9月。東京の畑では、農作物の収穫が少なくなる『端境期(はざかいき)』を迎えています。
夏野菜の収穫も終盤に差し掛かり、秋冬野菜が本格的に出始めるまでのこの期間は、地元の農家さんの野菜を扱う私たちの直売所(しゅんかしゅんか、のーかる)の店頭を眺めてみても、野菜のラインナップが減り、少しさみしくなってしまうのが正直なところ。
そんな中でも、毎日お店に足を運んでくださるお客様をがっかりさせてしまうことのないよう、さまざまな工夫が必要です。

連載第四回となる今回は、この端境期に(いや、端境期だからこそ!)、スタッフやお店がどんな工夫や取り組みをしているのか少し紹介したいと思います。

端境期対策は一年かけて

エマリコくにたちで、日々農家さんへの発注調整や集荷業務を担当しているスタッフOさんに、端境期の工夫を聞いてみました。
「野菜が少なくなる端境期にだけ、「もっと出してほしい!」というのは言いたくないし、なかなか言えないですね。端境期にもなるべく積極的にうちの直売所に出してもらえるよう、繁忙期など逆に農家さんがたくさん出したい時に少し無理してでも頑張って数量を仕入れるようにするなどして、日々信頼関係を積み重ねることを大事にしています。」

農家さんと近い距離で接しているからこそ、お互いに気持ちよく関わり続けるために良い関係性を築くことは、私たちの事業にとって、とても大事なことです。
繁忙期には、複数のお店で分け合っても捌き切れないほどの量が出てくる野菜も中にはあります。そういう時には、期間限定のセールを行い、より多くのお客様に食べてもらうような工夫をするなど、農家さんに「これ以上仕入れられません」となるべく言わないよう、みんなで協力して販売します。そういう小さな取り組みの積み重ねが、いざ端境期を迎えた時に、農家さんとのやり取りに活きてくると感じています。

他地域の農家さんとも繋がる

直売所「しゅんかしゅんか」が開業して丸10年になりますが、開業当初と比べると、「売るものがない!」というような状態は少しずつ改善してきています。
それは、ひとつには、地元農家さんの取引軒数が増えたから。同じ国立市内であっても、農家さんごとに栽培品目も違うし、あえて作付けの時期を少しずらしてくださる農家さんもいらっしゃいます。
そしてもうひとつには、東京都外の農家さんとも繋がれるようになったから。
たとえば、このコラムが掲載される9月には、長野県産のリンゴが入荷スタート。お客様もスタッフも毎年楽しみにしている品種リレーが始まっていく時期です。
他にも、8月には山梨県産のトウモロコシがたくさん入荷しました。すでに地元産は終わってしまっていたタイミングで、「まだまだ暑いしおいしいトウモロコシが食べたい…」という方も多く、たいへん喜ばれました。

エマリコくにたちでは、普段から地元の農家さんとの直接的な繋がりを大切にしていますが、他地域の野菜を仕入れる時もそれは変わりません。
スタッフが産地まで赴き、農家さんと顔を合わせてお話を聞いたり、畑を見学したりして、きちんと背景を理解した上で販売を始めます。このように、他地域野菜であっても、顔が見える関係性を築きながら、農家さんのお名前やこだわりをお伝えしながらお客様へ販売することを心がけています。

実は、他地域の野菜を販売することについては、開業して最初の数年間はためらっていた部分もありました。地元野菜を販売するお店なのに、他地域の野菜をいろいろと扱うのはどうなんだろう?軸がブレてしまわないだろうか?という懸案があったからです。
今では、スタッフが自信を持って「これ、おいしいんですよ!」と言える野菜をお客様に届け喜んでもらえるのが一番だと信じています。

たまにひと休みしながら英気を養う

「繁忙期にたくさん働いた体を、意識的にすこし休ませます」というスタッフMさんも。
とにかく野菜を売って売りまくるぞ!と、忙しく汗をかいた夏を乗り越えてやってくる端境期。一年ごとに巡ってくる野菜の旬に合わせて、スタッフも自分の仕事を調整しながら、気持ちよく働けるためのペースづくりを意識しているようです。
また、「野菜を売る」ということの周辺にあるいろいろなことにじっくりと取り組めるのも、少し余裕の生まれる端境期ならでは。
あらためて自分たちのお店を俯瞰してみて、POPを綺麗に作り直したり、お店のモニターで流す動画を作成したり。他にも、農家さんのところへ援農(という名の下、しっかり農作業を教わる研修です)に行ったり、取り扱う加工食品メーカーさんのことを改めて勉強してみたり。
スタッフが自分自身の課題認識や興味関心に沿って過ごし方を工夫しながら、丁寧にスキルアップできる大事な時期でもあります。きっと、そういう時間を大切に過ごすことで、またお店にきてくださるお客様や、お世話になっている農家さんへ良い形で返っていくものだと思っています。

私たちの商売とは切っても切り離すことのできない『端境期』。
農家さんにとっては、秋冬野菜の植え付けをしたり畑の手入れをしたりと、次なるシーズンへ向けて準備をする大事な時期です。そんな農家さんたちが育てる野菜を扱う私たちも、なるべく似たリズムで、次の旬に向けて丁寧に準備をしていこう、とあらためて思うのでした。

※今回のコラムシリーズは、地域内流通に焦点を当て、株式会社エマリコくにたちの皆様に執筆を依頼しました。

株式会社エマリコくにたち

流通企画部 圓山めぐみ/MARUYAMA MEGUMI

株式会社エマリコくにたち

電話
042-505-7315
所在地
〒186-0004 東京都国立市中一丁目1番1号
WEBサイト
http://www.emalico.com/

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