開発期間は20年!?

「ハウス栽培用は全国にたくさんあるのに、露地栽培用の品種がない」ということで開発が始まったいちごの品種開発。納得のいくものが出来るまで、およそ20年の開発期間がかかったというから驚きです。「露地栽培用のいちごは、“宝交早生(ほうこうわせ)”という古くからある品種だけだったんです。ハウス栽培用のものは、全国でいろいろなものが開発されていたけれど、露地栽培用のいちごはどこも開発していなかった。それを東京で開発することには大きな意味があると思ったんです」と話すのは、2019年に品種登録された東京生まれの露地栽培用いちご“東京おひさまベリー”の開発者のひとり、沼尻勝人さん。

ハウス栽培と露地栽培の違いって?

「いちごの特徴の違いで言うと、露地栽培用のいちごは、“休眠”といって、自然に眠っている時間が長いんです。深く休眠していて、目覚めるのが遅い。その点、ハウス栽培用のいちごは、休眠が浅いので、それほど低温に当たらなくても目覚めて動き出すんです。露地用のものは、低温にじっくりあたることで休眠から目覚め、太陽の光を浴びて動き出します。太陽の光がさんさんと降り注ぐ中で生育していく分、味が凝縮される感じはありますね。自然条件に左右されるので、収穫量や品質が天候に左右される部分はありますが、いちごの旬である5月に食べられるのは、自然の恵みをいただくという意味で、いちごの自然な姿を楽しめる魅力もあります」(沼尻さん)。

中まで赤い! 東京おひさまベリーの特徴は?

実際に育てた人たちから「大きい」「味が濃厚」「中まで赤くてきれい」という感想が多く出たという“東京おひさまベリー”。実際、断面を見ると真ん中までほぼ赤いのが特徴のひとつです。普段見るいちごは、中は白いような印象がありますが……。「確かに、今出回っているいちごは、中が白いものが多いです。“東京おひさまベリー”は、中を赤くしようとして開発したわけではないのですが、交配に使った“女峰(にょうほう)”という品種が中まで赤いいちごだったので、その血統をひいたようです。白いいちごは甘いものが多い傾向にあると言われていたのですが、今回、甘さと赤さをあわせもった新しいいちごが出来上がったんです」。さらに、東京おひさまベリーは、独特な香りも特徴のひとつ。「フローラルの香りとでも言うんでしょうか。食べた時に鼻から抜ける良い香りがあります。いちごで香りに特徴があるものって今までなかったので、これもいちご界には新しい特徴ですね」。

プランター栽培も可能。来年はおうちでいちご狩りできちゃう!?

露地用の品種は、育てやすいことも魅力のひとつなんだとか。プロだけでなく、一般の家庭でも、いちごを育てるところから食べるところまで楽しめます。「ハウスなどの施設を用意する必要もないし、品種としてもそこまで弱くないので、初心者や一般の方にも気軽に育てていただけるというのも、露地栽培用いちごを開発した目的のひとつでもありました。ベランダでプランターを利用して栽培することも可能なので、気軽にチャレンジしてみてほしいです。マンションなどでも、鳥よけなどに注意さえすれば、しっかりとしたいちごを育てられますよ。1階など低い階で育てる場合は、タヌキやハクビシンなどの動物に食べられないように気をつけて。動物は、美味しい食べ物を知っていますからね(笑)」。

外出自粛の影響で、家の中にいちごをセットして「おうちいちご狩り」を楽しむことも流行しましたが、来年は実際に家でいちごを育てて、自宅いちご狩りを実現するのも楽しそうですね!


※写真撮影時のみマスクを外しております。

沼尻勝人への一問一答

QUESTIONS AND ANSWERS

Q.東京でいちごを作る強みはありますか?
A.東京で作るというのは輸送の面なども含めて強みだと思います。
Q.いちご以外に開発されたものはありますか?
A.「東京小町」というワケネギ(葉ネギの仲間)を開発したことがあります。でも、人に話してもあんまり興味を持ってもらえなくて。いちごの開発だとみんなが寄ってきてくれるので、開発中のテンションは、いちごの方が上がりましたね。「東京小町」のことも、もっと知ってもらえたらなあと思っています(笑)。

「東京小町」
https://tokyogrown.jp/product/detail?id=571246
Q.東京おひさまベリーの今後の展望は?
A.甘みと同時に酸味もしっかりあるのが特徴なんですが、酸味があるというのは加工品にする場合にも重要なポイントなんです。甘みはあとから加工で追加しやすいけど、酸味は素材の持つ味わいがあってこそ。今も、いろいろな会社でお菓子などの試作を重ねているんですが、味も色も加工向きの品種なので、いろいろな展開が出来そうで楽しみです。

東京都農林総合研究センター 園芸技術科 野菜研究チーム 主任研究員

沼尻勝人/NUMAJIRI Katsuto

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