江戸東京野菜「治助イモ」で挑む高校生たちの真剣勝負

2025年10月13日、スポーツの日に辻調理師専門学校東京校で「江戸東京野菜料理コンテスト2025」実技審査会が開催されました。
1回目はごせき晩生小松菜、2回目は寺島ナス。3回目は馬込三寸ニンジン。
今年の課題食材は、奥多摩町で受け継がれる在来の芋「治助(じすけ)イモ」。
入賞5作品の「最終審査発表と表彰式」は、10月25日に「東京味わいフェスタ2025」の特設ステージで行われ、入賞したレシピは10月24日から26日までの「東京味わいフェスタ2025」有楽町会場で、プロの料理人によってアレンジされ、実際に食べることができる機会が提供されました。

治助イモとは?

東京都奥多摩町で栽培されている“幻のジャガイモ”。
その昔、檜原村で栽培されていた「おいねのつる芋」を、治助という人物が持ち帰り、奥多摩の風土に合わせ育んだことが始まりとされます。以来、地域の生産者によって守り継がれてきた在来のジャガイモです。

濃厚な味わいと強い粘りが特徴で、煮崩れしにくいのも魅力です。江戸時代に伝わった品種に近いとも言われています。粒は小ぶりながら旨味が凝縮されており、煮物・揚げ物・焼き物はもちろん、スイーツまで幅広い料理に応用可能です。
かつては生産者が限られた“地元の味”でしたが、現在ではその希少性とおいしさが見直され、東京を代表する伝統野菜の一つとして注目を集めています。

実技審査開会式~治助イモがつなぐ“食”と“地域”~

実技審査が行われた辻調理師専門学校東京校には、都内の高等学校から応募のあった約250レシピの中から選ばれた高校生13名・8チームが集結しました。審査員は、辻調理師専門学校教育研究センターの山田センター長、料理研究家、料理人など計5名で構成されました。

開会式では、主催者であるJA東京中央会特命参与 武田直克氏が登壇。春から続いた治助イモの取り組みについて、「今年は24の農家にご協力いただき、3月に種をまき、7月に収穫した治助イモが、今日この場に届きました。多くの方々の支えがあって、この審査会までたどり着けたことに心から感謝しています」と述べました。
さらに、東京の農業の価値にも触れ、「農地は都市の中で貴重な緑地であり、地域に住む農業者が伝統文化を未来へつないでいます。その中のひとつが江戸東京野菜です。かつて山手線の内側にも多くの大名屋敷があり、野菜の交換や交流が盛んに行われていました。江戸東京野菜は、そうした歴史を今に伝える存在なのです」と語りました。

武田氏は、江戸東京野菜を通して東京の農業を知ってもらう意義や、農業者・流通・教育機関が一体となって開催される本大会の特徴についても説明し、高校生たちへは、「きっと緊張していると思うので、学校の実習のようにリラックスして取り組んでほしい」と温かいエールを送りました。

緊張と笑顔が交錯するキッチン いざ 調理開始

厳正な抽選で決まった審査順で、いよいよクッキングスタート!
料理時間は1時間30分。高校生たちは緊張した面持ちながら、時計を頻繁に確認しつつ、真剣な表情で調理に取り組んでいました。

手に汗握るプレゼンタイム~治助イモへの想いを言葉に込めて~

各チームは、自分たちの料理に込めた想いを丁寧な言葉で伝え、なぜこのメニューを選んだのか、どのような工夫を凝らしたのかを審査員へアピールしました。

スイーツから惣菜まで、治助イモの魅力をさまざまな角度から表現する工夫が光り、個性あふれる発表が会場を大いに盛り上げました。

① 駒場学園高等学校 チーム名:ポテトに溺れる紳士たち~ポテトアンナを添えて~ メンバー:荒井桜愛さん・大西杏奈さん・小倉陽依さん 作品名:『ポテトアンナとキッシュ』

敢えてチーズを使わず、治助イモの濃厚な味わいを最大限に引き出したキッシュ。それに繊細なポテトアンナを添えた一品です。
治助イモの火入れ加減や層の重ね方に徹底的にこだわり、温かくても冷たくてもおいしく食べられるように工夫しました。

➁ 駒場学園高等学校 チーム名:CEO唐(シー・イー・オー・トウ) メンバー:浅井舷太さん・瀬戸春馬さん・唐嘉悠さん 作品名:『治助イモの一口堪能スイーツ(×4)』

治助イモを丁寧に裏ごしし、なめらかなペーストに仕上げた三層仕立てのモンブラン風スイーツ。
塩味と甘味のバランスが絶妙で、甘さ控えめのクリームと香ばしい生地が調和するように工夫しました。

③ 京華女子高等学校 芦原優姫和さん 作品名:『じゃがごまだんご』

家でも料理担当というほど、お料理が大好き。
もっちりとした団子に治助イモを練り込み、ごまで包んだ和風スイーツ。
ごまの香ばしさと芋のねっとりとした食感が絶妙に調和し、見た目も可愛らしい仕上がりになりました。“誰でも親しめる和スイーツ”を目指した、温かみのあるメニューです。

④ 東京農業大学第一高等学校 チーム名:麻辣湯(マーラータン) メンバー:村田茉莉子さん・藤木初実さん 作品名:『治助イモのがんもどきもどき』

治助イモの粘りと旨味を活かし、中華風にアレンジしたがんもどき。
白みそを加えた餡でまろやかな風味とやさしい色合いを表現し、さらにきくらげを加えることで食感と香りにアクセントを添えました。

⑤ 東京都立赤羽北桜高等学校 山内明日風さん 作品名:『治助芋のキャラメルトールタ』

「トールタ」は、“タルト”の語源から名付けたスイーツです。
治助イモを知らない家族にもおいしく食べてもらいたいという想いを込め、キャラメルとミルクのやさしい甘さで仕上げました。ポイントは、ほんの少し苦味をきかせたキャラメルです。
お菓子づくりが大好きで、「疲れた社会人をお菓子で癒したい」との思いから、やさしさと情熱が詰まったデザートが完成しました。

⑥ 東京都立赤羽北桜高等学校 黒米雛絆さん 作品名:『治助プリン』

「プリンはみんな大好きなので!」という想いから生まれた、治助イモのやさしい甘みを活かした濃厚プリン。
カラメルは飴を使って仕上げ、温かいままでも美味しく味わえるよう工夫しました。なめらかな舌触りとやさしい甘味、カラメルのほろ苦さが調和し、ほっと和ませる優しいスイーツを目指しました。

⑦ 東京都立農業高等学校 吉岡夏海さん 作品名:『旨辛‼おやき風カムジャパン!』

韓国で話題の“じゃがいもパン”から着想を得た創作おやき。
治助イモを使ったもちもちの生地でピリ辛の具材を包み、蒸すだけでなくごま油でこんがりと焼き上げることで、香ばしさと食感のコントラストを演出しました。
治助イモのほくほくとした甘みと、スパイスの効いた旨辛餡の相性を追求し、“和×韓”のハーモニーを感じるようなメニューに仕上げました。

⑧ 東京都立赤羽北桜高等学校 加藤雄太さん 作品名:『イモール』

治助イモを洋風にアレンジしたロール巻き料理です。
名前の「イモール」は、“芋”と“ロール”を掛け合わせたネーミングで、誰でも覚えてもらえるように工夫しました。
醤油ではなく、ねぎみそを使って味に深みを出し、ターゲットは同世代の高校生。
海苔巻きという伝統的な料理をベースに、和と洋の融合をテーマに表現しました。

意見交換会

意見交換会では、出場した高校生たちがそれぞれの作品づくりを振り返り、失敗や学びを率直に語りました。
生地の焼き加減やオーブンの違いに苦戦しながらも、仲間と助け合い、試行錯誤を重ねて完成させた達成感が語られました。中には「普段は料理をしないけれど、この大会を通して料理の楽しさを知った」「母への感謝や、料理を続ける人のすごさを実感した」といった温かいコメントもありました。

【審査員からの具体的なアドバイス】
審査員からは、調理技術や構成に関する具体的なアドバイスが伝えられました。
▪パイ生地の焼きムラを防ぐための「オーブンの温度設定と重しを使った二度焼き」のコツ
▪キッシュの具材をまとめるためのマッシュポテトの活用法
▪包み料理の餡を真中に整えるための「外薄内厚」の生地づくり
などの実践的な指導が印象的でした。

また、「料理は食べる人を思って作ることが大切」「失敗の中にしか成長はない」という言葉も多くの生徒の心に響いたようです。
さらに、「自分の好みではなく、食べてくれる人の世代や地域に合わせた味づくりを意識すること」「何度も食べて経験を積むことが、オリジナルレシピ開発への第一歩」という助言もあり、高校生たちは熱心に耳を傾けていました。

最後に審査員代表から、「治助イモのような在来作物を若い世代が学び、料理として形にすることは、地域の未来につながる大切な挑戦」との言葉が贈られました。

優秀賞の発表

厳正なる審査の結果、5チームが優秀賞に選ばれました。

入賞作品は、安定した調理技術と構成力、限られた時間の中で何度も試作を重ね、綿密な練習を積み重ねてきた努力が審査員に評価されました。

優秀賞受賞作品

● ポテトアンナとキッシュ
[駒場学園高等学校・チーム名:ポテトに溺れる紳士たち~ポテトアンナを添えて~荒井桜愛さん・大西杏奈さん・小倉陽依さん]
● 治助イモの一口堪能スイーツ(×4)
[駒場学園高等学校・チーム名:CEO唐(シー・イー・オー・トウ)浅井舷太さん・瀬戸春馬さん・唐嘉悠さん]
● 治助芋のキャラメルトールタ
[東京都立赤羽北桜高等学校・山内明日風さん]
● 治助プリン
[東京都立赤羽北桜高等学校・黒米雛絆さん]
● 旨辛‼おやき風カムジャパン!
[東京都立農業高等学校・吉岡夏海さん]

取材後記

今回もユニークな発想のメニューが並び、高校生らしい工夫と創意にあふれた内容となりました。

入賞した作品は、特にメニューへのこだわりや、食べる人への思いやりが感じられました。何度も練習を重ね、本番でも最後まであきらめずに仕上げる姿からは、その本気度の高さが伝わってきました。
治助イモという素材を通じて食の魅力を学び、この経験が“未来へつなぐ野菜”としての理解と関心を育むきっかけとなり、新たな“食の伝道師”が多く生まれることを期待しています。

愛の野菜伝道師

小堀 夏佳/NATSUKA KOBORI

“野菜(yasai)には愛(ai)がある”をモットーに、おいしいWKWK(わくわく)♪で人を幸せにする愛の野菜伝道師。
オイシックスの初代バイヤーとして20年以上全国津々浦々駆け巡り、「ピーチかぶ」「トロなす」「かぼっコリー」など、ネーミングやレシピ、売り方までトータルブランディング。
2022年8月31日(やさいの日)に一般社団法人日本野菜テロワール協会をたちあげ、伝統野菜やご当地野菜など多様性ある野菜たちを伝道している。プロフェッショナル仕事の流儀、マツコの知らない世界、世界一受けたい授業、ほんまでっかTVなどメディア出演多数。

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