檜原村の木材に惚れ込んだ木工職人 小澤昌雄さん

心を和ませ癒してくれるログハウス

「これは“にぎにぎ卵”って名前で、最近人気があるんですよ。ヒノキを削って卵の形にしただけですけど、手のひらの中で転がしているとヒノキの香りと温かな肌触りに癒されるんですね。こうやって指を動かすのは認知症防止にもなるって聞きましたしね」と言いながら小澤さんは目を細めます。そのやわらかな笑顔はまるで初孫を抱っこしたおじいちゃんのよう。木に対する愛情が伝わってきます。
東京都西部に広がる檜原村の南秋川渓谷、緑に包まれた山間に木工職人の小澤昌雄さんと奥様が営む“木工房・茶房 もりのうた”があります。友人や家族総出で6カ月かけて組み立てた2階建てログハウスのドアを開けると、ところ狭しと木製のおもちゃやキッチン用品、雑貨などが並び、奥様が自慢のコーヒーをいれるカウンターが奥に見えます。店内を満たしているのはさわやかな木とコーヒーの香り、そして窓の外には秋川対岸の眩しい新緑が望めます。まさしく心を和ませてくれるくつろぎの空間です。

夫婦揃って夢を実現させるために

小澤さんがこの地にログハウスを造ったのは2001年のこと。自動車メーカーのエンジン開発に携わっていた彼は、かねてからの夢だった、自然の中で木の香りに包まれて、ものづくりをする、そんな生活を実現させるために早期退職という選択をしました。奥様はどう感じていたのでしょうか。
「もちろん不安はありましたよ、定年まで7年もありましたから。でも私、昔から喫茶店をやってみたかったんです。檜原村の澄みきった空気に包まれたログハウスで、おいしい水を使ってコーヒーをいれケーキを焼きお客様をもてなす、そんな生活に惹かれてしまったんですね。今考えれば夫婦揃って夢が実現できたんです」と奥様はにこやかに語ります。退職した小澤さんは木工職人の先輩から技術を学び、さらに全国の家具の産地を旅して職人たちの技を吸収しました。当時は注文家具や日用品を作っていたと言いますが、やがて小澤さんは気付いたのです。

夫婦揃って夢を実現させるために

もっと東京の林業の後押しをしたい

「自分が暮らす檜原村はすばらしい木材の産地であるってことにね。以降はもっぱら檜原村産のヒノキやスギを使うようになりました。檜原村の自然と木材に惚れ込んだんですよ」
2016年までの3年程、檜原村で生まれた赤ちゃんには小澤さん手作りのモビールが贈られたといいます。ヒノキで作られた葉や山に暮らす小鳥、魚たちが糸に吊された香り豊かなモビール。それは赤ちゃんの目にどのように映っていたのでしょうか。工房で小澤さんが“にぎにぎ卵”を削り出す作業を見せてくれたあとにつぶやきました。「僕は少しでも東京の林業の後押しをしたい。檜原村の木材のすばらしさを多くの人に伝えたい。そのためにもっと魅力的な製品を作らなくてはね」と。削り立てのヒノキが放つ濃厚な香りの中で、彼の言葉が力強い現実感をともなって、いつまでも頭の中で響いていました。

もっと東京の林業の後押しをしたい

木工房・茶房 もりのうたご主人

小澤 昌雄さん/OZAWA Masao

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