一目惚れした母島で島レモン栽培 濱崎泰宏さん

自然がレモンの木を育てるお手伝い

「この島で農業を始めて約10年になります。農作物というと僕が作っていると思うだろうけど、自然が育てているんですよ。例えば島レモンだと、僕は木が生きるためのちょっとした手伝いをしているだけ。」それは小笠原諸島・母島で農園を営む濱崎泰宏さんが、農業という仕事を通して得た大きな教訓です。母島で栽培される島レモンは果皮が緑色のものを出荷し、酸味が柔らかく甘みがあって、香りがいいのがその特徴。焼魚に絞ったり、ドレッシングにアクセントを与えたり、夏には爽やかなレモン水で味わうのもおすすめです。

移住した母島で働きながら農園を開墾

若い頃から国内や東南アジアを旅していたという濱崎さんが小笠原を訪れたのは32歳のとき。1カ月以上滞在して、なかでも母島の素朴さや雄大な自然、人々の和やかさに魅了されたといいます。「この島で農業をやろう。」そう思い立った濱崎さんは滞在中に島での仕事を決め、その頃暮らしていた仙台には、奥さんを連れて来るために1度戻っただけでした。最初の2年は母島のゴミ収集の仕事に就き、その後1年間アルバイトをしながら小高い山の斜面を開墾したのです。生まれは栃木県の農家だったため多少の農作業には慣れていたとはいうものの、たった1人での開墾は想像を絶する仕事だったことでしょう。しかし、濱崎さんにとっては母島に移住すると決意したときから厳しさは覚悟の上でした。レモンを育てるには、まず苗木を作って大きくし、それから農園に移植して果実が収穫できるまでは数年を要します。

移住した母島で働きながら農園を開墾

母島の自然相手に腹を据えて

濱崎さんが手がける作物は島レモンのほかミニトマトとパッションフルーツ。「レモンの収穫期は9~11月の台風シーズンですからね、せっかく実ったレモンの大半を台風にやられてしまったこともあります。母島の自然は実りをもたらしてくれる優しさがある半面、厳しさもあわせ持っているんです。 彼が収穫期の異なる3種類の作物を作るのは、人間の力など到底及ばない自然に対する謙虚さからであり、農業という仕事で身に付けた保身術なのです。「自然と付き合って農業を続けるなら長い目で、腹を据えてやっていくしかないんですよ」と濱崎さんは農園から見下ろせる小笠原の輝く海に目を細めながらそう言います。 濱崎さんが謙虚なのは実は奥様に対しても同様のようです。「農園の仕事を手伝ってくれて、僕が苦手な伝票書きなんかもこなしてくれてありがたいですよ」と、はにかんだ笑顔を浮かべた濱崎さんでした。濱崎さんの島レモンは宅配便などを使った個人販売も行っています(問い合わせ等はファックスで。 04998-3-2505)。

母島の自然相手に腹を据えて

濱崎農園

濱崎 泰宏さん/HAMAZAKI Yasuhiro

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