米、野菜、麺、豆腐、茄子、芋と何にでも寄り添い、ラー油、カレー粉、トマト、出汁、中華スープ、豆乳と足すものを変えればあらゆるジャンルに対応します。山椒、花椒、ニンニク、豆鼓などをお好みで加えることもできます。
前回は味が決まっているものを合わせるだけのレシピでしたが、今回は合わせ調味料を作っておくことで自炊のハードルを下げる趣旨です。
味噌の種類によって、毎回違った味わいになるのも楽しく、飽きません。今回は、江戸甘味噌で作りました。
肉味噌さえあれば
ご自宅でお味噌汁以外に味噌を使うのは、どんなときでしょうか。
旅先で手作りのお味噌を見つけるとつい手が出るものの、なかなか使いこなせていませんでしたが、今では月に1度ほど肉味噌を作っています。
江戸甘味噌とは
江戸甘味噌とは江戸時代に様々な味噌が全国から伝わる中、八丁味噌のように塩分が少なくコクがあり、白味噌のような米麹の甘さを兼ね備えた味噌として開発され、江戸のスタンダードとして人気を博した味噌だそうです。砂糖や味醂を足さなくとも田楽の味がします。
米を多く使うので、戦時統制以降廃れてしまったとのことですが、確かに現代のお味噌汁にそのまま使うには少し甘いです。その分、砂糖や味醂を足さずに合わせ調味料ができ、市販の甜麺醤と違って原材料も米・大豆・塩のみと、力強い味方です。
(参考文献)竹山伸司「江戸甘味噌について」(日本釀造協會雜誌63 巻 (1968) 1 号 23-26頁)
肉味噌のレシピ【材料】
豚ひき肉: 300~400グラム
キノコ類: シイタケなど 1パック (それより多くても構わない)
味噌: 大さじ3~4 (うち江戸甘味噌を半分ほど残りは好きな味噌)
料理酒: ひとまわし
水: 100cc弱くらい
醤油: 大さじ2~3 (味噌の塩分による)
納豆: 2パック(ひき割りがよい)
(江戸甘味噌を使わない場合のみ)
味醂: 大さじ2~3
肉味噌のレシピ【作り方】
① キノコは、フードプロセッサなどで細かく切ります。(肉と混じりやすい)
このくらいのばらつきで大丈夫です。
② フライパンで表面が白くなるまでひき肉を焼き、余分な油を取ります。
③ ①と料理酒、水をいれて、焦がさないように全体に3~4分火を入れます。
水と料理酒で沸かしながら、しっかり肉とシイタケに火を入れていきます。
④ 味噌、醤油(味醂を入れる場合は味醂)を混ぜて入れて全体を溶かします。味噌が固ければ、料理酒などを足して全体に行き渡らせます。
今回の味噌。右側が江戸甘味噌。左側は麦味噌です。
醤油で溶かしてからフライパンへ。
⓹ 納豆を入れて、全体がもったりして余計な汁気がなくなれば完成です。
できあがりです。
実山椒を入れることも。
肉味噌とキュウリのじゃじゃ麺風
肉味噌とキュウリをあわせた焼きそばで、じゃじゃ麺風にしてみました。
麺を焼くときに花椒と油を先に入れ、風味をつけてます。
キュウリは、今回は軽く塩をしてのせています。普段は青果を買ってきたら糠床に入れたり、切って下味をつけておくことが多いです。
味付けは調味酢等でも良いですが、塩やお酢だけでも美味しくいただけますし、応用も効ききます。
今回は、江戸東京野菜の馬込半白キュウリをホワイトバルサミコに漬けたもの、麹漬けの素に軽く漬けたキュウリを、タマネギとツナ缶と和えたものも作ってみました。
キュウリのやさしい味とホワイトバルサミコの甘みが箸休めに。
麹の甘さがタマネギの辛味やオリーブオイルで、食べやすくなります。
食に残る戦争の爪痕
江戸甘味噌が米を節約するために醸造ができなくなったことを書きましたが、戦時統制は米、大豆、小麦という食糧をどのように分け合っていくかという観点から遂行されました。
小泉武夫『発酵食品と戦争』文春新書(2023)では、味噌、醤油、酒、酢、パンなどの食品がどのように制約されていったのか、それが生活をどう変えたかが書かれています。
小泉武夫『発酵食品と戦争』文春新書(2023)
例えば、パックやカップに入って売られている糖類などが添加された安い日本酒は、戦時下で考案された三増酒です(2006年の酒税法改正以降は清酒と区別されています)。身近な食品の中にも戦争の影は残っています。
2024年6月14日には、食料供給困難事態対策法が成立しました。米、小麦、大豆等を特定食料とし、情報収集を行いながら、紛争のみならず異常気象等で不測の事態が生じた場合、生産転換や事業者の事業計画の変更等を国が命じることができる法律です。
食に関する制約があった時代と今日の暮らしは繋がっていて、単なる遠い過去の話ではありません。急な食品の不足に怯えるのではなくて、身近な食品の需給を調べたり、生産を応援するために安定的に消費したり、旬のときに自分で加工して保存したりといったことを少しだけでもすることが、未来を生きるための備えになると思っています。
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食農弁護士
桐谷 曜子/YOKO KIRITANI
1977年生まれ。神奈川県川崎市出身。大手法律事務所で弁護士として企業買収、企業法務に従事後、証券会社での勤務で地方創生、海外投資、ベンチャー投資等に深く関与。その後、2014年から2022年まで農林中央金庫に在籍し、食産業及び農業に関する投資、国内外企業買収、各種リサーチや支援業務に携わる。
自他ともに認める食オタクであり、法務知識のみならず農林水産部門に関する知見を用いて、ベンチャー企業含む事業者や生産者の各種相談対応、新規事業創出支援、資金調達や事業承継支援を行う傍ら、料理で人を繋ぐことで課題解決への貢献を目指している。