東京農業の持続性を考え実践する農家たちの勉強会「みどり戦略TOKYO農業サロン」
今回たずねたのは八王子市由木地域。1964年に合併されるまでは由木村という自治体でした。1892年(明治25年)この地で酪農が始まったのが多摩地域における酪農の発祥とされ、その後も酪農が盛んな地域となりました。多摩ニュータウンの開発のなかでも農地を残すことを選択し、様々な活動をとおして都市農業の価値を伝えてきた地域でもあります。
今では牛の姿を見ることはなくなりましたが「ユギムラ牧場」として名を残し、若手農業者が育っていく場となっています。

農業を志す若者たちが集う会社

かつての牛舎の2階に事務所を構える㈱アンドファームユギ、代表の大神辰裕さんは福岡県糸島市の農家出身でありながら東京で新規就農し、弟の直樹さんと基本2名で会社を運営しています。
https://tokyogrown.jp/topics/?id=1149305

代表の大神辰裕さん

「最初は芸能界に関わっていこうと東京に出てきました。東京で農業しながら農業の面白さを伝えていく仕事ができたら、と思って実際に足を踏み入れたら、農業で手いっぱいでそれどころじゃなかったんですけど(笑)」
東京都農業会議から八王子での研修先を紹介され、そこで出会った舩木さん、伊藤さんと2013年に(株)フィオを設立します。

かつてのフィオメンバー、前列右端が大神さん

それぞれが新規就農などを目指しながら野菜を販売したり、まちづくりイベントに関わったりと手広く事業を展開し話題となり、一時は10名ほどのスタッフが関わっていました。
前代表の舩木さんから大神さんが代表を受け継ぎ、より農業生産に絞った経営に転換していこうということで2018年に社名を㈱アンドファームユギに変更、会社として農地も新たに借りて再スタートしました。
そういった一連の取組を支えてきたのがこの地で酪農を営んできていたユギムラ牧場の鈴木亨さんです。
体調を崩し酪農を続けるのが難しくなったタイミングで、農業を志す若者たちを受入れ応援し続けています。

牛がいなくなったあともユギムラ体験農園ではヤギを飼い続けている

都内では珍しいロータリー式堆肥製造施設

酪農は引退したものの、牛糞堆肥をつくる施設はいまも稼働し続けています。
1990年代から堆肥を製造する施設が全国的に整備されましたが、東京ではここまで大規模な堆肥製造施設は珍しく、私は他では見たことがありません。20mほどの堆肥製造レーンをスクリューのようなロータリーが回転しながら家畜糞をかき混ぜ、前後移動して発酵を促進、ほぼ自動で堆肥化することができます。
今も同じ八王子市の磯沼ミルクファームの牛糞を受入れ、堆肥化し近隣の農家などに販売しています。大神さんたちも当初はこの堆肥のみで野菜をつくっていました。

写真中央のロータリーが回転しながら前後に移動して堆肥をかき混ぜる

「最初から農薬も化学肥料も使わずに堆肥のみで野菜を作ってきたということもあり、アンドファームユギとなってからは有機JASの認証をとっていこうと考えるようになりました。以前は飲食店や自前の直売所、宅配など小口の販売が多かったのですが、最近では卸会社への販売も広がってきており、そうなるとやはり認証をとったほうが強みをだせるかなと。」
大神さんは3年ほどかけて有機JAS適合の肥料や堆肥も仕入れて生産性をあげていくことに注力、2023年の秋から正式に総面積1.1haすべてが「有機JAS圃(ほ)場」ということになる予定です。
「最初は舩木(F)伊藤(I)大神(O)の3名で作ったからFIO(フィオ)だったのですが社名を変えてからも『FIO野菜』というブランドは残しています。いまでは新鮮(Fresh)誠実(Integrity)有機(Organic)の頭文字ということにしています。」(大神さん)
2023年春には鈴木さんから借りた農地に7.2m×40mサイズのビニールハウスも2棟新設して果菜類の長期栽培にも挑戦、今まで以上に生産性を伸ばしていくことを目標に掲げています。

建築中のビニールハウス

有機JASとコミュニティ型のCSAの複合経営を目指す

2000年代のはじめに改正JAS(日本農林規格)法によりはじまった有機JAS認証は、いまだに全国の農地面積の0.3%ほどまでしか広がっていません。
実質的に有機農業的な管理をしている農家はもっといるのですが、認証が進まない理由として、毎年提出しなければならない報告書や審査など認証にかかる事務コスト、認証を示すシールなどの管理コストのわりに、それを価格に転嫁して強気の販売価格をつけるのがなかなか難しいという点があります。

しかし、本来「有機農産物」を名乗っていいのは、この認証をとった圃場で生産され適正に流通されたもののみ。より広い販売先を視野において有機農産物を流通させていきたいと考えた場合には有機JASは十分に有効であると大神さんは考えました。
「せっかく住宅が近くに数多くある東京で農業をやっているのですから、直売ですべて売り切れるのが理想だなと、今でもどこかで思っています。自前の直売所を運営したこともあるのですが、そこに割ける人員の確保が難しく、実際にはやはり売れ残ってしまうのが現状です。手堅くまとまった量を出荷できる先を確保するために、全面的に有機JAS圃場にしようと判断しました。」
一方で、この地で農業に取り組んで10年間、地場で支え続けてくれた消費者との関係性も深めていきたいと考えています。
アンドファームユギとしてのCSA(地域支援型農業)も2022年から会員制でスタートしました。会員と一緒にサツマイモなどを栽培して、生産物の一部は会員でシェアするという仕組みです。

「将来的には、『野菜セット』を利用いただいているお客様に、野菜づくりに参加してもらえる環境を整え、生産者と消費者の距離を今以上に縮めていけたらと考えています。」
大神さんは、有機農産物の地場流通と広域流通の2本立てで、より経営を安定化させていきたいと考えています。

このユギムラ牧場からは大神さんをふくめ総勢5名の新規就農者が生まれています。
かつての酪農施設を活かし、地域との縁をつなぐ鈴木さんの取組が、それぞれが独立していく推進力となっていったのは間違いないことでしょう。
多摩酪農発祥の地は、形を変えながらも、かつての由木村の景観と農業を通して生活を豊かにしていく文化を継いでいるのだと感じました。

東京各地から勉強会に参加した農業者たち、前列左から2人目が園主の鈴木亨さん

㈱農天気 代表取締役  NPO法人くにたち農園の会 理事長

小野 淳/ONO ATUSHI

1974年生まれ。神奈川県横須賀市出身。TV番組ディレクターとして環境問題番組「素敵な宇宙船地球号」などを制作。30歳で農業に転職、農業生産法人にて有機JAS農業や流通、貸農園の運営などに携わったのち2014年(株)農天気設立。
東京国立市のコミュニティ農園「くにたち はたけんぼ」「子育て古民家つちのこや」「ゲストハウスここたまや」などを拠点に忍者体験・畑婚活・食農観光など幅広い農サービスを提供。
2020年にはNPO法人として認定こども園「国立富士見台団地 風の子」を開設。
NHK「菜園ライフ」監修・実演 
著書に「都市農業必携ガイド」(農文協)「新・いまこそ農業」「東京農業クリエイターズ」「食と農のプチ起業」(イカロス出版)

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『みどり戦略 TOKYO農業サロン』

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