えられて、自分で作付する野菜を決めて栽培します。その他にも経営理念に関してや、接客、POP作成、農機具の使い方などを学び、先進農家で研修を受けたり、本当に勉強になりました。ビニールハウスは、アカデミーで学んだことを活かして自分で張ってみたんです。ちょっと斜めになってしまっているんですけど(笑)」(関さん)

※1 東京農業アカデミー:東京農業の新たな担い手を育成するための、都内で就農を目指す方を対象とした研修施設

 市民農園で野菜を栽培していたとは言っても、農業を生業にするのとはレベル感も規模感も全く異なることでしょう。
農作業の基礎的なところから経営的なことまで、本当にたくさんのことを学んだはずです。

 「収穫したものを出荷するために調整する作業が、とても大変でした。不要な部分を取り除き、土を洗い落として水を切って、袋詰めしてようやく出荷できる状態になる。そんなに多くないなと思っても、実際に作業するとすごく時間がかかり、単なる生産だけではないリアルな大変さを痛感しました。」(関さん)

環境を整える大変さを知る

 就農先は瑞穂町を選びました。関さんは、数ある自治体の中でなぜ瑞穂町を選んだのでしょうか。

 「元々、西多摩エリアが良いなと考えていました。中でも瑞穂町は平らで広い農地が多いと聞いていて。長く続けるにはそういったところも大切だと思ったんです。そして新規就農者も多く、そういった先輩方とも一緒に農業を盛り上げていく仲間になれたら良いなと思って、瑞穂町を希望していました。今の土地は、アカデミーの講義に、東京都農業会議(※2)の松澤さんが講師でいらっしゃったときがあって、そのときのご縁で紹介していただきました。」(関さん)

 農業は基本的に孤独な作業。日々変化する外部環境に適応しながら畑と向き合い続けるには、近況や悩みを相談し合える仲間が必要不可欠です。
 東京には都内で新規就農をした農家や新規就農を目指す人が集う「東京NEO-FARMERS!」(※3)という組織があります。マルシェを企画したり、月に1度の交流会で顔を合わせたり、新規就農者同士がゆるくつながる貴重なコミュニティとなっています。

 使用する畑が決まり、アカデミーに通いながら畑の整備に時間を費やす日々。一見すると順調そうですが、すぐに栽培を始められる状態ではなかったと言います。

 「元々、梅の木が植えてあった土地でした。抜根済みではあったものの、木の幹の欠片や枝がたくさん落ちていて、すぐに耕運機をかけられる状態ではなかったんです。平日はアカデミーに通って、週末に畑を整備するという毎日を過ごしていて、西東京市に住む母にも手伝ってもらいながらゴミ出しや草取りをコツコツ続け、整備するのに半年かかりました。」(関さん)

 基本的に、所有者から土地を借りて就農する新規就農者。栽培を始めるまでの環境整備を、ゼロから積み上げていくことはもちろん大変ではありますが、将来的にもきっと大切な時間になることでしょう。

 「整備をある程度終わらせて、さつまいも、里芋、大根を試験的に植えてみました。思ったよりうまくいったのですが、それでも畑の性質的に水分が多かったり、形が悪かったりして、やっぱり実際にやってみないとわからないことってたくさんあるんだなと思いました。そのあたりも、近隣の先輩農家さんにアドバイスをいただきながら進めていけたら良いなと考えています。」(関さん)

農家としても経営者としても、瑞穂町の代表的存在に。

 新規就農1年目の今年、まずは安定的な生産を行うことが目標とのことでした。

 「1年目の今年は、まずは自分の作付けをしっかりと行って安定供給することが一番の目標です。それを続けていくことで信頼も重なってくると思うので。売り上げ的には500万円が目標で、5年目までには1,000万円に届くように頑張りたいと思っています。キャベツや大根をメインに栽培して、出荷先は市場を考えています。都市農家の場合は、軒先販売やスーパーマーケットへの卸が多いのですが、規格や品質チェックの厳しい市場に出せる農家は強いと聞いたことがあって。そこに出せるように頑張っていきます。」(関さん)

 目の前の明確な目標に向かって突き進む関さんですが、将来的なビジョンはどんなことを見据えているのでしょうか。

 「就農前に大それたことを言うようですが、将来は瑞穂町を代表する農家になりたいと考えています。安定供給はもちろん、収穫体験などを企画してたくさんの人を呼べるようになったり、瑞穂町の直売所を盛り上げたりと、様々なことにチャレンジしていきたいです。現在、様々なことを勉強させていただいている農家さんは、働く環境としても素晴らしいんです。従業員の方々とも仲良くさせていただいているのですが、雇用を生み出しているという点においても尊敬しています。自分も農家としてだけでなく、経営者としても成長していきたいです。」(関さん)

 大学を卒業して公務員という、一見すると安定的なキャリアから一転、農家としてスタートを切った関さん。農家としても、経営者としても瑞穂町を代表する存在になるべく、力強く前に進んでいます。

堀田 滉樹/KOUKI HOTTA

2000年生まれ。新潟県上越市出身。
2019年に、大学入学を機に上京。在学中の2021年より、国分寺三百年野菜「こくベジ」を畑からまちのお店や人に届ける「こくベジ便」に携わる。
現在は、東京でこくベジ便やその他の仕事に従事する傍ら、地元新潟で空き家を活用した複合施設を開業し、東京との二拠点生活を送っている。

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東京NEO-FARMERS!が東京の農業を考える。

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