長い夏が終わり、気が付けば秋の陽はつるべ落とし。
今回はこれから出回るカブと鰤の出会いものの一品です。
江戸東京野菜の品川カブ・滝野川カブについて
江戸時代から漬物用に栽培されていた長カブですが、滝野川周辺で栽培されていたカブは「滝野川蕪」、品川で栽培されていたカブは「品川蕪」と呼ばれるようになりました。
北品川の青果店経営者が、調査の結果、小平市で栽培されていた東京大長カブが品川蕪に近いと判明し、復活に至りました。
北区にある瀧野川八幡神社では、毎年品評会も行われます。
今年は12月14日(日)です。
大きな大蔵大根とあわせて買いに、お散歩のご予定を立てるのも楽しいと思います。
ダイコンのようですが、カブです!
かぶら寿しとは
かぶら寿しとは、富山県でつくられている塩漬けしたカブに、塩漬けにした鰤の切り身を挟み、米麹で漬けて発酵させた熟れ鮨(なれずし)です。
なかなか作るのが大変かつ高価なものでもあり、また各家庭で味が違うものでもあります。「しもつかれ(栃木県の郷土料理)」と同じく、知名度はあれどハードルがあって、ポピュラーではない郷土料理のひとつかもしれません。
カブと鰤のかぶら寿し風のレシピ
かぶら寿しをリスペクトして、私はカブと鰤を良く合わせます。
オリーブオイルと塩で普通にマリネしてバルサミコ酢を軽くたらしてもよいのですが、麹をあわせると目先が変わり、酒の肴や箸休めになるので、おすすめの一品です。
ユズの皮はぜひ沢山散らしてください。
【材料】
鰤(作りやすい量)
カブ(鰤と同じくらいの量で用意してください)
麹漬けの素など(*)
ユズなどの柑橘
塩
(*)今回は、酒粕と塩麹を半量ずつあわせたものを使っています。
蒸米を発酵させる手間がなく、麹漬けの素よりさっぱりし、塩味を好みに設定できます。
【作り方】
▪カブを薄く切り、麴漬けの素などで作った漬け地に一晩漬けます。
▪当日、鰤の刺身は軽く塩をし、数分おいて水気をとります。
▪カブを鰤と交互に並べ冷蔵庫で30分から1時間ほど冷やします。
▪食前に摺り下ろした柑橘の皮をふりかけます。
▪食べるときに好みで醤油を少し垂らしてもよいです。
温かいごはんで丼にすると鰤の脂がほどけます
父親がつくる料理の物語
私の父は、福井県出身でしたので、小カブを良く料理してくれました。
雑煮もカブですし、厚揚げ(福井は油揚げの消費量が日本一なのです)などとの炊き合わせにも良く入っていたと思います。
シシトウの回では繁延あづささんの著作で、母親と思春期の息子の話をしましたが、今回は父親が息子に料理を作る物語をご紹介させてください。
パリの空の下で、息子とぼくの3000日
今回ご紹介するのは、辻仁成著「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」(マガジンハウス社)です。
辻仁成著「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」(マガジンハウス社)
両親の離婚が、父と10歳の息子に与えた喪失感を口にしないながらに、分け合って暮らす毎日。日々作って、食べて、暮らしていくうちに、マルシェで食材を売ってくれる人たち、近所のママ友、パパ友、仕事仲間と、おしゃべりし、レシピを分け合い、食事会をして、親子の時間が重なっていきます。
フランス語のこと、息子の進路のこと、辻さんの仕事のこと、生活に必要なお金のこと、音楽のこと、老後のこと・・・。
最初は「腹を満たして食べさせてやる」、「愛情に飢えさせない」ために必死な毎日が徐々に、「俺たち、それぞれどうやって生きていくんだろう」ということに、ときに黙って、時折ぶっきらぼうな会話を交わしながら向き合っていくさまが、フィクションでは描くことができない本当にリアルな「父と息子」の姿に感じます。「食べることは生きること」は今や色々な文脈で使われていますが、私は本書の物語が一番この言葉にしっくりくる気がしています。
二十歳になった息子と、かつて小学校まで送り迎えしていた道を歩く、その日。本書の最後では、3000日間ずっと伏せられていた息子の名が明かされます。どうかその名に込められた名曲の歌詞とともに、読後の余韻を味わってください。
一から暮らしを作っていくということ
母親だからといって、最初から当然に毎日の食事を回していくことができるわけではないのですが、父と息子の暮らしは、映画「クレイマー、クレイマー」で、ダスティン・ホフマンが息子の朝食にぐちゃぐちゃのフレンチトーストを作るように、基盤ゼロからお互いやれる範囲でなんとかやっていくというところがあります。
ウィリアム・サローヤン著(伊丹十三訳)の「パパ・ユーア クレージー」(新潮文庫)も、ハーフムーンベイの暮らしの中で手に入るもので、親子の食生活が「米と野菜と豆を煮たら大体大丈夫」といった雰囲気で構築され、やがて「オーケー、それが僕たちのやり方だね」というリズムができていく。
丁寧な暮らし、豊富なレシピ、正しく健康に良い食生活、色々あるけれど、自分が「この場所」で、「この人」と、「生きていく」、それが「何を食べるか」を決めていく、というのも「食べることは生きること」の形と思います。

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食農弁護士
桐谷 曜子/YOKO KIRITANI
1977年生まれ。神奈川県川崎市出身。大手法律事務所で弁護士として企業買収、企業法務に従事後、証券会社での勤務で地方創生、海外投資、ベンチャー投資等に深く関与。
その後、2014年から2022年まで農林中央金庫に在籍し、食産業及び農業に関する投資、国内外企業買収、各種リサーチや支援業務に携わる。
自他ともに認める食オタクであり、法務知識のみならず農林水産部門に関する知見を用いて、ベンチャー企業含む事業者や生産者の各種相談対応、新規事業創出支援、資金調達や事業承継支援を行う傍ら、料理で人を繋ぐことで課題解決への貢献を目指している。
























