25年間で培った野菜作りを後輩たちに伝える 中西真一さん

失敗を積み重ねて、それでも前へ進んでいく

「農業ってのは失敗を積み重ねて覚えていく仕事なんです。だからおもしろい。成功ばかりなんて仕事はあきてしまうんじゃないかな。失敗を経験しない人は失敗を必要以上に恐れるようになると思う。そしたら前に進めないでしょう。僕は数年前の春、大粒のひょうが降った前日に畑にかけていたネットを外してね。翌日にはダイコンやカブを全滅させましたよ。この仕事25年やっているのにね。」 八王子市小比企町で農業を営む中西真一さんは、収穫したばかりの赤々としたニンジンの選別作業の手を休め話してくれました。失敗を重ねて一人前になること、それはどんな仕事でも変わらないのかもしれません。肝心なのは失敗から学ぶこと。農業は予想が難しい自然を相手にした仕事です。特にここ数年の天候不順は難敵です。

子どもたちが残さない野菜作りへの挑戦

「2017年は野菜の大豊作が予想されていたのに、10月の長雨のせいでかなりの品薄が続いている(2017年12月現在)。でも僕らのような都市農家は過去の経験を生かし、工夫を重ねてなんとか悪天候を乗り切れば、野菜を安定して出荷できるんです」と話す中西さんはプロの顔。この地で先祖代々続く農家の長男として生まれ、大学で農業を学んだ中西さんが就職したのは大きな光学系メーカーでした。3年間の社会人経験の後、彼は実家の農業を継ぎます。「小さな頃から野菜作りが好きだったから。大企業とは違って農業は最初から最後まで野菜の面倒が見られるでしょ」と中西さんは言います。そして現在では2.5haの畑で年間30種ほどの野菜を作り、八王子市内の複数の小学校に給食の食材として野菜を供給しています。「子どもたちが口にする野菜は安全第一ですから、できるだけ堆肥などを使って農薬を減らしています。子どもたちが残さない野菜を作ることも大切ですね。例えばダイコンでいえば、しまった土で育てたダイコンは辛くて、やわらかな土だと甘くなるんです。来年からは甘みが強い黄色いニンジン作りに挑戦するつもりです。ニンジン嫌いだった子どもが食べられるようになったなんて話を聞くとうれしいですよね。」

子どもたちが残さない野菜作りへの挑戦

経験や知識を後輩たちに発信する

中西さんは八王子の野菜のおいしさを発信するために農家や和洋菓子店、飲食店の有志が立ち上げた「八王子野菜応援プロジェクト」のメンバーとしても活躍し、江戸東京野菜・八王子ショウガの栽培なども行っています。八王子の若手農家の中心的存在として、25年間、自分自身が失敗を重ねながら培ってきた技術や知識、情報を後輩たちに積極的に伝えているのです。八王子市小比企町の農家は市内でも若い人材が豊富なことで知られます。きっと中西さんのような先輩の存在が、彼らのやる気を応援しているのでしょう。来年、中西さんが新たに挑戦する黄色いニンジンを味わうのが今から楽しみです。

経験や知識を後輩たちに発信する

中西農園

中西 真一さん/NAKANISHI Shinichi

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