都市にいながら農に触れ、学び、楽しめる場所として、東京都世田谷区に「桜丘農業公園」が2025年4月にオープンしました。
世田谷区では、農地を長期的に守る取り組みとして、所有者が手放さざるを得なくなった農地を区が取得し、農業公園として整備しています。桜丘農業公園は、その4か所目となる新しい“地域の農の拠点”です。
芝生広場やすべり台、ベンチ、車いすでも利用できるユニバーサルトイレなど、家族連れにも優しい設備がそろうのも魅力のひとつ。
今回は、4月の開園から秋までの公園の様子を取材しました。

人と生き物や農をつなぐ体験型の農業公園

世田谷区の住宅街、小田急電鉄・千歳船橋駅から歩いて約8分ほどの場所に誕生した「桜丘農業公園」。
季節ごとに色とりどりの野菜やハーブが育ち、大人から子どもまで誰もが気軽に農や自然にふれあえる場所です。
日中は公園スタッフが常駐しており、体験を通して農業や自然を学び、生き物や土と触れ合うことができるのも特徴です。

園内は、世田谷の農の文化や風景、環境を次世代につないでいくことを目的に整備され、有機無農薬での栽培や農業体験、自然体験など、さまざまな学びの機会を提供しています。

遊びに来た小学生たちは、土を触る畑仕事に興味津々。レタスの苗の植え付けにも挑戦してくれました。

苗床もスタッフの手づくりです。「踏み込み温床」と呼ばれ、下に敷き詰めた落ち葉堆肥の発酵熱で種の発芽を促す仕組みになっています。

生き物にぎわう公園をめざし、有機・無農薬

管理を委託されている株式会社自然教育研究センターでは、生き物たちがにぎわう公園づくりを目指しています。ここでは、種まき・育苗・定植・収穫・種取りを繰り返す循環型の農法により、年間約50品目の野菜を有機・無農薬で栽培しています。

公園スタッフ責任者の長谷川勝さんは、
「常時スタッフがいるので、気軽に農業体験や生き物との触れ合いを楽しんでほしい。近隣の皆さんに親しんでいただくのはもちろん、多様な団体とも連携しながら、世田谷区の農業をテーマに活動を広げていければと思います」と話します。
野菜の収穫体験に加え、生きもの観察や環境教育のイベントなども今後予定しているそうです。

5月にはリーフレタスなどカラフルな葉物がぐんぐん成長し、眺めても楽しい農業公園に。

4月に種まきや定植を行ったリーフレタスやホウレンソウなどの葉物野菜が順調に育ち、5月にはカラフルな野菜畑に成長しました。
利用者が決まっている市民農園・区民農園とは異なり、ここは区立の農業公園のため個人利用や販売は行っていません。収穫した農作物は子ども食堂などに提供しているほか、時期に応じて収穫体験イベントも実施しています。

年間およそ50品目を栽培しており、収穫した作物は体験会や近隣の子ども食堂などに提供されています。

農作業ボランティア体験と登録説明会

農作業ボランティアの日。夏野菜の後片づけと周辺の草取りを行いました。

8月に行われた農作業ボランティアの体験会には、公園前の掲示板で募集を知った近隣の方など、14人が集まりました。
野菜づくりに関心のある人や、土や緑が好きな人など、40代から80代まで幅広い皆さんが参加しています。

これだけの人数がそろうと、夏野菜の後片づけも周辺の草取りもぐんぐん進みます。おしゃべりをしながらの作業は、まるでレジャー感覚で楽しんでいる様子でした。

千葉から指導に来てくれている、NPO法人 日本有機農業研究会の荒木宏美さん。

農業指導を担当するのは、千葉県佐倉市の農家で、NPO法人 日本有機農業研究会に所属する荒木宏美さんです。
出身は東京ですが、農のある暮らしに憧れて13年前に新規就農し、現在は無農薬で年間50~60品目の野菜を生産・販売しています。

荒木さんは、足立区都市農業公園でも10年以上にわたり技術指導を続けており、農に触れることで得られる感動や喜びを伝え、都市住民にその魅力を広める活動に力を注いでいます。

作業のあとはテントの下でスイカを食べて水分補給。桜丘農業公園の農作業ボランティア体験の皆さんと一緒に。

「土づくりもコミュニティづくりも長い時間がかかりますが、みんなで作業しながら語り合い、思い出が増えていくこの過程が楽しいんですよね。じっくり時間をかけて、さまざまな人たちが交流できる農業公園になってほしいです」
と語る荒木さん。実際に体を動かし、土や生き物に触れる農業公園の役割は大きいと話します。

(写真左)オクラの花。(写真右)ごほうびのスイカも畑の収穫物。

桜丘農業公園では、スタッフとボランティアが一緒になって楽しみながら農作業を進め、世田谷区内の有機農業公園の“モデルケース”となるような畑づくりを目指しています。季節ごとに種をまき、育て、収穫し、また次の季節に向けて畑を整えていくなど、そうした一つひとつの作業を共有することで、公園全体がみんなの手で少しずつ育っていく場所になっています。

畑で野菜を育てるように、地域の人々が関わり合いながらつくる農業公園は、都市農業や環境への理解を深めるだけでなく、世代を超えた交流の場にもなっています。
こうした積み重ねが、桜丘農業公園を“地域に愛される公園”へと育てていくのでしょう。

野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」

小谷 あゆみ/KOTANI AYUMI

世田谷の農業体験農園で野菜をつくるアナウンサー「ベジアナ」としてつくる喜び、農の多様な価値を発信。生産と消費のフェアな関係をめざして取材・講演活動を行う。
介護番組司会17年の経験から、老いを前向きな熟練ととらえ、農を軸に誰もが自分らしさを発揮できる「1億農ライフ」を提唱。
農林水産省/世界農業遺産等専門家会議委員ほか
JA世田谷目黒 畑の力菜園部長
日本農業新聞ほかコラム連載中

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ベジアナが行く!「東京×カラフル×農業」

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