「農業の六次産業化」「地産地消」―そんなフレーズが浸透してきた今日この頃ですが、改めてその実態はどういうことなのか、感じたことはあるでしょうか?
京王線北野駅から歩くこと約10分、八王子市打越町に建つ「もぐもぐランド」は、ワクワクする買い物体験を通じて、農業の六次産業化や地産地消を実際に体感できるとても贅沢な施設です!
今年7月1日のオープンからちょうど一ヶ月が経った頃、新築の優しい木の香りが漂う店内を訪れると、オーナーの小山律子さんが畑に咲くひまわりのような笑顔で出迎えてくれました。

最大の魅力は、畑の上に建っている臨場感

 ここ、「もぐもぐランド」は、小山さんが先代から受け継いだ生産緑地に建つ、八王子の“農業発信基地”。
 季節ごとにさまざまな旬の野菜が育つ畑はもちろんのこと、地域の農家さんも使う作業場、食品加工場、そして直売所など、生産から加工、販売までの六次産業化に関する設備が整えられている施設です。
 この日も1階の食品加工場では、スタッフの方々による旬のかぼちゃの煮物作りの最中で、甘くおいしそうな匂いが漂っていました。
2階に上がると、野菜の発送に使えるスペースや(ある程度まとまった数の段ボールの荷づくりって、案外場所が必要なのです…専用スペースがあるなんてすごい!)、さまざまな体験イベントやセミナー等に対応できる多目的室も。さらに2階のベランダに出ると、目の前には本施設が建つ「もぐもぐファーム」の畑が広がります!
 ナスやゴーヤなどの夏野菜、また小山さんが以前より広く手がけられているドライフラワー用の多様な花々が元気に育つ姿に季節を感じられる瞬間でした。

 小山さんは、「もぐもぐランドの最大の魅力は、畑の上に建っている臨場感だと思っています」と語ります。
 都市農業の最たる特徴のひとつは、生産(畑)と消費(家庭)の距離が近いことですが、もぐもぐランドはそれに加えて、「加工」や「体験」までも同じ敷地内で完結されている。まさに農業の六次産業化実現のための工夫が詰め込まれていました。

(加工場の様子。かぼちゃの煮物を仕込みながら、素敵な笑顔を見せてくださいました)

(もぐもぐファームの畑に咲くカラフルな千日紅は、直売所でも特に人気)

開業までのストーリー

 「畑は、一度コンクリートにしてしまうとダメなのよ。もとの土壌環境に戻すのに何年もかかるからね。だから、近所に畑があるならそこでとれたものを食べることで、畑が残り守られていくことを応援する。それが地産地消の醍醐味だと思うのよ」
そう熱く語る小山さんですが、実はもともと「農業」とは縁遠い生活をされていました。畑を身近に感じる機会もほぼ無い学生生活を経て、大学卒業後には都内でシステムエンジニアとして就職。その後、ご実家が八王子で代々続く農家であるパートナーと結婚されて初めて、農業の世界に触れるようになっていったそう。

 当時から、先代のおじいさまは、育てた野菜を市場に出荷してもあまり値が付かないこともしばしばあったご経験から、市場には出さず自身でトラックで地域をまわり直接販売することで近隣の方々に喜ばれていたのだとか。
そんな中、小山さんは、システムエンジニアとして働かれたご経験も活かしながら、広報担当として畑や野菜栽培の様子を紹介するウェブサイトを作成。1990年代当時としては、かなり画期的な試みだったのではないかと思います。
 「自分はそれまで畑に入ったことが無かったから、野菜にも花が咲くということに衝撃を受けたのよ!今では当たり前だけど、そんな衝撃が本当におもしろくて。これは人にも伝えたい、自分もやってみようって思ったの」そう振り返る小山さんが、農業を「素人目線」でおもしろがりながら新たな視点で作ったウェブサイト「しょうちゃんの野菜畑」は現在も閲覧可能です!
(参考:しょうちゃんの野菜畑 ウェブサイト)
 http://www.r-viale.com/vege/

 その後ご主人や料理人の方と「もぐもぐファーム」を立ち上げ、アップサイクルの取り組みとして、傷んだ野菜の加工製造販売を手掛けてきました。
また、一本のユリの球根から始まった花の生産販売は、道の駅で評判となり、野菜と並ぶ主力商品に。このころには、小山さんご自身で、地域の食や農に関わるつくり手の方々を巻き込みながら、市内のあちらこちらでマルシェも開催。その中で、地域の農家や市民との繋がりがどんどん広がっていきました。
 2年前の新型コロナウイルス感染症流行を受けて、盛況だったマルシェの開催もストップせざるを得ない状況になるなどいろいろなトラブルに見舞われながらも、いつも活動を見守ってくれていた地域の方々に支えられながら次々と新しい事業を展開し、いよいよ今年の夏「もぐもぐランド」が誕生しました。

※今回のコラムシリーズは、東京の『直売所』に焦点を当て、東京農業活性化ベンチャーの株式会社エマリコくにたちの皆様に執筆を依頼しました。

株式会社エマリコくにたち

荒木 陽子/ARAKI YOUKO

〒186-0004
東京都国立市中一丁目1番1号
℡ 042-505-7315
http://www.emalico.com/

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東京生まれの“おいしい”に出会う『直売所散歩』

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