小谷: 吉田農場さんは代々続く農家さんだそうですが、どれぐらい続いているんですか?
吉田: 正確にはわかりませんが、位牌が5柱ぐらいあるのでだいたい200年で、僕で8代目ぐらいです。いつかは継ぐだろうとは思っていましたが、まず自分でどこまで稼げるか試したかったので、はじめは不動産屋で働いて、家の事情もあって1年半で就農しました。今は両親と僕の3人で、妻は子育てしながら手伝ってくれます。
小谷: 練馬といえば、江戸東京野菜「練馬ダイコン」が有名ですが、キャベツ生産も都内で一番だそうですね。
吉田: 昭和30年代までこの辺り一帯が畑で、麦や陸稲(畑で栽培するお米)を作っていたそうです。だんだんと人々の嗜好も変わっていき、大根やキャベツ、ニンジンなどを作るようになりました。
特にキャベツは栽培の効率がよく、戦後はキャベツが生産の中心になりました。今では都内のキャベツの2割が練馬産です。その後始まった住宅の建設ラッシュに合わせて、畑の半分ぐらいをつかってサツキなどの植木を育てるようになり、バブル期までは結構もうかったという話です。
練馬の農チューバー!吉田農場 年中無休のロッカー直売!
みなさん、こんにちはー!東京・世田谷の農園で野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」小谷あゆみです。
今回は、東京23区で最大の農地面積を誇る練馬区で代々続く若手農家のお話。
練馬区には、東京23区内にある農地の実に4割、190haの畑が今に受け継がれ、420軒の農家が農業を営んでいます。
また、農家の直売所、いわゆる「庭先販売」が270ヶ所あり、畑の脇などでよくロッカー式の農産物自動販売機を見かけます。
これを今から30年ほど前、最も早い時期に取り入れたのが「吉田農場」さん。大都会東京で、先祖代々の農地を守り残していく苦労は並大抵のことではありません。
そうした都市農業の環境の中で、お客さんとの対話を大切に、楽しみながら、新しい農業の魅力を発信する「吉田農場」の吉田智博さん(37)にお話を聞いてきました。
小谷: ロッカー式の自販機で野菜を売るまでは、どういう販売方法だったのですか?
吉田:うちは祖父母の代から、「食べておいしい野菜、人にプレゼントして喜ばれる野菜」というのを大事にしていたそうです。
もともとは市場に出荷して、その余りやロットの少ない物を”引き売り”(移動販売)したらしいですが、朝から晩まで働きづめでハードになった頃、ロッカーが出たというのを知って、区内でも2、3番目に導入したって聞いています。
小谷:まさにコインロッカーですね。ずいぶんたくさんありますね。
吉田: はい。6段×3列のロッカーが5台で、ぜんぶで90口あります。野菜がある時期は売れるたびに補充して、お正月以外の年間360日ぐらい稼働しています。
話を伺っている間も、次から次へとご近所の方が買いに来られました。
小谷: ご近所の方にとっては、近くに農家のロッカー式自販機があって、好きな時に新鮮な野菜を買いに行けるというのは、とても便利で嬉しいことですよね。
吉田: そうですね、気を付けていることとしては、一度買っておいしいと思ってまた来てくれたのに、物がないと残念になりますよね。
なので、最低2週間は続けて出せるように、計画的に作付けしています。
また、昔、祖母に言われた言葉で、「作る人は100個でも、買う人が手に取るのは1つ。これを忘れてはいけない」と。
直売所のモットーは、おいしいもの、質のいいもの。野菜もあまり大きく太り過ぎるとおいしくなくなるので、収穫初期のみずみずしいものを売るようにしています。
小谷: あっ!赤い大根の上に50円玉がありますね!これは?
吉田: この大根は50円の商品なのですが、ロッカーは100円玉専用。
なので、野菜と一緒にお釣りの50円を入れているわけです。
小谷: なるほど!おもしろいですねー。こうすればいくらのものでも売れますね。
吉田: これなら、B級品でも値段を下げて売り切れますからね。
ロッカー式のメリットは、ロットが足りず市場で出せないものや、試しにちょっと作ったものでも売れることですね。100円から300円の価格設定ですけど、無人で手数料もかからない。朝8時からだいたい夕方までですが、入れておけば売れるのは、ありがたいですね。
あとは、販売の機会を逃さないポイントとして、「両替機」を置いたんですが、これがよかったです。
小谷: 小銭がなくて買うのを諦めてしまうのは、無人の庭先販売ではよくあることですからね。
小谷: 販売所の入り口に、手書きのポップがありますね。
吉田: 野菜は契約スーパーにも出荷していますが、スーパーや無人の自販機だとお客さんと直接おしゃべりできないので、野菜の魅力を伝えるコミュニケーションの手段として手書きのポップを使っています。ポップづくりは勉強して、チョークアートのセミナーにも行きました。
これ、女性向けと思ってルッコラのデトックス効果を書いたんですけど、意外におじさんに響いて、「これ、いいウンコ出るよ」って(笑)、毎日買いに来てくれます。
小谷: 貴重な情報ですねー!直売の良さって、そういう対話からフィードバックを得るメリットがありますね。
吉田: 反応があるのは嬉しいですね。また、夏のイベントとして、とうもろこしは半日で、全部畑で売りきります。本当は200円で売りたいけど、お客さまへの日頃の感謝をこめて150円で。
結局、50本とかまとめて買う人もいて、2時間で2,000本が売り切れました。
小谷: えっ、2時間で2,000本!すごい‼
吉田: もう30年ぐらいやっていますので、お客さん同士の口コミでかなり広まってきました。去年は、感染対策で間隔は空けて並んでいただいたので、例年以上の大行列になってしまいました。
小谷: 芽キャベツかわいいですねー。一年を通して多品目を栽培すると、手間がかかりそうですが、どんな工夫を?
吉田: たとえば、芽キャベツは人気商品なんですが、もぎ取るのに手間がかかって親指も痛くなるんですよ。そこで茎に付いたまま「まるごと芽キャベツ」と名付けて、お子さんと一緒にもぎもぎしましょうとYouTubeの解説動画をバーコードで貼ったら、1,000円という高値でも売れましたね。
小谷: 収穫時の負担を楽しい話題に発展させるのも、YouTubeの活用の仕方もアイディア満載ですね。
小谷: 最後に、直売所で収益をあげる工夫を教えてください。
吉田: 去年はついに直売所をきれいに改修しました。やはりきれいでおしゃれな方がお客さんも喜ぶでしょうし。
それから、吉田農場のオリジナル商品としては、練馬区の支援で、地元の漬け物屋さんとコラボした自家製野菜のキムチも人気です。これは自販機とは別の冷蔵庫を置いて。白菜、大根の他、夏は玉ねぎキムチもあります。
ロッカー自販機も90口あると、端境期にすべて埋めるのは大変ですが、農家の友達と品目を交換したり、果樹農家のジャムや加工品を並べるなど、お客さんが飽きないよう工夫しています。
祖母の言葉通り、一つ一つ、おいしいものを。農業って楽しいってことを伝えたいですね。
左)若手農業者による「麦わらマルシェ」。練馬では、区役所やJA、駅前などで農家直売のマルシェが多く開催され、「ねりマルシェ」として練馬区も支援している。
右)2009年、就農したての24歳の吉田さん。国連大学前の青山ファーマーズマーケットにて。
ベジアナの取材後期
「食べておいしい野菜、人に上げたら喜ばれる野菜」。祖父母の教えである味と品質を大切にしながら、また買いたくなる楽しさを、新しいサービスや発信で提案する吉田さん。
芽キャベツの摘み取りも、出荷の工程ととらえると「労働作業」ですが、「体験」ととらえると楽しい「サービス」に変わります。収穫作業は体験サービスに、野菜を買いに立ち寄るロッカー自販機は地域コミュニティの場にもなっているようです。
都市農業の価値を単に農産物の生産・販売にとどめず、多くの人が住んで行き交う街だからこそ生まれる「コミュニケーション」の力を生かした農園。
作る人も食べる人も、双方が笑顔になるコミュ力高めの都会の農家!新しい時代に先駆けた農のあり方を教えてもらいました。
練馬の農家、吉田農場さんのYouTube!必見ですよ!
吉田農場は東京都GAPの認証もとっているほか、吉田さん自身がJGAP指導員でもあります。
https://tokyogrown.jp/learning/agriculture/gap/detail?id=786268
練馬の農家吉田農場のYouTubeはこちら
https://www.youtube.com/channel/UCgXxTJgPxtyjKG5W45q-nBg
2021年5月に公開した
【プロのズッキーニの育て方】支柱の立て方と良い実をつける受粉の方法
5万9千回再生という人気の動画!
https://youtu.be/6f--3Yzzttk
-
野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」
小谷 あゆみ/KOTANI AYUMI
世田谷の農業体験農園で野菜をつくるアナウンサー「ベジアナ」としてつくる喜び、農の多様な価値を発信。生産と消費のフェアな関係をめざして取材・講演活動
介護番組司会17年の経験から、老いを前向きな熟練ととらえ、農を軸に誰もが自分らしさを発揮できる「1億農ライフ」を提唱
農林水産省/世界農業遺産等専門家会議委員ほか
JA世田谷目黒 畑の力菜園部長
日本農業新聞ほかコラム連載中
吉田農場
- 所在地
- 〒179-0073 東京都練馬区田柄1丁目3
- WEBサイト
- https://www.instagram.com/a.yoshida.farm/
ベジアナが行く!「東京×カラフル×農業」
-
VOL_1
東京都民1,395万人の「TOKYO GROWN」
-
VOL_02
東京に「みどり」を届ける植木生産者は、約500軒
-
VOL_03
東京農業の発信拠点がなぜ赤坂に⁉ 作ったのは1人の農家の熱
-
VOL_04
練馬の農チューバー!吉田農場 年中無休のロッカー直売!
-
VOL_05
足立区のツマモノ農業⁈ 横山農園
-
VOL_06
東京の郊外・国立市谷保に広がる田園風景
-
VOL_07
東京でいちばん空が広い田園地帯⁉ 多摩開墾をみんなで耕す
-
VOL_08
江戸から続く循環型農法! 落ち葉をはいて堆肥にする馬場農園
-
VOL_09
練馬に参加型の「みらいのはたけ」オープン! 土に触れ、育て
-
VOL_10
全国都市農業フェスティバル! 開催直前インタビュー!
-
VOL_11
生ごみを宝に!市民が活躍するコミュニティガーデン ~日野市