戸越銀座駅の「木になるリニューアル」 横山太郎さん

新しい戸越銀座駅はぬくもりのある木造に決定

2016年12月11日、東急池上線戸越銀座駅のリニューアル工事の完了を祝し、竣工セレモニーが開催されました。リニューアルに尽力してきた横山太郞さんは、戸越銀座商店街の人々と竣工記念の餅つきをしていました。商店街を行き交う人々からさまざまな声がかかります。「よくがんばったね、おめでとう。」「素敵な駅を作ってくれてありがとう。」 駅舎のリニューアル計画が持ち上がって約5年。それまでの月日が思い出され、横山さんは「お餅に涙を落としたらいけない」と涙をこらえたそうです。 開業から約90年の年月を刻んだ戸越銀座駅。駅舎は戸越銀座商店街の顔となる存在です。リニューアルにあたっては、「木造駅舎のぬくもりに対する地域の皆様の愛着を大切にしたい、そして地元東京の木、多摩産材を使った工事をPRすることで、普段は馴染みのない、駅 の工事のことや地元の林業に興味を持って頂きたい」という思いがありました。こうして改修工事、その名も「木になるリニューアル」がスタートしたのです。

地元東京の豊かな森林資源を活用して

経済効率から考えれば鉄骨造、木造にしても安価な輸入材を使用するのが企業としての常識なのかもしれません。しかし選ばれたのは地元の多摩産材。使用された木材は丸太換算にして約470本分。「育て、使い、植える」という森林資源の循環に寄与し、鉄筋造に比べて、建設段階での二酸化炭素放出量を約100t削減することもできました。多摩産材の使用については、東京都森林・林業再生基盤づくり交付金事業の採択を受けたことも背中を押してくれたそうです。リニューアル工事は地域の人々との共同作業。着手してからも地元の人々と話し合い、さまざまな意見に耳を傾け、あきる野市の森林への見学ツアーや植林体験など、数々のイベントを開催することで、多摩産材への理解を深めてもらいました。

地元東京の豊かな森林資源を活用して

100年後のリニューアル工事に立ち会いたい

改札を通った瞬間や電車からホームに降りた時に、かすかな木材の香りを感じます。ここが東京にある駅とは思えない贅沢な一瞬です。戸越銀座駅の最大のみどころは多摩産材の板を交互に噛み合わせた屋根。ここにはデザイン的な要素ばかりではなく、駅舎のリニューアルならではの苦労もありました。「ホーム上の作業は終電から始発までのわずかな時間。騒音を出す重機の使用も最小限にし、木材はすべて一人で運べる大きさにして、組み上げる工程も手作業でした。いつも応援してくださっている住民の方々にご迷惑をおかけすることはできない――。この屋根にはそうした思いも隠れているんです」と横山さんは言います。 竣工の2週間ほど前、地元町会の人々とベンチのニス塗り作業を行いました。木製のぬくもりあるベンチの座面裏にはみんなでメッセージを書き込み、小さな子どもたちは絵を描きました。次の改修工事はきっと90年後か100年後のこと。そのときに自分の父親や母親、もしかしたら幼い自分が描いた絵を目にすることができるかもしれません。「僕もそんな場面を見たいですけど、ちょっと難しいでしょうかね」とつぶやきながら横山さんは微笑みました。

100年後のリニューアル工事に立ち会いたい

東京急行電鉄 鉄道事業部 工務部 施設課

横山 太郞さん/YOKOYAMA Taro

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