8月下旬、猛暑が残るなか、国立市の住宅街に囲まれた小さな農園で賑やかに堆肥づくりに励む面々がいました。
 落ち葉を運んで積みあげ、もみ殻、米ぬか、赤土と分量を量りながら混ぜ込んでいきます。
あちこちで農業談議が飛び交い、汗まみれになりながらも実に楽しそうなうえ、身のこなしもこなれた様子。それもそのはず、彼らのほとんどが現役バリバリ、それぞれが特色のある農業で注目を集めている東京の農家たちなのです。
  彼らが集う『みどり戦略 TOKYO農業サロン』の目的は「東京の資源循環」そして「農業者による東京の魅力向上」です。
この会の運営にあたっている、私、㈱農天気の小野がその様子を連載でお伝えしていきます。

“東京の魅力を向上”させるために、農業者ができること

 この会の正式名称は『みどり戦略 TOKYO農業サロン』と、あえて硬派にしています。
農林水産省の「都市農業機能発揮モデル事業」の助成を受けて開催されていることもあって、昨年公表された「みどりの食料システム戦略」(2050年のカーボンニュートラル実現を目標に、農薬、化学肥料の削減などの数値目標を定めた計画)を念頭に置いています。
東京農業として日本の食の安全保障にどのように応えていくのかも大きな課題です。

「東京の魅力向上」というのはすこし大風呂敷な印象を受けるかもしれませんが、もちろん本気です。
 日本一の消費地であり、世界都市としても名が通っている「TOKYO」は果たしてどんな都市だと思われているのか?
それは検索エンジンで「TOKYO」と打ち込んで画像検索してみると明らかです。
まずは高層ビルとその向こうに見える富士山、あとは渋谷や新宿のネオン街と、浅草、上野などの寺、そして東京スカイツリーです。
コンクリートとネオンで不夜城と化した大都会のなかに、300年以上続く農家がいまも残っていて、多種多様な農業を営んでいることなどほぼ誰も想像しないでしょう。

 一方で、世界の大都市では「アーバンファーミング」が注目されています。
人口密集地ならではの社会環境の悪化や、気候変動への悪影響を食い止めるための防波堤として街路樹や公園の緑だけではなく、農的な空間を創出してコミュニティで支えるという動きが広がっているのです。
 

 世界の都市が農的空間の創出に取り組む中、日本においては都心近くにも農家がいて、東京のまちなかに農地があるのは珍しい風景ではありません。
東京23区のうち11区には、いまだに農家が農業を営む農地があって、多摩地域ともなればまちの面積の5~10%は江戸時代もしくはそれ以前から続く農地なのです。
そして東京で新規就農する若い世代も続々と誕生しています。
 この土地、文化、人的資源を活かすことができれば、東京は間違いなく、もっと暮らしやすく、魅力的な都市となるはず。
その仮説を実践、検証していくのがこのプロジェクトの大きな目的です。

 参加しているのはみな東京の農家ですが、それぞれの本拠地が東は目黒区(目黒区にも農家がいます)から西は青梅市、北は西東京市、南は町田市というように実に広域です。さらに加えると千代田区霞が関からも農林水産省の職員が参加して一緒に汗を流していたのでした。

農産物を食材として売るだけでは続かない

 2015年に「都市農業振興基本法」という法律ができてから、「都市農業」「東京農業」という言葉も随分と定着してきました。
 各地で開かれるイベントでの直売やスーパーでの地場野菜コーナー、あるいはJAの直売所などで東京産の農産物を見かけることも珍しくはありません。しかし、それでも東京の農地は減り続けており、2015年には東京全体で7,130haだったのが2021年には6,410haと、たったの6年で10%も減少しています。
 農地を宅地に代えて、新築戸建てやマンション開発あるいは駐車場として運用する流れは続き、一方で空き家が増え続けているというのが東京の現状です。
東京農業をPRはできていても、現状としては東京の農地は、価値が低いとみなされていることは統計上明らかです。

 もちろん、ことはそう単純ではなく、全く生産に力を入れず、ただ耕されて更地のようになっている農地、雑草が生え放題になっている農地もあります。
これでは「いまある農地すら使いきれていないじゃないか」という指摘も、もっともです。
 農業生産と販売で生計を成り立たせるまでの収入を得るのは、容易ではありません。
今までのように、農地所有者である農家が農地管理のほとんどを担い、宅地転用後の用途まで判断するという仕組み自体が限界をむかえていると言えるでしょう。
市民や地域を巻き込んだ魅力的なモデルをつくることで、都市農業を支えているのは農家だけではないという気運が高まるはずです。
 そのためには、東京農業の未来を積極的に担っていこうという農業者同士の実践を伴った連携、そして消費者、行政との関係性も新たに築いていく必要があると思うのです。

「都市」と「農家」の、新たな関係づくりを目指す。

 新たな連携づくりが、「堆肥づくり」とどうつながるの?という事について説明します。
 農家が作り、消費者が購入する。というだけではない関係づくりこそが、これからの東京農業が目指す方向だと考えます。
例えば、「援農ボランティア制度」などを活用して農家の手伝いをしたり、まちづくりの中に農的なもの組み込んだりということが徐々に広がっていますが、もっと、日常的で根本的な「モノ」や「コト」の“相互循環”を、「農業者」と「消費者」でつくっていけないものでしょうか?

 ヒントになるのは、江戸時代から昭和30年代まで続いていた、都市住民の排泄物、ごみの畑への還元です。
 農家が野菜を売りに行った帰りに、「下肥」という糞尿を持って帰ってくるというのは一般的なことでした。また、残飯などの生ごみをつかって豚や鶏を育てるということも1960年代までは続いていました。
 今ではさすがに衛生上の問題などで難しいですが、東京で日々生まれている生ごみ、食品加工場などで生じる廃棄物の量は膨大です。これらの多くが大量に水分を含みながら「燃えるごみ」としてエネルギーを使って処理されていることは環境負荷の観点からも大きな損失です。

 今回の堆肥づくりで使っている原料は、団地の清掃で集まった落ち葉、多摩地域の酒造メーカーの米糠、稲作のもみ殻、残土捨て場からもらってきた赤土というように、どれも近隣から入手したものです。
 国立市のNPOくにたち農園の会では、こうやってつくられた堆肥のみで東京の環境負荷を少しでも軽減し、約2,000㎡の米作りに活用し、“資源循環”を通じて「地域のコミュニティづくり」に取り組んでいます。

 ということで、今回は事業の目的・真意について語らせていただきました。
次回は、この取り組みのアドバイザーでもある、三鷹市の「鴨志田農園」の堆肥づくりの具体的な方法をご紹介させていただきます。

今回の参加者

▼ 参加生産者数 10名

▼ ゲスト講師
  鴨志田農園 鴨志田純さん(三鷹市)
  NPO法人くにたち農園の会 武藤芳暉(国立市)

【参考文献】
 2022年9月に出版された「まちを変える都市型農園」(新保奈穂美著 学生出版社)
 ※ 都市における農的空間がどんな役割を果たしているのか、歴史的背景から最新の事例などについて参考になります。

㈱農天気 代表取締役  NPO法人くにたち農園の会 理事長

小野 淳/ONO ATUSHI

1974年生まれ。神奈川県横須賀市出身。TV番組ディレクターとして環境問題番組「素敵な宇宙船地球号」などを制作。30歳で農業に転職、農業生産法人にて有機JAS農業や流通、貸農園の運営などに携わったのち2014年(株)農天気設立。
東京国立市のコミュニティ農園「くにたち はたけんぼ」「子育て古民家つちのこや」「ゲストハウスここたまや」などを拠点に忍者体験・畑婚活・食農観光など幅広い農サービスを提供。
2020年にはNPO法人として認定こども園「国立富士見台団地 風の子」を開設。
NHK「菜園ライフ」監修・実演 
著書に「都市農業必携ガイド」(農文協)「新・いまこそ農業」「東京農業クリエイターズ」「食と農のプチ起業」(イカロス出版)

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