「東京やさい宝船」(前編) ~江戸川区の生産者を訪ねて~

10月28日から10月30日までの3日間、東京味わいフェスタが4年ぶりに開催されます。
その味わいフェスタの玄関口となる行幸通りには、東京産食材の魅力を発信するイベントにふさわしく、東京産の野菜で作られた「宝船」が飾られます。

野菜の宝船の歴史は古く、江戸時代に神田市場の若い衆が、ダイコンやニンジンなどで宝船を作り、店先に飾って新年を祝ったのが始まりといわれています。
商売繁盛の縁起物として、さまざまな野菜を積み上げて作り、宮中行事の新嘗祭をはじめ、五穀豊穣を祝う祭りやイベントに奉納されます。

宝船の大きさは様々ですが、高さ3mになるものもあり、使用するのは、赤丸大根150本、ダイコン100本、カブ200束、小松菜40束、ワケネギ90束、キャベツ100玉、ハクサイ100玉、ブロッコリー200個など約12種類の野菜たち。
大きさによりますが、制作には5~6時間かかります。

今回、宝船の野菜を作るのは、足立地区、葛飾地区、江戸川地区から延べ20人の生産者。

そのうち、江戸川区の生産者で、JA東京スマイル青壮年部部長の中代秀崇さん(46歳)の畑を訪ねました。
中代さんは、宝船の土台を飾る、聖護院大根、青首大根、カブの3種類を担当しているとのこと。

新小岩の駅からバスで15分。住宅街の中にぽつり、ぽつりと農地が点在しています。
中代さんは農家の8代目。小松菜を中心に野菜を生産しています。
31歳まで公務員をしていましたが、2007年にお父様の後を継いで野菜農家になりました。

Q: 多くの人に見てもらう「宝船」の野菜ですが、生産者としてどういうところに気を付けていますか?

中代さん: 野菜自体は売っているものと同じなので、宝船用だからって特別な作り方するわけではないんです。
ダイコンの担当は3人いて、うちは30本ぐらい出して、あとは直売所で販売します。

Q: 「東京味わいフェスタ」の日に、ぴったり合わせて栽培するのは難しくないんですか?

中代さん: 種まきしたのはお盆を過ぎた8月20日ぐらいでしたけど、普段から農家は、気温と日数で収穫時期を読んで種まきをするので、そのあたりは特別気を使うわけじゃないです。
ただ、10月と言っても急に冷え込んだり、夏日が続くこともあるので、多少大きさの変化はありますけどね。あと、ダイコンとか根菜類は収穫期間が長く、畑で少し置いておけるので、よほどのことがない限り大丈夫かなと。
今のところ生育は順調です。

Q: 「宝船」の野菜を作るのは名誉なことだと思いますが、中代さんが担当することになったのは、どういういきさつですか?

中代さん: 宝船といえば、葛飾地区が昔から上手で力が入ってるんですよ。
でもJA東京スマイルの3つの地区で分担しようということで、わたしに回って来たのは2回目です。
宝船に使うダイコンやカブは露地栽培ですが、江戸川区の農地は、面積が小さいので、収益を上げるために小松菜などのハウス栽培が多いんですよ。
うちは、露地もあったんで、わたしが担当することになったという感じで、せっかく続いている行事だからやめないで続けていこうっていう思いはあります。

Q: 野菜で宝船を作るときに、一番大変なことは?

中代さん: 下準備ですね。収穫した後、ある程度きれいにはしていくんですけど、ダイコンで言えば、ヒゲが生えてたりすると、包丁で切りそろえないといけないんですね。
ハクサイなんかも、外側の葉っぱ剥いただけじゃダメで、土が付いてたり切り口がきれいじゃないと、面取りしないといけない。それと野菜をヒモで結わえたりね。
宝船では、野菜のお尻の部分が顔になるので、見栄えよくそろえるのに時間がかかりますね。

Q: 作業にはどれぐらいかかるんですか。

中代さん: 15、6人で作業して、組むのにもぜんぶで5~6時間ぐらいじゃないでしょうか。
船の長さが2軒(3.6m)で、組み込む野菜はぜんぶで1,200点あると言われてますから、前の日から会場に行って準備します。

Q: ところで、中代さんは公務員だったそうですが、どういうきっかけで農業を継ぐことに?

中代さん: 平成19(2007)年に、農業をしていた父が亡くなったので、これはもう必然的にですね。
それまでは宮内庁の職員を12年と3か月していました。機械設備設計の担当だったんです。

Q: 宮内庁ですか!?

中代さん: そうなんですよ。今の天皇陛下とテニスをご一緒させていただいたこともあるんですよ。

Q: それは、貴重なご経験ですねー!農業を継ぐ気持ちはあったのですか?

中代さん: 祖父も父も、ずっとやってきていたのでね。やめるのは簡単だけど、やめたら戻せないでしょ。
もともと、いつかは帰ろうと思ってたんですよ。30歳になったばかりだったので、あと何年か勤めたら帰ろうと思ってたんで、そこはちょっと想定外でしたけどね。

Q: 就農して12年ということですが、順調でしたか?

中代さん: それまでは機械の動かし方も何も知らなかったんで、JA東京中央会と東京都がやってる「フレッシュ&Uターン」っていう農業後継者のセミナーに2年通いました。
それを足がかりに、あとは先輩たちに聞いたり。
父はほとんど小松菜の栽培だけでしたけど、少しずつ品目増やしてエダマメ、トマト、キュウリなんかも作って江戸川の直売所に出してます。
あと、障害者の就労支援施設と連携して、1人パートに来てもらっています。

Q: 農福連携ですか!?

中代さん: はい。当時の所長が、通所している人に農作業をさせたいというので、かれこれ10年ぐらい、小松菜の収獲とかやってもらっています。
夏場は、その施設でトマトを売ってもらったり。シイタケもやりたいというんで、ハウスを遮光にしてシイタケ栽培も始めました。直売所でも結構人気です。

Q: 最後に、東京のまちなかで農業を続けている思いをお聞かせください。

中代さん: 外の仕事を経験してから就農したのはよかったなと思ってます。
やっぱり都市農業というと、生産だけじゃなく、販売のノウハウとか、不動産だったりと、いろんな形でその経営を成立させていくものなので、外の世界での仲間やコネクションが役に立つと思います。
昔みたいにべらぼうに儲かる仕事ではないけれど、まあ、細く長くやるしかないんじゃないですか。地味な仕事でも畑を守るというのは大事なことだと考えています。

――お忙しい中、ありがとうございました。「東京味わいフェスタ」で多くの人に、中代さんや生産者の作った野菜の宝船を見てもらい、東京の農業に理解が深まることを期待しています。

農ジャーナリスト・ベジアナ

小谷 あゆみ/KOTANI AYUMI

世田谷の農業体験農園で野菜をつくるアナウンサー「ベジアナ」としてつくる喜び、農の多様な価値を発信。生産と消費のフェアな関係をめざして取材・講演活動
介護番組司会17年の経験から、老いを前向きな熟練ととらえ、農を軸に誰もが自分らしさを発揮できる「1億農ライフ」を提唱
農林水産省/世界農業遺産等専門家会議委員ほか
JA世田谷目黒 畑の力菜園部長
日本農業新聞ほかコラム連載中

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