アユの棲める川の復活を 安永勝昭さん

蘇った美しい秋川の風景

「私が子どもの頃の1950年代の秋川は、それはきれいな川でした。毎年6月頃、アユ釣りのシーズンに川原に降りるとスイカの匂いが漂っていましたよ。釣りたてのアユはスイカに似た香りがするんです。それだけ魚影が濃かったということですね。」
アユは、春に海から遡上し、上・中流域で成長します。そして秋になると産卵のために川を下ります。多摩川やその支流の秋川を、アユの棲める川に復活させようと活動を続けてきた秋川漁業協同組合の安永勝昭さんを訪ねました。4月初め、秋川沿いに並ぶ満開のサクラの下、川では3月に解禁になったマスやヤマメを狙う釣り人たちが竿を出しています。しかし、この風景も水質が悪化した頃を考えると、夢のようなものかもしれません。

多摩川流域の人々が目標をともにして力を合わせて

高度経済成長が叫ばれた1960年代の終わり頃から秋川の本流である多摩川の水質は悪化の一途をたどり、やがて“死の川”と呼ばれるまでに汚染されてしまいました。大きな原因は、急激な人口増加により大量の生活排水や工場排水が流されたこと。川沿いの住民は危機感を募らせ、行政も立ち上がって下水処理施設の整備を進めました。もちろん、美しい川を復活させるためには、支流の秋川をきれいにするだけでは意味がありません。多摩川の源流域、すべての支流、そして東京湾に注ぐ河口域の人々、各地の漁協、行政が力を合わせて努力を重ねることで多摩川は復活しつつあります。
現在、多摩川流域の住民はおよそ407万人。「大きな川が流れる大都市は世界にいくつかありますが、私は多摩川が一番きれいだと胸を張って言えます」と安永さん。アユが遡上できる川を再生するための作業は水質浄化だけではありません。河口から秋川までには多くの堰があり、堰を越えられないアユも数多くいます。堰にはアユが上れるように魚道も設置されていますが、安永さんたちは魚道の入口を見つけられず堰を越えられなかったアユのために、土のうなどを使った簡易魚道を設ける作業を続けています。多摩川中流域でアユを捕獲し、上流域や秋川に放流する作業も欠かせないものです。

多摩川流域の人々が目標をともにして力を合わせて

美しい川を次の世代に渡す使命

2016年『第19回清流めぐり利き鮎会』で秋川の鮎が準グランプリを獲得。江戸時代に将軍家に献上されていた江戸前アユの復活と言えるでしょう。「そりゃ、うれしかったですよ。今まで続けてきたことが結果になったんですから。評価されたのは秋川のアユですが、これは支流を含めて多摩川全流域の、本当に数多くの人々の努力の賜物なんです。」
現在ではアユ釣りが解禁となる6月には数多くの釣り人で賑わう秋川。再び川原にスイカの匂いが漂う日が来るかもしれません。
「スイカの匂い? もちろんするようになるでしょう。川はみんなの財産。美しい川を次の世代に渡す、それが私の残された人生の使命ですから。」
安永さんの言葉は自信に満ちていて、たくましく響きます。

美しい川を次の世代に渡す使命

秋川漁業協同組合 代表理事組合長

安永 勝昭さん/YASUNAGA Masaaki

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