国土を守り国酒を醸す、東京最古の蔵元 小澤順一郎さん

名水の郷で育まれる銘酒

都心から西へ車を走らせると、青梅市街を抜ける頃から車窓に山並みがぐんぐん近づき、谷はどんどん深くなってゆきます。谷を刻む多摩川上流は「日本名水百選」に選定された地。そんな全国屈指の名水の郷、御岳渓谷沿いにたたずむのが、元禄15年(1702)創業、300年以上の歴史を持つ東京最古の蔵元・小澤酒造です。代表銘柄の「澤乃井」は、山の湧水が沢となって豊かに流れていることにちなむ地名「沢井」からの命名。今回は小澤酒造の現当主・小澤順一郎さんに、水と山林の深い関わりについて伺いました。

名水を生み出す山林とその管理

「私は大学卒業後、材木問屋に就職したんです」と意外な第一声。「うちはいわゆる資産家というやつで、そうした家の長男の最も大事な仕事は資産管理なんです。小澤家の資産は200haの山林。山や木材のことをよく知っていないと先祖代々引き継がれたものを守ることはできませんから。」ということは林業と清酒業と両方を営んでいるのですかと問うと、「輸入木材に押され、林業を生業として成立させるのは難しいのが現状です。とはいえ山林は水の要。個人の資産であると同時に公共性を担っていますから、放っておくことはできません。」東京都の重要な水源・多摩川の水を育む山林を守るためには、収益を上げるために木を育てるという考え方から、環境を守るために木を育てるという方向に、意識を変えていかなければなりません。「昔とは異なる形ですが、多摩川の水質を管理し、100年後も維持できるようにするには、膨大な山林をどのように維持継続できるかということが課題。時代に合わせた新たな林業なんです。」豊かな山林が美しい水を育み、そしてその水こそがこの地で長い間、銘酒といわれる酒を造り続けられる所以なのでしょう。

名水を生み出す山林とその管理

日本という国を伝える酒造りを

ところで、酒造りにも時代に合わせた変化はありますかと尋ねると、「いろいろな酒が飲まれるようになって日本酒の需要は減少しています。そういう状況の中で、どうしたら飲んでいただけるかを考えて蔵元は仕事をするようになったと思います。上質な酒を効率よく安定して生産するための機械化を含めて、さまざまな努力がされるようになりました。」伝統と近代化のバランスをとりつつ、酒好きをうならせる銘酒を醸し続ける小澤酒造。今後の課題は「良質な酒を安定して造れるようになると、次に立ち上がるのは〝日本酒とは何か″という問いなんです。冠婚葬祭に代表される神事に酒はなくてはならないもの。日本人の暮らしは日本酒とともにありました。味はもちろん重要ですが、日本という国の酒であるという意識は必要だと思います。」そろそろ今年の新酒がお目見えする頃。森林を守り、国がらを伝える蔵元の心意気が、芳醇に香り立ちます。

日本という国を伝える酒造りを

小澤酒造株式会社 代表取締役社長

小澤 順一郎さん/OZAWA Junichiro

清流ガーデン 澤乃井園(せいりゅうがーでんさわのいえん)

営業時間
10:00~17:00
定休日
月曜(祝日の場合は翌日)
電話
0428-78-8210
所在地
青梅市沢井2-770
WEBサイト
http://www.sawanoi-sake.com/service/sawanoien
アクセス
JR沢井駅から徒歩5分

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