東京都民1,395万人の「TOKYO GROWN」

みなさん、こんにちはー!東京・世田谷の農園で野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」の小谷あゆみです。
ベランダ菜園や区民農園など、家庭菜園歴はかれこれ15年以上、野菜づくりには想像以上のメリットがたくさんありますよ!というメッセージを掲げた「1億農ライフ」を提唱しています。

この連載で、大都会東京に息づく農業を訪ねて、「知っているようで知らない、都市農業の魅力」を、皆様にお伝えしていきます。

JA世田谷目黒「玉堤体験農園」

去年の春から、JA世田谷目黒の運営する玉堤体験農園で34組の皆さんと一緒に野菜づくりをしています。
この農業体験農園を例に、話を進めてまいります。

世田谷区は閑静な住宅街にありながら、東京23区の中でも都市農業が盛んで、81ヘクタール(東京ドーム17個分)の農地があり、およそ300軒の農家が先祖代々の土地を継承し耕しています。
1軒当たりの耕地面積はそれほど広くないため、世田谷産の野菜をスーパーで見かけることは滅多にありませんが、畑の一角で、採れたての野菜を直売する「庭先販売」をよく見かけます。

【農業体験農園とは?】
農家の畑を農家自ら運営する場合と、JAや企業などが委託を受けて運営するものがあり、利用者は年間を通して土づくり、種まき・苗植えから収穫までが体験できる農園です。
園主が栽培計画を立て、種や苗、道具なども準備して指導をしてくれるので、初心者でも野菜づくりが楽しめます。
一方、区画だけを貸す「市民農園」は、利用者は自分が育てたい野菜などを自由につくることができますが、すべてを自分でそろえることになります。

東京都の市民農園は422ヶ所あり(平成31年3月末現在)、利用料は年間5千~1万円が多いようです。
一方、農業体験農園は114ヶ所です。利用料が年間4~5万円の価格帯が多いようですが、エリアによっては利用料が高くなる場合もあるようです(玉堤体験農園は年間10万円)。

このほかにも、「農業公園」という形で市民が野菜づくりに参加できる仕組みもあります。

つくれば変わる!野菜の見方、地元愛

行動範囲が制限されたコロナ禍で、新鮮な野菜を販売している直売所や農園が、自宅の近所にあるありがたさを実感された方も多いのではないでしょうか。農園の豊かな自然に心が癒された方もいらっしゃるかもしれませんね。

「玉堤体験農園」では、JA世田谷目黒の協力のもと、農業体験農園を利用する20代から70代の方々34組にアンケートをとりました。(23人が回答)

このアンケートの中で、「なぜ農業体験農園を始めようと思ったのですか?」という問いに対して、一番多かった回答は「野菜づくりに興味があったから」(65%)でした。
この結果は、ちょっと意外でした。
わたしの予想では、「新鮮な野菜が食べられる」が一番多いと思っていたのですが、多くのみなさんは「自分でつくってみたかった」のだということがわかったのです。

続いて多かった回答に「新鮮な野菜が食べられる」が入り、「子どもに体験させたい」「去年もやって楽しかったから」との回答と、同列(43%)で並びました。

「わたしも、野菜を作りたい!」という思い。

農業体験農園利用後の感想は、「自分でつくったものは愛おしい」「農家の大変さがわかった」「畑に行く習慣から生活の軸ができた」「生のとうもろこしは、こんなに甘くて美味しいのか」「ご近所にお裾分けできる」「畑での会話も楽しい」「子どもや孫が喜んで手伝ようになった」「家族みんなでうちの野菜だよと言って食べる幸せ」「様々な人に出会える」「買った野菜でも農家の苦労を思うようになった」などなど。
みなさんの様々な思いを読んで、「つくる」という「体験」は、こんなにも「心を動かす」ものだったのかと、知ることができました。街に暮らす人たちは、野菜を買う「消費者」であるだけではなく、畑での農作業を「分かち合える人」であり、「耕す仲間」になりたかったのです。

都市農業が、市民にもたらす「役割」とは⁈

ここまで、玉堤体験農園でのお話をしてきました。

都市農業が市民にもたらす役割は、主に6つあります。(農林水産省HPより)
①新鮮な農産物の供給
②農業体験や交流の場
③災害時の防災空間
④環境の保全
⑤心安らぐ緑地空間
⑥農業への理解の醸成

新鮮な野菜の供給だけではなく、農園の存在自体がもたらす多様な恩恵も各所から指摘されています。

世界中で求められている「都市農業」

2019年、練馬区で「世界都市農業サミット」が開かれ、ニューヨーク、ロンドン、トロント、ジャカルタ、ソウルの6か国の都市農業のリーダーが集まったシンポジウムがありました。
世界では、貧困による栄養不足などの食と健康の格差、就職支援、福祉など、都市の課題解決に農業が役立つという報告がされたのです。
そこでのキーワードは、「コミュニティ農園」や「CSA(コミュニティがサポートする農業)」、「フードジャスティス(食の格差の是正)」という考え方で、生産を市民の手に、都市にこそ農業が必要だというのが、世界共通の認識です。
東京は大都市でありながら、農家も農園もあるのですから、わたしたちが、もっと連携しない手はありません。

農体験で「持続可能」な、「まち」に。

さて、都会で野菜を作る意義は、食料をすべて自給することではありません。
基本的に都市でのライフスタイルは、食べ物を買うのが当然です。
これは変わらないと思います。
では何なのかというと、東京での農体験は、「全国の本格農業(産地)への玄関口」であり、「豊かな農村や産地へ思いを馳せる心の扉」なのです。

また、昨今は「SDGs」や「脱プラスチック」「脱炭素」「食品ロスの削減」など、様々な地球環境問題に取り組まなければならない時代ですが、そうした環境に配慮した行動変容についても、農業体験をしていれば、お仕着せの知識や義務からではなく、自分のこととして理解することができます。
土に触れ、汗をかき、野菜の花を愛で、小さな虫の命を感じ、草むしりで無心になり、ストレスに晒されている心と体の緊張がほぐれていく心地よさを感じること。更に自分が育てた野菜を収穫するときの達成感。

こうした体験を重ねることで、わたしたちは「食べ物」「環境」「農業」に対する見方が変わるのだと思います。

農業体験農園が人々にもたらす変化をまとめてみました。

1.まず自分でつくる。
2.農業への敬意や感謝(消費一辺倒から脱却)。
3.街への愛着。
4.自分の役割、自己肯定感アップ、人生の充実となる。

つくる責任はつくる喜びとなり、「SDGs」の目標と重なります。
都会の農業体験農園は、どんな人にとっても「恵み」「喜び」「学び」をもたらす、誰も取り残さない居場所なのです。

『1億農ライフ』のスタートは、色々!
お住いの地域の農業体験農園、市民・区民農園、ベランダ菜園、小さなプランターにネギの根っこや、ニンジンや大根の葉の付いた切れ端を植えるだけでも構いません。

さあ、あなたも「TOKYO GROWN」を育む、「農ある暮らし」を始めましょう!

野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」

小谷 あゆみ/KOTANI AYUMI

世田谷の農業体験農園で野菜をつくるアナウンサー「ベジアナ」としてつくる喜び、農の多様な価値を発信。生産と消費のフェアな関係をめざして取材・講演活動
介護番組司会17年の経験から、老いを前向きな熟練ととらえ、農を軸に誰もが自分らしさを発揮できる「1億農ライフ」を提唱
農林水産省/世界農業遺産等専門家会議委員ほか
JA世田谷目黒 畑の力菜園部長
日本農業新聞ほかコラム連載中
NHKEテレ「認知症 ワンポイント介護」出演中

JA世田谷目黒「玉堤体験農園」

所在地
158-0087 東京都世田谷区玉堤2丁目5番  (東急大井町線 尾山台駅 徒歩15分) ※現在は区画が満員のため、募集をしておりません。 次年度は、区画に空きが出た場合のみ、HPにて告知・募集する予定です。
WEBサイト
https://www.ja-setame.or.jp/works/taikennouennsitu/setamefarm.html

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ベジアナが行く!「東京×カラフル×農業」

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