(写真上):当日は近郊の農業者が、自慢の農産物をもって集結しました。
東京をもっと面白く、持続可能にする農業者たちの勉強会「みどり戦略TOKYO農業サロン」。
2023年度の締めくくりとして3月17日、生産者たちと東京農業のサポーターたちが交流しながら旬の農産物を一緒に調理し味わう、「東京のガストロノミー」について考える会を開催しました。
歴史や文化を学び味わう「ガストロノミー」
会場は、このプロジェクトのなかで立ち上げた「地域循環農園やっほー!」(国立市)。
東京の農産物の流通を手掛け飲食店も経営する㈱エマリコくにたちと、私が理事長を務めるNPO法人くにたち農園の会が連携して、2023年4月に開園しました。その名の通り、地域の資源(団地の落ち葉、酒蔵の米ぬか、大学馬術部の馬糞など)を集めて堆肥化し、農産物を育てています。基本的には食農体験の会場として使われており、生産物の販売は行っていません。
この1年でも、企業による「小学生向け食育プログラム」や「東京都農林水産振興財団による都民参加の収穫体験」など、様々な企画が実施されてきました。
生産者、消費者、料理人…東京農業を支える約50名が参加
今回は私たちの勉強会「みどり戦略TOKYO農業サロン」に参加してきた農業者の皆さんに声をかけて、旬の食材を持ち寄っていただくとともに、㈱エマリコくにたちが実施してきた「イートローカル探検隊」という、多摩地域の食と農を学び、ときに農作業を手伝ったりもする「大人の部活動」のメンバー達を中心に約50名が集まりました。
即興で調理を担当するシェフも加わり、それぞれが、知的好奇心を満たしながら、火を囲んで一緒に食しながら語り合うという贅沢な会となりました。
消費者の反応を直接見れる農家は、少ない。
農業者は自分自身が育てたものを、消費者が実際に食べている光景を目にする機会は、あまり多くありません。
直売所やマルシェで販売して、各家庭で消費された後で「おいしかった」「気に入ったのでまた買いに来た」という嬉しい反応に出会うことはしばしばありますが、自身の食材を扱ってくれる飲食店に出向くか、見学にきた方にふるまわない限りは、「食べているその時」の反応を直に見ることはあまりないでしょう。
今回、ウエルカムドリンクならぬウエルカム野菜として、府中市でトマトの溶液栽培を行う澤藤園の「さわとまと」を参加者みなさんに試食いただきました。
「さわとまと」は2023年4月開催の第2回全国トマト選手権(日本野菜ソムリエ協会主催)のミニトマト部門にて、最高金賞と金賞をダブル受賞している、糖度をはじめ食味を徹底的に追求した逸品です。口にすれば多くの人が今まで食べたことのない甘さと旨味に歓声をあげます。
(ちなみに、この記事を執筆中の4月11日に開催された、第3回全国トマト選手権(ミディアム・ラージ部門)でも「さわとまと甘美/澤藤園」が最高金賞を受賞されました。)
他にも、沢山のキノコを持ってきていただいたのは、日野市の日野パイロットファームの遠藤喜夫さん。
通常の出荷サイズよりあえて大きめのものを持ってきていただいたところ、屋外で実にBBQ映えし、その食べ応えに皆さん大喜びです。
こうした反応を、消費者からだけでなく生産者同士でも直接目にしながら、どんな生産方法をとってどんな苦労があり、これからどんなことに挑戦していきたいか、などなどを語り合うのは実にやりがいを感じる時間です。
東京農業は、そもそも生産者と消費者、流通や飲食店の距離が近いという特徴があります。
その距離をさらに一歩縮めることで、それぞれの間に信頼関係と敬意が生まれ、結果として営農に対する意欲が向上し、東京農業の応援団も増えることで相乗効果が生まれていくことが期待できます。
生産者と消費者の、温かな関係性が持続性を高めてくれることは間違いないでしょう。
「東京ガストロノミー」の未来
勉強会の年度区切りとして、「ガストロノミー」をテーマとした理由は、今後の東京農業のさらなる展開を意図したことも挙げられます。
「東京2020オリンピック・パラリンピック」の開催が決定したことと前後して、「観光立国」「インバウンド」というキーワードが周知され、日本における観光産業の振興があちらこちらで話題になりました。
宿泊施設などの「モノ消費」だけではなく、「コト消費」の拡充、受け入れるガイドや多言語、多文化対応などを強化し、需要に応えるべく“官”も“民”も取り組みました。
コロナ前より受け入れてきたインバウンド、留学生向け農体験。
実際に訪日外国人の数は増え続け、2019年には3,000万人を超えました。
NPO法人くにたち農園の会でも、2017年には訪日観光客向けの農体験ツアーをスタートし、2019年には学生と一緒に運営するゲストハウス「ここたまや」を立ち上げて、宿泊型の農体験「農泊」に取り組み始めました。
その年には、14か国から宿泊客が訪れ、80名規模の留学生向けの餅つき大会を開催するなど盛況でした。
しかし、ご存じの通りコロナ禍でその熱気は一掃され、2023年まで実質的にインバウンドは休眠状態となってしまいました。
東京での農体験を楽しみに、ドイツから個人旅行で訪れたゲスト。
訪日需要が増える一方で、日本の人口は想定以上に減り続けており、それを原因とした国内需要の先細りは避けられない状況です。人口増を想定しながら生産性を向上させてきた日本農業ですが、大きな転換期を迎えています。
このような状況で、どのように“東京農業の価値”を高めていこうかと考えたときに、2023年から復活の兆しが見え始めたインバウンドは一つの突破口として視野に入れるべきでしょう。
観光庁による2019年の調査によると、訪日外国人の約70%が「訪日で期待しているもの」として「日本食」あげています。
その食材たる多種多様の農産物を、世界有数の大都市TOKYOで生産しているという事実は、大きな武器となりうるのではないでしょうか。東京が日本における世界の玄関口であるならば、世界からもっともアクセスしやすい農地が東京農業であるともいえます。
まちなかの小さな農地でありながらも、それぞれの農業者の創意工夫による農業経営の多様性が、実に魅力的であることは、この連載でもお伝えしてきたとおりです。
私自身も、留学生や訪日外国人向けの農体験を10年近く細々ながら続けてきていますが、世界で人気の日本食を、都心からアクセスのよい東京の農地で自ら収穫して味わえる体験は、確実に需要があるだろうという実感があります。
東京都のインバウンド向け観光サイト「TokyoTokyo」においても農園における食農体験がイメージ動画で紹介されています。
▶ https://tokyotokyo.jp/home/
東京農業の多様性や持続性に向けた取り組みそのものを、「東京ガストロノミー」というキーワードで世界に売り込み、新たな需要を喚起していきたいところです。
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㈱農天 代表取締役 NPO法人くにたち農園の会 理事長
小野 淳/ONO ATUSHI
1974年生まれ。神奈川県横須賀市出身。TV番組ディレクターとして環境問題番組「素敵な宇宙船地球号」などを制作。30歳で農業に転職、農業生産法人にて有機JAS農業や流通、貸農園の運営などに携わったのち2014年(株)農天気設立。
東京国立市のコミュニティ農園「くにたち はたけんぼ」「子育て古民家つちのこや」「ゲストハウスここたまや」などを拠点に忍者体験・畑婚活・食農観光など幅広い農サービスを提供。
2020年にはNPO法人として認定こども園「国立富士見台団地 風の子」を開設。
NHK「菜園ライフ」監修・実演
著書に「都市農業必携ガイド」(農文協)「新・いまこそ農業」「東京農業クリエイターズ」「食と農のプチ起業」(イカロス出版)
『みどり戦略 TOKYO農業サロン』
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