ヒット曲から生まれた新種
中垣園芸があるのは瑞穂町の岩倉街道沿い。花き栽培農家が立ち並び、通称〝シクラメン街道″と呼ばれています。ビニールハウスの中は出荷を間近にしたシクラメンでいっぱいで、目の覚めるような鮮やかさです。「うちでは5000~6000鉢栽培しています。その内、香りシクラメンは300鉢。ありがたいことに毎年完売します。」中垣さんに誘われて香りシクラメンの置かれた方に歩を進めると、優雅で印象的な芳香が風に乗って運ばれてきました。聞けば、原種のシクラメンには香りがあったけれど、見た目を重視した改良の過程で、香りは失われていってしまったそうです。「ところが、あのヒット曲をきっかけに、『香りのあるシクラメンを』という要望が高まったんですね。東京では80年代後半から立川の東京都農業試験場(現・東京都農林総合研究センター)で開発が始まりました。」中垣さんがシクラメンの栽培を始めたのも、やはりヒット曲と歩調を合わせた70年代中盤。「最初の仲間は8人。花栽培の本場・愛知県に視察に行くなど、ほんとに手さぐりで。」不安を抱えながらも、温室でシクラメンを育て始めてから2~3年後、「ぽつり、ぽつりとお客さんが来てくださるようになったんです。いやあ、うれしかったなあ。」次第に新聞に取り上げられたり、お客様からお礼の手紙や写真が届いたりするようになり、確実な手ごたえが感じられるようになったそうです。その後、農林総合研究センターから完成した香りシクラメンの栽培をしないかと声がかかり、取り組んだのが2005年。「研究員さんが一所懸命に完成させたものだからね、温室の最も目立つところに置いているんです。」栽培している香りシクラメンの品種は、「はる香ミディ」。今やこの花を目当てに遠方からもお客さんが訪れるほどで、中垣園芸のシンボル的な存在です。当時を知る元東京都農林総合研究センターの職員も「中垣さんのお心が伝わるのか、当初より良い品種に育ってくれているようです」と言います。