自転車で少し走れば、農地が点在する東京都練馬区。
筆者(埼玉県狭山市出身)にとって、練馬区に住むまで農業は自分とは関係のないものだった。それが、「練馬大根引っこ抜き大会」で初めて圃場に入ったのがきっかけで、数年前から区の農業体験農園を始めるに至り、徐々に都市農業に興味を持つように。
 “農業素人”の筆者が感じる「農園・都市農業のある暮らし」をレポートします!
2024年も秋がなかなか来なかった…
今回は、長引いた夏の影響もあり、秋・冬をまとめたレポートをお送りします。

今、世間は野菜の高騰が続く だけど、それがわかる気がする農業体験農園

農業体験農園では、農家さんが作付け計画を立て、どの時期にどの区画に何を植えるかを決めてくださる。
しかし今年は、初めて農家さんから「キャベツやブロッコリーの苗がうまく育たず、植える日程をずらします」との連絡があった。
実際、苗の状態は悪く、鳥の被害も大きかった。市場に出回るキャベツも、苗の段階から生育が難しく、その影響で価格が上がっているのかもしれない。

植えてからも猛暑や秋の気温の乱高下からか?うまく育たず、結局冬のキャベツは手のひらより少し大きいくらいに…。
ブロッコリーも例年の6~7割くらいのサイズ感だった。

手のひらサイズのしょんぼりキャベツ(でも味は安定しておいしかった)。ブロッコリーはもっと大きくなるのを待ってしまったら蕾が出てきてしまい、急いで収穫した。

失敗2つ目 ホウレンソウ、コマツナの植える時期を見誤る

この失敗は完全に私の問題。夏にナスとピーマンを植えていた畝には、そのあとホウレンソウとコマツナを植えなければならなかったのだが、今年は忙しさもあったのだが、調子の良いナスたちを抜いてしまうのが惜しくて時期を過ぎてもなかなか決心がつかなかった。
「あまり植えるのが遅くなると、寒くなる前にホウレンソウやコマツナがちゃんと育つかわからないですよ。」と講習会(※)で言われていたのに…。結局、周りの区画の中で一番遅く抜くことになってしまった。
※練馬区農業体験農園では、農家さんが講師となり植え方のコツや種まきのタイミングなどを教えてくれる。

ナスを抜いた10月末日の写真。小さいナスを見ると「この子が育つまでもう少しいいか…」抜く決心が鈍ってしまう。

密かに「どうせ今年の冬も暖かいから、追い上げられるでしょ」と甘く見ていたのだが、今年の10月以降は割とちゃんと寒かったりしたので、ホウレンソウとコマツナは遅く植えた分いつもの6割ほどの大きさにしかならなかった。

左:12月中旬でもうちのホウレンソウは高さが例年の半分くらいにしかならなかった…涙。
右:ちなみに意外に大変なのが野菜の洗浄である。お店で売っているものには土がほとんどついていないが、どうやっているのだろう?いつか機会があればプロに聞いてみたいものである。

ハクサイも、シュンギクも失敗! ニンジンは根こぶ病が出てしまう…涙

今年は、これまでで最もハクサイの出来が悪かった。
最初の種まきできちんと芽吹いたのは2つほど。こんな大きさがバラバラになったのは初めて(写真上右)。
他の区画の人も失敗が多かったようで、農園近くの100円ショップの種コーナーには白菜のタネだけが欠品していた。私は違う品種を二度撒き直したけど、寒くなっていく速度などの関係か大きくならず、完全に不作のレベル。
ニンジンの出来も芳しくなく、根こぶ病(根がコブのように変形する病気)が全体の約4割に発生してしまった(写真上左)。
また、別の区画ではネズミの被害もあり、周囲でも不作の人が多かったようだ。

私たちは趣味の範囲だからまだいいが、本業の農家さんの苦労を思うとゾッとする。
今年は年末から野菜が高騰しているが、同じ作物が毎年コンスタントに収穫できるわけではないことを改めて痛感した。また、そうした不安定な状況の中でも、毎年安定して作り続けなければならない農家さんの覚悟と苦労には、改めて感謝と尊敬の念が募る。

今季はダイコンの消費が追いつかず 人生初の切り干しダイコン作りにもチャレンジ

うちの畑では、ダイコンだけで2畝を使い、青首ダイコンやおふくろダイコン(白首ダイコン)を育てている。それに加え、試しに練馬ダイコン、聖護院ダイコン、紅芯ダイコンなど、園主さんが用意してくださる種も植えている。
ほかの作物では失敗が多かった中、ダイコンだけは毎年豊作だ。
今季は仕事が忙しく、畑に通えるのは週に一度ほど。それだけ間が空くと、一度に大量の収穫をしなければならず、子どもはもう乗らないものの、「子乗せ」ならぬ「野菜乗せ」電動自転車が手放せない。

左:自転車に積めるだけ積む、ひとり宝船状態。以前、信号でニンジンなどを落としてしまった経験からゴムバンドが必須。
中:1本かと思ったら2本分のダイコンが穫れたりして、ダイコンは本当に調子がよかった。
右:農園をまっさらにする日(1月末)は大量のダイコン(実際はこの倍量、一気に抜いた)を持って帰るハメに。計画的にコツコツ消費すべきだった…。

味噌汁、おでん、練馬スパゲティ、肉や魚におろしを添えたり、サラダ、漬物、ダイコンもち、福神漬け……思いつく限りのレシピでダイコンを消費してきたものの、次第に家族から「ダイコン地獄」と言われるように(失礼すぎる)。
「野菜が値上がりする中、こんなに恵まれたことはないよ?!」と言いつつダイコン料理を出しても、「また〜?」と言われるのが切なく、この冬はダイコン料理のレパートリーを広げたいと心から願った。

ちなみに、練馬区の農業体験では1月末までに畑をまっさらにしなければならない。
そのため、最後のほうはご近所さんにおすそ分けしてもなお大量のダイコンが余り、初めて切り干しダイコン作りにチャレンジすることにした。

一回目はダイコンを細かくしすぎて網目からボロボロ落ちるという失敗もあったが、二日でほぼカラカラに乾いた。雑誌で「干し野菜特集」などを読んだことはあっても、実際に自分がやる日がくるとは!と感動。

家にダイコンが5本も余ってしまい、何とか消費しようと挑戦した自家製の切り干しダイコン。
しかし、口に含むと甘みが増していて驚いた。何よりもうまくいくと嬉しいし、いくつになっても初めての成功体験は格別だ。ズボラな筆者でもうまくできたことを、喜びとともに記録しておく。

編集後記

農林水産省食品価格動向調査(令和7年2月17日の週)によると、食品の小売店における平均販売価格(単位:円/kg)はキャベツが約400円と平年比の約2.5倍。ハクサイは約390円と平年比の約2.7倍となっいる。
一年間の農業体験農園を通して、例えば夏の暑さでキャベツの苗が計画通り育たなかったことなど、高値の背景を肌で感じた。(そして今季は、うまくいかなかった時のがっかり感もしみじみと味わった。)

虫の発生や生育不良など、農業は気候とダイレクトにつながっている。スーパーを通すと、つい「ひとついくらの商品」として見てしまうけれど、極端に言えば、野菜の価格の高騰は地球の悲鳴のようにも感じる。
農業のことを考えることで、暮らしや環境などに何か良い循環が生まれればいいなと思う今日この頃。
筆者自身、体験農園を始めてから、少しずつではあるが「単なる消費者」という視点から視野が広がりつつある。

一般市民にとって、農業にはまだまだ「へえ、知らなかった!」と思うことがたくさんある。今後も“農業素人”の視点から、感じたことを伝えていけたらと思う。

農地が広がる風景は空が広い。この夕焼けの景色を永く見れることを祈る。

都市農業ライター

三文字 祥子/SHOKO SAMMONJI

都市農業ライター「畑と私」
広告などの企画・編集・コピーライターを続けてきた傍ら、練馬区での都市農業を楽しんで暮らす。
農業から自然や環境、収穫物を食卓に載せるまでの工夫を考えるのが好き。
趣味は三味線、民謡、盆踊り。
▽筆者インスタ。日々の農業体験農園を綴っています。
https://www.instagram.com/hatake.to.watashi/

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「農業体験農園」レポート

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