お好きな塩はありますか?
私が塩の味に強く魅せられたのは、とある農家民宿で食べた、塩だけで調理されたニンジンの炒め物の複雑な美味しさがきっかけでした。
以降、色々な塩をレシピに取り込んで楽しんでいます。
今回は東京の塩を使って、「八王子ショウガの大葉塩肉巻き」をつくります。
肉はメインではなく、とにかくショウガを食らうレシピです。
八王子ショウガのご紹介
八王子ショウガは、80年以上の歴史があり、「道の駅八王子滝山」や八王子市内のスーパー、飲食店などに出荷されています。
また、江戸時代から続く「しょうが祭(八王子市:永福稲荷神社例大祭・毎年9月開催)」に奉納され、無病息災を願う季節の風物詩となっています。
大きく食べ応えがあり、谷中ショウガよりも辛味が少ないため、このレシピにぴったりです。
「八王子ショウガの大葉塩肉巻き」レシピ 【作り方】
① 大葉を、一晩以上塩に漬けておきます。
② 八王子ショウガは、茎2本分ずつ程度に分け、1本の茎を残して余計な茎を切り落とします。
③ 切り分けたショウガを、豚薄切肉(今回はバラ肉)のスライスを半分に切ったもの(15gほど)と、大葉の塩漬け(1枚で小さなおにぎりひとつ巻ける程度のしょっぱさになります)で巻きます。
今回は豚バラ肉の脂が多かったので、1枚だと塩辛くておつまみ向きになり、半分にするとあっさりした味わいでした。
④ 巻きおわりを下にして両面焼き色をつけたら、引火を防ぐため一度火を消して酒を注いで蓋をし、その後弱火で2分ほど蒸し焼きにします(茎がついていますので、完全に蓋は閉まりませんが大丈夫です)。
⓹ 蓋をあけ汁気を飛ばして絡めたらできあがりです。
【材料】(分量は目安です)
八王子ショウガ 2束(200g程度)
豚バラ肉 150g
大葉 5~8枚
塩 小さじ1程度
酒 70㏄程度(フライパンの大きさや材質による。焦げそうなら水か酒を足す。)
※[新ショウガを使用する場合]
新ショウガ 400g~500g(市販の甘酢漬け用に売られているものの量)
豚バラ肉 250g程度(少しショウガが余るバランスになります)
大葉 8枚程度
塩 小さじ1.5程度
酒 80㏄程度
▪新ショウガの場合は、太さ5ミリ角程度の長めの拍子木切りにします(フライドポテトのようなイメージです)。
▪できるだけ少ない肉で、多くの生姜を巻く気概で臨むと美味しくできます。
▪大葉は、子どものこぶし1つ分程度のかさに対して、1枚ずつくらいを適宜あてがってください。
ほどよい辛さで食が進みます。人生で、一番ショウガをかじった日を体験できると思います。
全部の塩を使っても塩辛くないように、分量の記載は材料の重さの1%程度の塩分を目安として記載していますが、大葉塩漬けを使うことで、塩の分量を計らなくともおおよそ安定した味わいになります。
実際は、大葉が浸かりやすいように用いられる容器に適量の塩を入れ、上下を返したりなどして漬けてください。
巻くときは、軽く塩をはたいてお使いください。酒で蒸している間に塩味が全体に穏やかに行き渡りますので、控えめに試していただき、足りなければ後から補ってください。
ただし、塩化ナトリウム成分のみのサラサラした精製塩を使用すると加減が難しくなりますので、漬物用などの用途を記載している再生加工塩や伝統的製法の塩をお使いください。
大葉は水気をよくふいて漬けてください。
できるだけボリュームが出るように切り分けます。
着物を着せるような気持ちで巻きます。
巻き終わりを焼き付けるように下にします。
焼き目をつけたら、お酒をたっぷり注いでください。
中がうっすら半透明となる仕上がり。
おうち居酒屋に、いかがですか?
葉付きではない新ショウガで作っても美味しいです。やや斜めに巻くと薄く巻けます。
塩と日本人
今回ご紹介するのは、宮本常一著の「塩の道」です。
製塩のための木材を山に住む人が、木材を対価として海に住む人から塩を得る。
素朴な交易が、製塩方法の発展とともに次第に集約化され、製塩を生業としていた人が今度は別の産業を起こし、塩を運ぶ牛のための道が物流ルートとして発展して、経済社会が成立していく過程を読み解くことができます。
汗をかくため、塩なしに生きられない人類の身体構造なくして、交易文化の発展はなかっただろうと思わせます。
塩の道 (講談社学術文庫 677) – 1985/3/6
著:宮本 常一
本書が刊行された1985年は、1971年に施行された塩業近代化臨時措置法により、イオン交換膜製塩で製造された塩だけが塩の専売制下で市場販売されていました。
専売制が廃止され、さまざまな塩が出回るのは1997年で、現在は数多くの種類の塩が出回っています。
こう書くと文化破壊のように思われる専売制ですが、本著にも記載があるように専売制によって塩があらゆる人に行き渡ることで山村集落でも塩不足による疾病や肌荒れが見られなくなり、不純物が多い粗悪な塩も駆逐されました。
塩は鉱物であり、イオン交換膜で塩化ナトリウムを抽出し、ニガリ成分を足す再生加工塩でも、塩としての品質に劣るものではありません。
他方で、伝統的な塩作りを担っておられる方達の思いや文化、そしてそこで作られる塩が、その風土を写した唯一無二の特別な風味を有していることも確かです。
食に関しては、伝統的なものが良いものであって、近代的なものを可能な限り排除されたいという気持ちを持たれる方もいらっしゃいますが、皆が不足なく食べていくこともとても重要な課題です。
それぞれの価値とありがたみを理解し、食産業の歴史と発展に思いを馳せることで、伝統を重んじながら未来に進んでいけるのではと思います。
個性豊かな東京の塩
東京都の島しょ地域で製塩されている海塩(一部)
東京都の島しょ地域には、個性豊かな塩が沢山あります。
登窯で製塩される「小笠原の塩」は、結晶が大きくマグネシウムの多い塩で、素材に直接つけても口当たりがマイルドです。
地熱蒸気を用いて製塩される青ヶ島の「ひんぎゃの塩」も同じく結晶が大きく、カルシウムが多いので後味は特に甘味を感じます。
大島の海水を100%原料にした「海の精」は様々なシリーズがありますが、しっかりとした塩味が特徴です。“あらしお”は、素材に塩をつけてから、少し時間を置いて素材と塩を馴染ませた方が美味しいそうです。今回も海の精を使ったときは、巻いてから10分以上時間をおいてみました。
ぜひ、お気に入りの塩を見つけてみてください。
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食農弁護士
桐谷 曜子/YOKO KIRITANI
1977年生まれ。神奈川県川崎市出身。大手法律事務所で弁護士として企業買収、企業法務に従事後、証券会社での勤務で地方創生、海外投資、ベンチャー投資等に深く関与。その後、2014年から2022年まで農林中央金庫に在籍し、食産業及び農業に関する投資、国内外企業買収、各種リサーチや支援業務に携わる。
自他ともに認める食オタクであり、法務知識のみならず農林水産部門に関する知見を用いて、ベンチャー企業含む事業者や生産者の各種相談対応、新規事業創出支援、資金調達や事業承継支援を行う傍ら、料理で人を繋ぐことで課題解決への貢献を目指している。