東京・三鷹市にある吉野果樹園は、都市農業のなかでパッションフルーツという珍しい果実の栽培に挑戦し、オリジナル加工品「リリコイバター」(リリコイとはパッションフルーツのこと)を生み出した果樹園です。
ブルーベリーやキウイなど、地域に根ざした観光農園としての顔を持ちながら、東京都農林水産振興財団の「チャレンジ農業支援事業」を活用して“伝える力”を磨き、6次産業化の道を切り拓いています。

吉野果樹園は、20年以上にわたり東京・三鷹でブルーベリー農園を営んできた実績があります。「安全・安心で美味しいブルーベリーを近隣の消費者の方に食べてほしい」という想いから、約70品種・1500本ものブルーベリーを農薬不使用で栽培。そのまま食べられる摘み取り園として、地域の人々に長く愛されています。

今回は、そんな吉野果樹園が手がける“南国フルーツ”と“加工品”のストーリーをご紹介します。

三鷹のまちで、パッションフルーツを育てる理由

都内でも珍しい、パッションフルーツの栽培に取り組む吉野果樹園。そのきっかけは、八王子で活動する生産者グループへの視察でした。

「三鷹の若手農家で八王子の現場を見に行ったんです。そのときに、育て方や環境を教えてもらって。ブルーベリーの収穫期と少しずれるので、サブ作物としてもちょうどいいなと思いました。」

そう語るのは、吉野裕作さん。南国のイメージが強いパッションフルーツですが、工夫次第で都市部でも栽培可能。長年にわたり果樹栽培に取り組んできた実績があるからこそ、ここ三鷹でチャレンジに踏み出すことができました。

ハワイからヒントを得た「リリコイバター」

吉野果樹園が育てたパッションフルーツは、ある出会いをきっかけに思わぬ形で商品化されることになります。

「パッションフルーツを作っているなら、“リリコイバター”って知ってる?と、ハワイ好きの友人に教えてもらったんです。取り寄せて食べたら、すごく美味しくて。これは日本でも作ってみたいと思いました。」

リリコイバターとは、パッションフルーツを使った甘酸っぱいクリームスプレッド。海外ではポピュラーでも、日本国内ではほとんど見かけないレアな存在です。製造には乳製品を使うため、許認可のハードルが高く、最初はOEM先を探すのに苦労したといいます。

「なかなか見つからずに途方に暮れていたところ、JA東京むさしの担当者から小金井市のイタリアンレストランを紹介していただき、製造をお願いすることができました。」

そうして完成したリリコイバター。当初は自作のラベルで販売していたものの、商品としての魅力をより伝えるべく、次のステップに進みます。

デザインの力で伝わる、広がる。チャレンジ農業支援の活用

ここで活躍したのが、東京都農林水産振興財団の「チャレンジ農業支援事業」です。パッケージやロゴのデザイン、ウェブでの情報発信など、プロによるサポートが受けられるこの制度を活用し、吉野果樹園のリリコイバターは“見せ方”を大きくアップデート。

「それまで全部自分でチラシやホームページを作っていましたが、やっぱりプロの作るものは全然違う。お客様からも『見やすくなった』『買いやすくなった』と好評です。」

実際、若い世代の来園者や購入者が増えたと実感できるようになったとのこと。コロナ禍でも売上が大きく落ち込むことなく、「伝える力」の大切さを実感したといいます。

「もちろん、補助金を使うことへの責任も感じています。税金を使わせていただいているわけですから。でも、そのおかげで次につながるきっかけをつかめたと思っています。」

“背伸びせず、身の丈に合ったペースで届ける”都市農業のかたち

リリコイバターの生産には限りがあります。収量が天候に左右されるパッションフルーツは、豊作の年もあればそうでない年もあるため、在庫の調整や販路の相談など、日々模索が続きます。

「無理に広げるのではなく、自分たちらしく“ぼちぼち”やっていくのがうちには合っていると思うんです。」

その言葉のとおり、吉野果樹園は規模を追わず、確かな手ごたえを大切にしながら一歩ずつ歩んでいます。
都市に暮らす人々のすぐそばで、季節の果実を育て、加工し、届ける。顔が見える距離感だからこそできる農のかたちが、ここ三鷹にはありました。

吉野果樹園の挑戦は、都市農業が秘める可能性を、静かに、力強く伝えています。

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生産者を訪ねて

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