伝統を継いで新たな東京ブランドに

江戸を代表する味とも言われる軍鶏(しゃも)。もともとは主に闘鶏用として改良されてきましたが、その肉の美味しさから「シャモ鍋」は江戸の名物料理とも言われてきました。戦後、ブロイラーが大量に入って来てから、昔ながらのしゃもの味わいを持つ鶏肉の復活を望む声が高まるなか、旧東京都畜産試験場(現在の東京都農林総合研究センター)が中心となり、「東京しゃも」として江戸伝統の鶏肉を蘇らせました。現在は、東京しゃも生産組合員が育成しています。その、東京しゃも生産組合の組合長を務めるのが浅野養鶏場の浅野良仁さんです。

しゃもを育てるのに適した土地

東京オリンピックの年から、あきる野市で養鶏場を始めた浅野さん。
「僕の先生が“いい卵つくれる場所を探そう”って、いろいろ調べてくれてここにたどり着いたんです。埼玉や神奈川もまわっては1年ぐらいかけて探しましたね。ここは、裏に山があるのが決め手。北風を防ぐ山があって、南には川や田んぼの水が大量にあるんです。そうすると空気が常にどっちかに流れていて、凪がない状態になります。しかも、雨が降った時に、水はけが悪いと病気につながったりするけど、ここは南傾斜だからその心配もない。ここまでの条件が揃う場所はなかなかないと思いますよ」
養鶏場のすぐ近くには民家もある。「親戚や知人などもいない状態でここに来たんですが、近所の人にも受け入れてもらって、いまだに文句も言われたことがないんです。ありがたいことですね」
近所の人が手伝いに来てくれたり、直売所に卵を買いに来てくれることも多いそう。

養鶏で自由に生きる

「僕は、兄弟の12番目なんです。当時は“大学は出たけれど”って言葉があるぐらい就職難の時期でした。自由に生きていくにはどうすればいいかって人に聞いたら、“勤めには行くな”って言われて。それなら自分でやろうと思ったんです。それには農業が一番だなと思って。いろいろ自分なりに調べた結果、東京で田舎暮らしするのが一番自分にとって幸せじゃないかと感じたんです」
コーラスが趣味だという浅野さん。戦後、東京で初めてイタリアオペラの公演があるのを観て、世界の文化が東京に来るなら、東京に住もうと思ったんだそう。
「この養鶏場はハンガリーの農家をマネしてるんですよ。コーラスでハンガリーに行ったことがあるんですが、現地の農家では、自分のところに出来たものを食べて豊かなんです。自分のところでとれたぶどうのジュースに、自分の豚でつくったソーセージ。庭の木の実で出来たジャムとかね。それを見て、俺もそうしたいと思ってここに作った。だからうちにも、栗の木やざくろ、梅、くるみ、柚子……とたくさん植えてあって、自分達で加工して食べてるんです。食べるものには困らないですね」
東京の田舎暮らしを満喫しながら、東京しゃもというブランドを大切に育て続けています。

※この記事は2019年3月15日に作成しました。

浅野 良仁さんへの一問一答

QUESTIONS AND ANSWERS

Q.東京しゃもの美味しい食べ方を教えてください
A.蒸し焼きが好きですね。アルミホイルで包んで。しゃもの肉には脂がないので、普通に焼くとパサパサにかたくなっちゃうんです。2時間ぐらいホイルに包んだしゃもを、出来ればまるごと蒸し焼きにするのが美味しいですね。それから、焼く時は炭では焼かない。日本のいい鶏は、煮るのもオススメですね。
Q.趣味はなんですか
A.オペラが好きだったんだけど、70でやめたんです。姿勢が悪くなっちゃったから。それでどうしようかと思ってる時に、テレビでパラグライダーを見て。それで、70からパラグライダーを始めて最近まで空を飛んでましたよ。その年では教えられない、って言われたところに、バイクで乗りつけてもう一度聞いたら「そんなに元気なら教える」って言ってくれた(笑)。
Q.これからやりたいことはありますか
A.スペインで絵描きになりたいんですよ。もともと、自由に生きることに興味を持ったのは、『カルメン』という映画を観てから。あれだけ命がけで生きて、俺は自由だって生きてるのがかっこよくて。それが、自分の生き方に影響してますね。

浅野養鶏場

浅野 良仁さん/ASANO Yoshihito

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