今回は、世田谷区砧公園の近くの閑静な住宅地の中にある、安藤智一さんの畑にお邪魔しました。
柔らかな日の光が差す畑の前で、“地域密着型”の農業スタイルで新しい挑戦を続ける安藤さんの、都市農業にかける思いをお伺いしました。

限られた農地で営農する工夫

「うちの畑では、季節の野菜、切り花、花苗などを含め年間70種類以上の作物を、露地とハウスで栽培しています。
少量多品目栽培は都市農業の特徴ですが、宅地と隣り合わせの農地なのでたとえ15アールの畑があっても日当たりの関係で半分しか作付けできないこともあります。
その時は条件が悪くてもちゃんと育つ作物を育てるなど、多少の困難にも対応していくこと。一つがダメなら次にまた新しいものにトライする。それが狭い敷地で農業をうまく続けていくコツかもしれません。」
農業経験ゼロからスタートした安藤さんですが、世田谷区が主催でJA東京中央とJA世田谷目黒、東京都農業振興事務所(中央農業改良普及センター西部分室)の協力で運営する、農業後継者向けの勉強会「せたがや農業塾」で3年間野菜作り等を学びました。
それから様々な失敗を重ねるうちに、次第にお客様の期待に応えられるような農作物づくりができるようになったそうです。

地域交流のための直売所

畑の前の直売所は6月~7月がメインですが、主にトマト、ナス、キュウリなどの夏野菜を販売されています。
どんなお客様がいらっしゃるのか安藤さんにお伺いしました。
「直売所で農園主と会話しながら買い物を楽しみたいというお客様もいらっしゃって、お互いに知り合いの飲食店を紹介するなど情報共有の場としても役立っています。 
最近では、特にお子様連れのお客様が多くなりました。畑の風景や土の匂いを感じて、安心できるものを子どもに食べさせたいと感じているのではないでしょうか。
これからも直売所は、地域住民の方々とのふれ合いの場として大切にしていきたいです。」

人との信頼関係を築く大切さ

自身の直売所の他には、JA東京中央の直売所「ファーマーズマーケット二子玉川」へ、野菜や切り花などを出荷しています。ユリ、カンパネラ、ひまわりなどの切り花は特に売れ筋で、リピーターの方に喜ばれているそうです。
「ここは、農家、店舗、消費者の間のコミュニケーションが活発で、とてもいい情報交換ができている直売所です」と安藤さん。
そんな活気に満ちた店内には、冬野菜を中心に世田谷区の伝統野菜である大蔵ダイコンのほか、トレビスなどの珍しい西洋野菜も。
お客様のニーズに合わせながらも、常に直売所が賑わうようお店のスタッフが独自の視点で珍しい作物や商品も積極的に取り入れているそうです。

(スタッフさん手作りのPOPで野菜のおいしい食べ方などをアピール)

現場に立つスタッフの方にもお話を聞きました。
「農家さんが一生懸命作ってくださった野菜は、全部売り切るというのが私たちの大切な役割の一つです。特に珍しい野菜は売上の波もありますが、農家さんには粘り強く交渉して作り続けていただいています。お客様には目新しい野菜を一度でも食べてもらうよう、こちらから積極的にアピールしています」
お店のスタッフが主体性を持ち、野菜を販売することに真摯に取り組んでいるからこそ、地域の農家さんとの良い関係が生まれていることが感じられました。
また、「安藤さんの野菜作りはとにかくセンスの良さを感じます。あったらいいなと思う作物や買い手のニーズに合わせた規格の野菜をつくってくれるし、何よりおいしい野菜を作ろうという情熱が伝わってきます」とベテランのスタッフさん。
常に丁寧な野菜作りを手掛ける安藤さんの野菜であれば間違いなし!と、スタッフさんからファーマーズマーケットに買い物にくる常連のシェフの方に、安藤さんの畑を紹介したこともあるそうです。
そんなお話を伺っているうちに、安藤さんが本日卸したカブはさっそく完売していました!

安藤さんの周りには、どうして多くの人や情報が自然と集まってくるのでしょうか?
そんな問いに安藤さんが応えてくださいました。
「私は常に直売所や飲食店を含めた周りの方々からチャンスを与えてもらっていると感じています。営利だけを追求するのではなく、農業者も消費者もお互いに満足度を高めていける農業のありかたを考えていきたいです。そのために異業種間の交流は特に大切にしています。現在は10軒ほどの飲食店と提携していますが、飲食店のシェフには実際に畑に来ていただき野菜の生育過程を見てもらうこともあります。それは、ひとつの作物が畑で育まれレストランで加工されるまでのストーリーを感じてもらうためです。そしてそのストーリーは、SNSなどで消費者の方々にも情報共有しています。そうすることで、自分たちが普段何気なく食べている農作物に少しでも愛着が湧き、農業への理解につながっていくのではないでしょうか」

(ファーマーズマーケット二子玉川 野菜だけではなく切り花の種類も豊富)

これからの新しいチャレンジ

「うちの息子は、私の畑で育った野菜を食べて成長してきました。それは親の役割としても誇らしいことで農業を続けてきた一番の醍醐味だと感じています。
その経験を活かし、今後は離乳食の提供などにも携わりたいと考えています。
ここでも生産から加工までの背景が分かるよう情報発信をすることで、消費者の方々に安心できるものを提供していけたらと思います」

限られた農地で課題を抱えながら継続していく都市農業の中で、固定観念に縛られることなく新しいことに挑戦していく安藤さんからはとてもポジティブなエネルギーを感じました。何よりも人とのつながりと縁を大切にする安藤さんの直売所には、老若男女問わず様々な人を惹きつける魅力にあふれているようです。

【安藤智一さんの直売所】
東京都世田谷区大蔵1-9-23
※ 2022年は、5月~7月の期間限定での対面販売しました(2023年も同様の予定です)。
※ 直売所で購入いただいた方には、LINEを使い通年受注販売をしております。受注販売の詳細につきましては、直売所にてお知らせします(5月~7月の予定)。

【JA東京中央ファーマーズマーケット二子玉川】
東京都世田谷区蒲田3-18-8
OPEN:9:00~16:30(月曜定休)
https://www.ja-tokyochuo.or.jp/store/detail/market_futagotamagawa

株式会社エマリコくにたち

荒木 陽子/ARAKI YOUKO

〒186-0004
東京都国立市中一丁目1番1号
℡ 042-505-7315
http://www.emalico.com/

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東京生まれの“おいしい”に出会う『直売所散歩』

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