
「江戸東京野菜」を未来を担う若い世代へ 都内高校生がつくる料理コンテスト 「寺島ナス」
10月22日に行われた実技審査会で選ばれた、入賞作品の最終審査発表と表彰式が、10月29日に「第52回東京都農業祭(会場:東京国際フォーラム)」特設ステージにて開催されました。
会場となった東京国際フォーラムには、282組の応募の中から見事に入賞を果たした都内高校生5組をはじめ、応援に駆け付けた高校生や学校関係者、ご家族などが集まりました。
当日の模様をレポートします。
最終審査発表を前に、コンテスト主催者であるJA東京中央会の野﨑啓太郎代表理事会長が、入賞チームへのお祝いメッセージと、本コンテスト開催の主旨である“東京農業の現状”について話しました。

「入賞した高校生の皆さん、おめでとうございます。
東京には約6,100haの農地があり、農家の皆さんが日々生産に励んでいますが、一方で、年間100haずつ減少しているのが現状です。
“江戸東京野菜”は時代の流れの中で、一旦は生産されなくなっていましたが、残っていた種を探し出し、20年以上前から復活に取り組んできました。
今の野菜の多くは、毎年、種を買わなければなりませんが、江戸東京野菜は『固定種』と言って、毎年、花を咲かせて種を取るため、輸入が減っても生産が継続できます。
本コンテストを機に、“江戸東京野菜”や、東京産、国産の食材を食べるきっかけにして欲しいと思います。」
と、呼びかけました。

江戸東京野菜は、2011年にJA東京中央会が復活させて呼称を定め、現在52品目が登録されています。2回目となるコンテストの今年のテーマは「寺島ナス」。
江戸時代から旧寺島村(墨田区)を中心に栽培され、現在は、小金井市、立川市、三鷹市などに10軒ほどの生産者がいます。
やや小ぶりで皮は硬めですが、肉質がしっかりして加熱するとトロッと柔らかくなるのが特徴です。
審査委員長を務めた辻調理師専門学校・教育研究センター長の山田研さんは、
「この料理コンテストでは、“江戸東京野菜”をまず知ってもらうことを目的に、レシピ提案の前に、動画で学んだり、実物を届けて試作するなど、理解や学びのステップを重視しました。今年のコンテストには、なんと、都内16校の282組から、チャレンジ精神あふれる高校生の自由なアイデアが集まりました。審査では、“寺島ナスらしさ"が生かされているかを重視して選考しました。」
と話されました。

山田委員長のコンテスト概要と審査過程の説明が終わり、いよいよ受賞作品(優秀賞、2位、3位と、特別賞の2組)の発表です。
優秀賞 「チーズナストグ」
東京都立赤羽北桜高等学校 河津共希さん
若者に人気の韓国グルメ・チーズハットグをヒントに、寺島ナスをまるごと揚げたものです。
見た目にも楽しくインパクトがあり、おいしく食べられること、さらにむいた皮も混ぜこむといった“フードロス”への配慮もあり、料理の専門家である審査員5人の満場一致でトップとなりました。




2位 「寺島ナスのサンドイッチ」
東京都立淵江高等学校 チーム#家庭科部52B
浅野真哉さん・西花莉央さん・渡邊光一さん
旨みが通常の5倍ある寺島ナスを、ベーコンと合わせたサンドイッチ。
風味や食感のバリエーションが評価され、ラッピングにもう一歩工夫が欲しかったとのコメントを受けつつも、堂々の2位となりました。




3位 「なす重」
東京農業大学第一高等学校 吉岡里桜さん
「うな重」をモチーフにした「なす重」は、寺島ナスの存在感がストレートに感じられる色鮮やかな作品。
調理では、加熱のし過ぎにより苦味や硬さが残ったものの、素材の使い方と、盛り付けにも高い評価を得ました。




特別賞 「なすの巻物風 湯葉包みあられ揚げ」
三輪田学園高等学校 村上結さん
家族でよく和食を食べに行くとのことで、お母さんと何度も練習をされたそうです。
寺島ナスを、皮の硬さが残らないように薄切りと棒状に切り方を工夫した点や、湯葉や五色あられを付けるなど、技術面ではよく勉強し、練習していると評価されました。




特別賞 「寺島ナスの水餃子と万能ダレ」
東京都立赤羽北桜高等学校 チーム AHA
小池穂乃花さん・吉田彩乃さん・松村碧さん
形や大きさの違う寺島ナスですが、水餃子のタネ用に刻むことで、どのサイズのナスにも応用でき、万能ダレにも刻んで入れて食感を工夫しました。
トッピングにナスの皮を揚げ、フードロス削減も。




入賞した5作品は、プロの料理人によってブラッシュアップされ、数量限定で国際フォーラム地上広場のキッチンカーで販売されました。


優秀賞の「チーズナストグ」。
からっと揚げた衣の中は、トロける美味しさ!
300円で販売されました。


2位の「寺島ナスのサンドイッチ」。
寺島ナスとベーコンを食パンに挟み、味のバランスもよくヘルシー!



そのほか、「なす重」、「なすの巻物風 湯葉包みあられ揚げ」、「寺島ナスの水餃子と万能ダレ」も販売されました。
“江戸東京野菜”が気軽に食べられるとあって、長蛇の列ができる人気ぶりでした。

6月のエントリーから実に5か月に渡って、江戸東京野菜「寺島ナス」と向き合ってきた高校生たち。
夏休みの間に、何度も試作とアレンジを繰り返し、10回試作をした高校生もいました。
皆さんそれぞれの思い出を胸に、大人になっても「寺島ナス」のことは忘れないでしょう。
指導した学校の先生や、ご家族を含め、江戸東京野菜の魅力が、多くの人に伝わる素敵で感動一杯の料理コンテストでした。
【ベジアナの取材後記】
今回取材して驚いたのは、入賞した高校生たちが、剥いたナスの皮を刻んで混ぜたり、なるべく皮を使うなど、フードロス削減を調理工程に取り入れていたことです。
硬いからと切り捨てるのではなく、どうにか生かせないかと工夫を凝らすことは、まさに食と命を大切にする「食農教育」です。
伝統野菜や地場野菜は、地域の歴史や文化を尊ぶSDGs学習とも親和性があります。
大量生産が出来ないからこそ、「作る人」も「食べる人」も互いを思いやり、感謝し合う、生きた教材になると改めて感じたコンテストでした。
※ 本コンテストの入賞作品レシピは、後日、東京グロウンレシピ集(https://tokyogrown.jp/recipe/)に掲載される予定です。
お楽しみにお待ちください!
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野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」
小谷 あゆみ/KOTANI AYUMI
世田谷の農業体験農園で野菜をつくるアナウンサー「ベジアナ」としてつくる喜び、農の多様な価値を発信。生産と消費のフェアな関係をめざして取材・講演活動
介護番組司会17年の経験から、老いを前向きな熟練ととらえ、農を軸に誰もが自分らしさを発揮できる「1億農ライフ」を提唱
農林水産省/世界農業遺産等専門家会議委員ほか
JA世田谷目黒 畑の力菜園部長
日本農業新聞ほかコラム連載中