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SEASON'S REPORTTokyogrown's Producers
~生産者など~

『ヤギと暮らしてチーズを作る 小さな農家の魅力』

農業編農業編

養沢ヤギ牧場

堀 周さん/ HORI Itaru /

牛でも羊でもなくヤギになった理由

「テレビで、岡山の吉田牧場というところが、酪農をしっかりやってチーズを作っているのを見てあこがれて。最初は、牛のチーズを作りたい! と思って北海道に渡ったんです」と話す堀 周(いたる)さん。2020年に東京でヤギ牧場を始めた新規就農者です。
「独立する時はお客さんのいる近くでできればいいなと漠然と思っていて、関東圏で牧場を持つことを考えていたんです。でも、実際に研修をしていて、牛の牧場を用意するには、広大な農地が必要だし、初期投資もすごい。これを関東圏でやるのは難しいなと肌で感じました。牛がダメなら羊、と考えはしたんですが、乳用の羊って日本ではまだあまり改良が進んでないんですね。ミルクの量が出る羊がまだまだ少ない。その点、ヤギは乳用種として長野で開発が進んでいて。しかも、ヤギは日本の土地と相性がいい。ちょっと前に"崖の上のポニョ"って話題になったヤギがいましたけど、斜面でも平気で生活できるんですよね。山の多い日本で、斜面でも牧場として活用できるなら関東圏でもやりやすい。そんなことから、ヤギでチーズを作ろう、と目標を設定していきました」。

ヤギも子供も土地も育てる暮らし

「基本的に、仕事は全部僕がひとりでやっています。家には、妻と4歳になった長男と9か月の0歳児がふたり。下の子供は双子なんですよ。だから家の方もてんやわんや。新規就労で牧場を始めて、今、たぶん人生で一番大忙しですね」と笑う。「チーズのコンテストを狙わないの? という声もいただくんですが、今はそこに全力を注ぐような状況ではなくて。美味しいチーズを作りたい、という気持ちはあるけど、名誉がほしいわけではなくて。ただ、今やっていることが最終的に家族の幸せになるように、という気持ちを忘れないようにと思っています。まだ牧場もここでの暮らしも始まったばかりで、そんなこと言っている状態じゃないですけど」。
春先がヤギの出産シーズン。初めて迎えたこの牧場での出産時は、子育てラッシュだったそう。「ヤギも双子、うちの子も双子。ついでに、屋根裏に住み着いていたアライグマの子供も双子(笑)。牧場でヤギにミルクあげて、仕事が終わって家に帰ってからは子供たちにミルクをあげて。子育ての日々でした」。同時に、牧草が育つように牧場も育てている。「もともと土地にあった草も潤沢じゃなくて。今は、干し草を買ってきて与えていますが、なるべくここで牧草を育ててそれをヤギに食べさせたいんです」。

ヤギチーズの魅力と難しさ

家畜からのチーズ作りについて研修などを受けてきたとはいえ、牛とヤギではやはり違うところも多そうです。「せっかくだから、ヤギチーズの個性を活かしてチーズ作りをしていきたいなと思っているんです。他と同じではつまらないですしね。東京に戻ってからの研修先だった磯沼ミルクファームでも、ヤギチーズの試作をさせてもらっていました。その時は気にならなかったんですけど、実際に自分のところでチーズを作ってみたらなんだか違う。量や設備が違うと、チーズの出来にもかなり影響するんですね。最初に試作した時にうまくいっちゃったので『ヤギチーズ簡単じゃん』なんて思ったこともあったんですが(笑)。常に納得のいく質のものが安定して作れるという自信が持てるまで、顔が見えない人に売るのはまだ怖いです。もっと量も質も安定したら、ネット販売などでも売っていきたいとは思っています。
ヤギのチーズは、やっぱり普通のチーズとは違う個性がある。その分、コアなファンに届くようなものを作っていきたい。以前、ヤギのブルーチーズを買って食べてみたら、とても美味しくて。ヤギのブルーチーズってまだ珍しいと思うので、将来的にはブルーチーズにもチャレンジしたいです」。

▽磯沼ミルクファーム
https://tokyogrown.jp/special/activity/detail?id=571887

地元だからこそ地域へも溶け込みやすかった

「あきる野市は、もともと住んでいた場所。ここで就農しようと決めていたわけじゃないんですが、自分の知っている場所から、牧場が出来そうなところを探してみようと思って。そうしたら、割と早く条件がピッタリの土地に出合えたんです。牧場と自宅が近くにあることも理想でした。正直、近くにいても仕事と家庭の両立は難しいんですよ。妻にも、『この暮らしいつまで続くの』って言われてしまったりして。だから最近、週末は家の時間、って意識するようにしています。
それから、地元で就農したのは偶然のようなものだったんですが、メリットは大きいですね。地域の活動をしている養沢の活性化委員会っていうのがあるんですが、同級生のお父さんがメンバーだったりする。地元の話もすぐに通じるし、お互いに気が楽な部分がある。だから、受け入れてもらうのも苦労しなかったし、地域の人にも応援してもらえて。期待もしてくれてると思いますよ。メンバーの中では若いですしね」。

コロナ禍での新規就農となってしまったが、堀さんにはネガティブな気持ちはないそう。「もともと、無人島に住みたいなと思ったことがあるぐらい、どんな環境でも生き抜いてやる、っていう気持ちが根源にあるんです。自分の力で生活する。だから、会社に依存するとかではなく、自分の力でどうやったら適応して生きていけるのかっていつも考えているんです。そう考えた時、農業ならあまり影響されずに暮らせるな、と。だから今の状況も、それほど不安じゃないんです。自分にできることをする『ちっちゃな農家』になって、穏やかな気持ちで生活していけたらいいなと思います」。


▽レポーター TOKYOLOVERS NO_23 塚原智美
https://tokyogrown.jp/tokyolovers/member/tomomi_tsukahara/


▽食材ハンター『東京のヤギチーズをハント!』
https://tokyogrown.jp/special/hunter/detail?id=943363

▽レシピヤギチーズの温かいサラダ
https://tokyogrown.jp/recipe/detail?id=943379

堀 周さんへの一問一答

QUESTIONS AND ANSWERS

牧場を始めてそこに暮らし始めてどうですか?
とにかく寒い! 冬に、家の周りは雪が積もっているのに、道を1本降りたところはまったく雪がなくてびっくりしました。でもその分、夏は過ごしやすかったですね。エアコンがなくても大丈夫なぐらいでした。
ヤギと暮らしていて楽しいことはなんですか?
牧場で横になって、ぼーっとしている時は幸せですね。ヤギに話しかけたりしてね。牛より体が小さくて扱いやすいというのもあるんですが、なんだか気持ちも牛より通じてる感じがします。この間一緒に散歩に行ってみたんですけど、ヤギが先に行ってしまっていても、僕が立ち止まると慌てて戻ってきたりして。すっかり家族になっています。
逆に辛いことはどんなことですか?
辛いこといっぱいありますよ! チーズ作りに失敗して廃棄した時も辛かった。出産から乳しぼりまで、体力も使ってくれたのに、経験不足でそれを廃棄することになって申し訳ないって。出来るだけ失敗しないで美味しいチーズを作れるように、慎重に試作も繰り返しているので、お客さんから「美味しかったよ」って言われた時は、本当に嬉しいですね。

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