
(公財)東京都農林水産振興財団では、都民の皆さまに森林の魅力を伝え、自然への親しみを深めていただくことを目的に、森林浴登山を定期的に開催しています。
令和7年6月7日(土曜日)に実施された今回の登山では、一般参加者13名の皆さんが森林ガイド、財団職員と「馬頭刈(マズカリ)山」を目指し、渓谷沿いの道をたどるコースに挑みました。
途中の高明山から馬頭刈山の区間には、「関東の富士見百景」の銘板が設置されており、天候に恵まれれば富士山を望むことができるコースです。
当日の様子を、「渓谷から登る富士見のみち」と題した登山ルートとともにご紹介します。
[コース概要]
・歩行時間:約4時間30分(別途休憩約1時間)
・歩行距離:約6.5km
・標高差:登り705m/下り683m
登山の出発点は武蔵五日市駅から (武蔵五日市駅~瀬音の湯)
JR武蔵五日市駅に集合したのは、8時過ぎ。比較的遅めの時間だったにもかかわらず、「都民の森」方面行きのバス停には、まだ長蛇の列が続いていました。
「都民の森」は、「三頭山」へのもっともアクセスしやすい登山口で、売店や広い駐車場も整備されていることから、週末になるとハイカーで大変な賑わいを見せます。
この日も臨時便のバスが出るほどで、駅前は朝から活気にあふれていました。


私たちはそこから十里木バス停へとバスで移動し、秋川渓谷に架かる吊り橋「石舟橋(いしぶねばし)」を渡って「瀬音の湯」へと向かいます。橋の上からは、清流と新緑が織りなす美しい景色が広がり、朝の澄んだ空気の中で深呼吸をするひととき。
吊り橋のほどよい揺れにわくわくしながら対岸に渡り、温泉施設「瀬音の湯」の広場に到着。受付を済ませてから、参加者全員で準備運動を行い、いよいよ登山スタートです。

瀬音の湯へと続く道中、秋川渓谷に架かる吊り橋「石舟橋」を渡る参加者たち。橋の上は朝の陽ざしと新緑に包まれていました。


気温は26度を超える夏日で、天気も快晴。出発前には同行する森林ガイドさんから水分携行の確認があり、「喉が渇いたと感じたときには、すでに脱水症状が始まっています。こまめな水分補給を心がけましょう」との注意喚起がありました。
山行中の体調管理の大切さを再認識し、念のため追加の飲料水を購入してから出発しました。
馬頭刈尾根から本格スタート (瀬音の湯~高明神社跡)
行程は、「瀬音の湯」駐車場内にある登山口から「馬頭刈尾根」を登っていくルートです。
参加者は3つのグループに分かれ、それぞれに森林ガイドが2名ずつ付き、前後からサポートしながら各グループのペースに合わせて行動します。


最初はなだらかな傾斜を進み、10分ほどで「長岳(326m)」に到着。その後は一度下り、一般道の上を通る短い橋を渡って進みます。この橋の脇には「熊に注意」の看板があり、この周辺にも熊が出没することがあるようです。
ここから昼食休憩地の「高明神社跡(783m)」までは約2kmで、標高差はおよそ500m。じっくりと登っていく区間になります。
登山道はよく整備されていますが、ぬかるんだ場所や倒木を跨ぐ箇所もあり、森林ガイドによると「蜂のいるポイント」もあるとのこと(当日は遭遇しませんでした)。そのため、しっかりとした登山装備が求められるコースです。
眺望については、今回のルートでは1〜2か所ほどに限られますが、天候が良ければ富士山をはじめ、都心部から東京湾、さらには房総半島まで一望できる絶景が期待できます。この日は晴天に恵まれたものの、気温が高く、やや霞んでいました。

高明神社の手前にある大杉神社跡の眺望ポイントからの写真です。
遠景には、薄く姿を見せる富士山の稜線が浮かび上がっています。
高明神社跡に向かう途中には、立派な鳥居や石碑など、いくつかの神社跡が点在しています。山の中腹にどうやってこんな大きな石を運んだのか……そんな想像を巡らせながら登っていきました。



途中で何度か休憩を挟み、スタートからおよそ2時間で昼食ポイントの「高明神社跡」に到着。
最後には神社のある山にありがちな“あるある”とも言える、石の階段が立ちはだかり、土の道に慣れた足には一段と応えました。皆さま、まずはここまでお疲れさまでした! このあと40分ほどの昼食休憩に入ります。
昼食を終えて、再び山道へ (高明山~馬頭刈山頂)


高明山手前の高明神社跡で、昼食としっかりとした休憩をとり、12時20分頃に再スタートとなりました。
出発前には、登山靴の紐が緩んでいないか、全員で改めて確認を行います。ここから最初に向かうのは「高明山(798m)」。しっかり休憩を取った後は、再び身体を登山モードに切り替える必要があり、わずか数十メートルの登りでも意外と堪えるものです。
高明山の山頂には特筆すべき眺望はないため、休まずそのままメインピークである「馬頭刈山」へ向かいます。高明山から馬頭刈山までは約20分、距離にして600mほど、標高差はおよそ90mの登りです。
馬頭刈山の山頂手前には、都心方面の景色が開けるポイントがありました。冬の空気が澄んだ時期には、房総半島まで見渡せるかもしれません。

高明山から馬頭刈山の間には「関東の富士見百景」の銘板があり、天気が良ければ富士山が望めます。

「富士見百景」からの一枚。当日は、富士山が見えなかったため、都心方面を撮影しました。
写真左の白い小さな半円がベルーナドーム、写真中央の奥が新宿副都心方面です。
そして、最後の登り(おそらく今回のコースで最も傾斜のある区間)を越えると、無事に馬頭刈山の山頂に到着です。
山頂では全員で記念撮影を行い、いよいよ下山を開始しました。
下山開始 (馬頭刈山~和田向)
13時頃、馬頭刈山の山頂から下山を開始しました。
はじめは、少しだけ一般ルートの「大岳山(1,266m)」方面へ約90m進み、最初の分岐点から「泉沢尾根」に入り下ります。泉沢尾根は、馬頭刈山への最短ルートでもあり、登りも下りも急な傾斜が続くため、慎重な足運びが求められます。歩幅を小さく、小股を意識して歩き、ストックを使って下山する方も見受けられました。
終盤のトラバース(斜面を横切る道)はやや狭く、特に注意しながら通過します。
登山口までの距離は約1.8km、標高差480mをおよそ60分かけて下りました。

泉沢集落にたどり着くと、ようやく舗装された一般道に合流。
長閑な風景の中を歩いていくと、「貴布祢伊龍神社(きふねいりゅうじんじゃ)」が現れます。境内にはユキノシタの群生が広がり、そばを流れる涼しげな滝の音に心が癒されます。
この神社は、水の神・水龍様を祀っており、鳥居の脇には立派な滝が流れています。疲れた体に涼しい風が心地よく感じられました。



さらに舗装路を進み、和田向バス停に到着。そこからすぐの檜原村営・下元郷駐車場にて無事ゴール、そして解散となりました。
皆さま、本当にお疲れさまでした!
森林ガイドさん
今回の森林浴登山に同行された森林ガイドさんは、6名。
みなさんは、山や森、植生に関する知識が豊富なベテラン揃い。横を歩きながら同行しているだけでも、植物や鳥の種類や特徴など、さまざまな情報を教えていただくことができました。
※覚えきれないので、常にメモを取りながらの参加でした。
山行中に時折目にする「標識」にも注目です。東京都(産業労働局、環境局、建設局)、地元自治体など、設置主体によって種類や意味が異なり、それぞれが果たす役割を知ることで、普段は意識しない山や森の背景にも理解が深まりました。
山や自然環境を守るためのもの、林業振興のための表示、注意喚起の看板など、その内容はどれも奥深く、非常に興味深いものでした。
また、森林ガイドのみなさんは、登山中も常に参加者の体調や様子に気を配りながら、的確なアドバイスやサポートを行ってくれており、安心して行動することができました。
ありがとうございました!


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江口 基/Motoi EGUCHI
登山用品ブランドを運営しながら東京都や近隣の山を登っています。
東京都在住なので青梅や奥多摩、高尾、少し脚を伸ばして丹沢山塊等が好きなエリア。
一番好きな東京の山は自宅からも見える「大岳山」です。
Instagram:https://www.instagram.com/yamaneko_mountain_works/